少女Aのつぶやき
今回は、『少女A』こと青島あかりが一人で呟いています。
彼にはどこか不思議な力がある。
彼に関わった人は、自然と彼に惹かれ、彼の周りに集まってくる、そんな力が…。
心を閉ざしていた私も、気が付いたら、彼を中心に出来る輪の中にいた。
そんな彼に、惹かれていく私がいた。
彼はいつも飄々としている。
感情が表にあまり出ないから、考えていることは分かりづらい。
『メンドくさい』が口癖だが、面倒見は良く頼まれたことを断らない。
しかも行動力はズバ抜けており、彼に頼めば大抵のことは解決してしまう。
私自身も、『彼が解決したことの一つ』なのかも知れない。
そんな彼だからこそ、私は惹かれた。
彼との出会いは、私がまだ三歳ぐらいだった頃。
一人で公園で遊んでいた私に、彼は一緒に遊ぼうと声を掛けてきた。
なんとなくうなずいた私。
それ以来、彼と毎日一緒に遊んだ。
彼といるのが、凄く楽しくて。
雨の日でも、公園に行こうと駄々をこねたこともある…らしい…。
とにかく彼と一緒にいたかった。
彼とずっと一緒にいる方法を母に聞くと、大きくなったら結婚すればいいと言われた私は、すぐに実行に移す。
「大きくなったら私と結婚してくれる?」
「うん、いいよ。」
と彼は答えてくれた。
そんな私達だったが、私が引っ越してしまった為、離ればなれになってしまった。
その後も、彼のことはずっと覚えていたが、少し成長した私は、もう会うことはないだろうということを悟った。
私が少し大きくなると、妹が生まれる。
その頃から、何故か両親の仲がギクシャクし始め、家の中から笑いが消えていった。
原因は、まだ子供だった私には分からない。
私は少しずつ心を閉ざし始めたが、せめて妹の前では明るく振る舞おうと努力し、一生懸命面倒を見た。
幸い、妹は明るく元気に育ってくれたが、私の限界も近付いていく。
父親は外に女を作り、家に寄り付かなくなっていく。
そんな父親を見ていた私は、男の人が信じられなくなり始め、高校は女子高を選んだ。
高校に入学すると、両親の離婚は決定的となり、母は住む所と仕事を探し始める。
母は、私達が以前住んでいた街に、昔のつてで仕事と住居を見つけた。
私には、転校せず、父親と暮らす選択肢もあったが、迷わず母に付いて行くことを決めた。
好きだから母と結婚したはずなのに、他に女を作る父親が理解出来なかったから。
好きなのに、離ればなれになってしまうこともあるのに…。
そして、両親の離婚、引っ越し、転校のストレスで私の心は限界に達し、髪を染めて意気がったり、友人達との連絡を断ったりした。
家族以外の周囲に、心を閉ざした…。
転校先に、今の高校を選んだことに深い意味はない。
新しい街に女子高はなく、遠距離を通学するのは馬鹿らしかったから、その街にある共学の進学校を選んだ。
母の母校ということも決め手になった。
今の街に戻ってきた時、小さい頃、一緒に遊んでいた彼を思い出した。
でも、向こうは覚えていないかも知れないし、街で偶然会っても、お互い気付かないだろうと思っていた。
新しい環境で、心機一転頑張ろうという気にはなれず、その年の夏休みは色々な手続きもあり、無意味に過ぎていった。
二学期の始業式は特に感慨もなく迎え、これからの高校生活は憂鬱だった。
…が、しかし…。
転校初日、彼を見つけた。
初恋の彼を…。
彼と目が合った時は驚いた。
彼は、私が想像していた通りの高校生に成長していた。
昔の面影を残し、名前も一緒。
間違いないと思った。
その日、彼が気になった私は、こっそり後をつける。
私と一緒の駅で降りれば、間違いなく、初恋の彼だろうと思った。
しかし、ストーカーまがいの行為をした私は、すぐに後悔する。
彼の隣に、『彼女』らしき存在を見つけてしまったからだ。
その彼女の様子から、彼が好きということが伝わってきたから…。
次の日、声を掛けてきたその彼女に、私は嫉妬から酷い態度をとってしまう。
こともあろうに、彼の目の前で…。
当然のように私は孤立し、彼にも嫌われたと思っていた。
その頃の私は、それでいいと思っていたし、彼に嫌われたとしても、彼が私のことを覚えていなければ意味がないと思った。
『彼女』もいるようだし…。
しかし、彼は私に声を掛けてくる。
大方、誰かに言われたからだと思った。
どうせ、みんなと仲良くしろと言われると思った。
ところが彼は、前の学校に友達はいたかと聞いてくる。
そんな彼の真意は何なのか気になったが、適当に切り上げようと私は思っていた。
それでも彼は、『彼女』からの誘いを断ってまで食い下がってくる。
彼の中に、芯の強さらしきものを感じた。
腫れ物に触るような感じで接してきた彼は、付き合っている女の子の存在は否定したが、私のことを覚えている素振りはない。
思い切って私は、彼との思い出の場所に誘ってみる。
断る余地を与えないように…。
彼とのファーストキスの場所に…。
彼が、何か覚えているかも知れないし、思い出してくれるかも知れないと思ったから…。
結局、彼は何も覚えていなかったし、何も思い出さなかった。
しかし私は、その時、あることに気付く。
家族以外に、最近は見せていなかった笑顔を、彼に見せていたのだ。
彼の前では自然に笑うことが出来ていた。
彼の前では心を閉ざした私はいなかった。
気が付くと、彼を中心に出来る輪の中に自分がおり、周囲とも自然に打ち解けていった。
この頃、私は彼が好きだということを自覚する。
初恋の彼かどうかは関係なく、目の前にいる彼が好きだということを…。
好きだということを自覚すると、彼が誰を好きかということが気になる。
多分、私ではないと思っていたから…。
私には心当たりが二人いた。
一人目は、私が『彼女』だと勘違いした幼なじみの女の子。
彼は否定するが、その女の子は、間違いなく彼のことが好きだと思っていた。
だから、何かの拍子に彼の気持ちが傾くかも知れないと思い、気が気じゃなかった。
私自身が『彼女』でもないのに、知らず知らずの内に彼を独占してしまい、その子を怒らせてしまった。
二人目は、クラス委員の女の子。
頭がいいのに、それを鼻に掛けることもなく、誰にでも平等に優しい女の子。
可愛くて優しい上に、その子の言葉には説得力があり、正直、かなわないと思った。
唯一の救いは、その子の気持ちが彼には向いていないことだけだった。
それから私は、彼を振り向かせようと、色々なアプローチを仕掛ける。
他の子に取られないように…。
ところが彼は、私のアプローチにことごとく気付かない。
周りの空気はしっかり読むくせに、自分自身のことは全てスルーしてしまう彼。
好きでもないのに、一緒に登下校したり、家に呼んだりするわけがないだろ!と思い腹も立った。
痺れを切らした私は、大きな賭けに出る。
これでダメならもう無理だというほどの覚悟だった。
成功すれば、彼は昔を思い出してくれるかも知れないし、私の気持ちに気付いてくれるかも知れない。
幼い私が、彼にプロポーズした場所…。
子供時代の私達が、結婚の約束をした場所…。
そこに彼と二人きりで行くことにした。
前回は妹を利用したが、今回は自力で何とかしようとした。
その日の彼は、朝からソワソワ落ち着きがなかった。
そんな彼に、私は少し期待をする。
その場所で、彼は何かを思い出したが、私が期待した言葉は出てこない。
ただ、彼の気持ちは私には届いてきた。
おそらく、彼も私のことが好きだということが…。
そうと分かれば焦ることはない。
彼が告白してくれるのを待つだけではなく、私から告白してもいいんだから。
後日、作戦を練り直そうとした。
その場で覚悟を決める勇気はなかったから…。
まだ私の思い違いの可能性もあったから…。
その日の帰り道、彼は朝より更にソワソワしていた。
もしかして…、という考えが何度も頭をよぎる。
そして…、ついに…。
彼の言葉を聞いている内に、何故だか涙がこぼれそうになった。
必死で堪えていたが、彼に、『好きだ』と言われた時には、もう堪え切れなかった。
いっぱいいっぱいの彼の様子は、おかしかったし、たまらなく愛しかったから私は…。
…私達は、恋人同士になることが出来た。
彼の前に、十数年振りに現れた私は、彼の周囲を大きく騒がせてしまった。
彼の幼なじみの女の子には、非常に申し訳なく思った。
彼女には一番に報告し、謝らなければならないと思った。
彼女は私におめでとうと言ってくれる。
私のことは気にしないでと言ってくれる。
こうなる運命だったんだよと…。
「あなたは運命を信じますか?」
と聞かれたら、
「はい。」
と私は答えるだろう。
私と彼の出会いは、運命としか言い様がないようなものだったから。
どこか一つでも違っていたら、恋人同士になることは出来ていない。
再会することも、出会うことすらも…。
私が転校して来なかったら…。
両親が離婚しなかったら…。
あの日、彼が声を掛けてこなかったら…。
あの日、私が公園に行かなかったら…。
私達が生まれなかったら…。
全ては運命の名のもとに、最初から決まっていたことかも知れない。
私達はその都度、選択を間違えることなくたどり着いた。
この先私達は、再び離ればなれになることがあるかも知れない。
でも、少し大人になった私達にとっては、些細なことに違いない。
お互いが愛しいという気持ちさえあれば…。
今、私が言えることは、彼が好きだということ。
どうしようもなく、大好きだということ。
他の誰よりも…。
世界で一番、彼が好き!