十年後の少女A(最終話)
「結婚の約束までしたのに、再会した時はすっかり忘れてたのよ。酷い男でしょ?」
「でも、そこが義兄さんらしいけどね。」
平穏な休日の昼下がり、居眠りをしてしまった僕は、妻の話し声で目を覚ます。
もうすぐ、子供が生まれる妻の様子を見に来た義妹と、話をしている彼女。
どうやら、僕達の出会いについて話しているようだ。
少し気まずい僕は、寝た振りを続けることにした。
彼女は、今でもそのことをネタに、僕を責めるからだ。
「お姉ちゃんは、義兄さんのどこを好きになったの?」
それは、僕も興味がある。
僕が聞いても、いつもはぐらかされてしまうから。
「…小さい頃のことは覚えてないけど…、高校生の時は…、何か変な奴だったのよ。」
変な奴って…。
「何それ!もう少し詳しく教えてよ!」
「えーとね…、いつも『メンドくさい』って言ってるのに、周りから凄い頼りにされてて、頼まれたことに『嫌だ』って言わないのよ。」
「それは確かに、変な奴だ!」
「それなのに、本人は自分のことを普通だと思っていることが、可笑しくて…。それだけが理由じゃないけど、これ以上は、ほのかにも秘密。」
肝心なところは、やはり聞けず…。
「何でよー!でも、初恋の人と結婚出来たお姉ちゃんが羨ましい。」
「そうかな…?ほのかの初恋はいつだった?」
「私は五歳の時。」
「相手のことは覚えてるの?」
「覚えてるも何も、相手は義兄さんだから。」
「えっ!」
僕も、声を出しそうになったが、辛うじて抑えることが出来た。
今年、高校生になった義妹は、高校生当時の妻にそっくりだ。
勿論、どうこうするつもりは毛頭ないが。
「義兄さんには内緒だよ。」
「…でも、あそこで寝た振りしている男は、今の話、聞いてたかも知れないよ。」
「…!」
相変わらず勘のいい奴だ!
突然、僕の前に現れた『少女A』は、僕の平穏だった日常を騒がせた。
僕は彼女に惹かれ、恋をした。
そしてあの日、恋人同士になった後は、彼女がいる日常が平穏な日常になった。
三学期になると、隣同士だった席は離れてしまう。
二年生になると、クラスも別れてしまう。
大学も、別々のところに進学する。
でも、僕達はずっと恋人同士だった。
十年以上も、音信不通だったことを考えれば、ほんの些細なことに過ぎなかった。
連絡は取れるし、お互いを愛しいという気持ちがあったから。
幼い頃、偶然出会った僕達は、しばしの別れを経て、高校で再会する。
きっかけはどうであれ、お互いに惹かれ合い、恋人になる。
当たり前のように、一緒にいるようになった僕達は、お互い初めて同士のセックスをした。
大人になった僕達は、当たり前のように結婚し、幼い頃の約束を果たす。
もう少しすれば新しい家族も増え、僕の周りはまた騒がしくなるだろう。
いつの日か、それも僕達の日常の一部になり、それが平穏な日常になる。
お互い歳を取り、どちらかが人生の最後を迎えることになった時、隣にいることが出来れば、又は隣にいてくれれば、これに勝る幸せはない。
とある少年と少女は恋をして、恋人同士になり、結婚をする。
そんな何処にでもあるような恋の話。
少女Aと僕の日常には、どんな未来が待っているのだろう。
完
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。これで本編は完結です。
最終話のあとがきを使って、登場人物について補足説明をしようかと思います。
興味のない人は読み飛ばしで。
(武田和志)
本編の主人公。
性格については本編で色々説明がありますが、容姿については説明をしていませんでしたが…。
設定上は、イケメンの部類に入るでしょう。しかも、かなりモテます。
数々のフラグには、ほとんど気付きませんが、肝心な所は逃さない、変わった奴です。
(青島あかり)
本編のヒロイン。
当初は、ツンツンしたキャラでしたが、途中から路線変更しました。
ちょっとキャラがブレてしまった印象です。
容姿は登場した女の子の中では一番可愛い設定ですが、本人は容姿にあまり自信がないようです。
勘が鋭く、行動力があります。意外に、思っていることは、はっきり言います。
(高橋愛美)
和志の幼なじみ。
和志に振り向いてもらう為に、涙ぐましい努力をしますが、鈍感な彼には全く気付いてもらえません。
お喋りな奴ですが、肝心な所は表に出さず、行動力も有りません。
そこが、あかりとの決定的な差です。
(青島ほのか)
あかりの妹。
物語上、意外に重要人物です。
容姿はあかりや母親と似ていますが、性格は母親似で、あかりとは似ていません。あかりは父親似なのでしょう。
(山本純子)
女子のクラス委員。
容姿端麗、頭脳明晰のスーパーガールですが、恋愛方面はあまり興味が有りません。
和志同様、空気を読む術に長けています。
和志とあかりの関係に重要な役割を果たしています。
(水野健司)
和志の友人。愛美が好き。
当初はもっと暴れてもらう予定でしたが、出番はほとんどなく、中途半端なキャラです。
(河合沙織)
愛美の友人。
自分が一番だと思っているプライドの高い女の子。
容姿はあかりと同等レベルの美人ですが、あの性格では…。
皆さんも友達はちゃんと選びましょう。
ちなみに、和志のことが好きですが、彼が自分に少しも興味を示してくれないので、腹が立ってます。
(和志の母)
平凡な主婦。
適当な性格なので、和志を混乱させることが多々有り。
あかりの母親のことは覚えていましたが、連絡はしていなかった模様。
(あかりの母)
子供二人を、女手一つで育てる決意をした行動力のある女性。彼女の行動力は、娘達にも受け継がれています。
苦労を感じさせない明るさが有ります。
家のことをやってくれるあかりには感謝しています。
あかりを信頼しており、あかりが選んだ和志なら間違いないと思っています。
以上、人物紹介でした。
あとは、番外編もあるので、良かったら読んで下さい。