少女Aからの電話(番外編)
この番外編は、和志とあかりが付き合うことになった時の、愛美目線の話です。
その日の夜、私の携帯電話に着信があった。
あかりからの電話だった。
その時の私には、予感めいたものがあった。
『もしもし、あかり?何かあった?』
私は、いつも通りにあかりからの電話に出たつもり。
『ちょっと愛美に話があるんだけど…、今、大丈夫…?』
あかりの口振りから、間違いないと思った。
『大丈夫だよ。どうしたの?』
『…、えーと…、今日…、カズ君に…、告られた…。』
やっぱりね…。
『そ、そう、良かったね!付き合うことになったんだ!おめでとう!』
精一杯明るく祝福したつもり。
『ありがとう…。それで…、愛美には一番に報告しようと思って…、それで…。』
『もしかして、私のこと気にしてる?私は大丈夫だから、気にしなくていいのに。』
分かっていたことなのに、私はショックを受けていた。
でも、あかりには絶対に悟られてはいけない。
『うん…、でも…、ごめんね…。』
『だから、謝らなくていいってば。きっと、二人はこうなる運命だったんだから。』
あかりにとって、和志は運命の人。
和志にとっても…。
和志の運命の人は、私ではない…。
『ありがとう…。』
あかりはそう呟くように言うと、黙ってしまった。
『…ねぇ、あかりに聞きたいことがあるんだけど…。』
『…何?』
『今の話、まだ誰にも言ってないんだよね?』
『うん、そうだけど?』
『良かった!あかりが一番に私に報告してくれて。』
『どういうこと?』
『だって、こういう話は仲のいい友達に言うものでしょ?それで、一番目が私っていうことが凄く嬉しい!』
『言っている意味がよく分からないんだけど?』
私の言いたいことはあかりに上手く伝わらない。
いつものあかりなら、すぐに気付いてくれるようなことなのに。
『私がね、あかりのことを親友だと思ってもいいのか!ってこと。』
『勿論、愛美がそう思ってくれるなら、私も嬉しい…。』
『私に話し掛けないで!って言ってた頃のあかりが懐かしいよ。』
『あっ、あの時の私は…、一体、何様のつもりだったんだろう、ホントにごめん!』
『もー、謝らないでって言ってるでしょ!』
『うん…。今日…、私…、彼氏と親友が一緒に出来ちゃった…。』
『それではあかりに、彼氏が出来た時の話を、じっくり聞くとしようか。』
『今から?』
『勿論!』
『それは、言わないとダメ?』
『当たり前でしょ!親友なんだから。』
あかりとの長電話が終わると、私はやっぱり泣いてしまった。
あかりと話してる最中は、平気だったんだけどなぁ…。
その日、私は和志のことで泣くのは、今日で最後にしようと決意する。
明日、和志の前で、上手く笑えるかなぁ…。
そんなことを考えながら眠りについた。
次の日、あかりには涙の跡に気付かれてしまったが、和志には今まで通り接することが出来た。
私はもう大丈夫。
私の運命の人を探しに行かないといけないから…、なーんてね。
私と和志は七年間。
あかりと和志は、子供の頃に一年弱、高校では、わずか数ヶ月。
私の方が圧倒的に付き合いが長い。
それなのに、和志はあかりを選んだ。
ということは、そうなる運命だったに違いない。
私は、あかりと和志の間に置かれた、ちょっとした障害物に過ぎないのかも知れない。
でも私は、その役目を恨んではいない。
和志という存在を通して、あかりという親友を手に入れることが出来たから。
仮に、私と和志が恋人同士だった場合でも、後から現れたあかりに、和志は惹かれていっただろう。
その場合、私とあかりの関係はもっと複雑になり、親友にはなれなかったかも知れない。
そう考えると、私は選択を間違えてはいなかったと言えるだろう。
あかりと和志にはいたのだから、私にも運命の人がきっといるはず。
和志ではない、他の誰かが…。
それを探しに行かなくては。