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愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜  作者: 蒼井美紗


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21、エルベルトの得意な魔法

 研究室の作業机の上に魔道具を置き、カトリーヌが改良方針を考え始めたところで、エルベルトは居住まいを正すと緊張の面持ちで口を開いた。


「カトリーヌ」

「はい」


 今までと少し違う声音に、カトリーヌは魔道具から顔を上げる。


「一つ頼みがあるのだが、この魔道具を妹のためだけでなく……俺のためにも作ってもらえないだろうか」


 エルベルトの頼みは全くの予想外なもので、カトリーヌはパチパチと瞬きを繰り返してから首を傾げた。


「それはもちろん構いませんが、エルベルト様は魔法を使われた方が便利なのでは……」


 純粋な疑問に、エルベルトはフッと自嘲するような笑みを浮かべ、自らの両手に視線を落とす。


 少しの沈黙が研究室を満たし、エルベルトの声が空気を震わせた。


「最初の時に少し言ったと思うが、俺は攻撃魔法を筆頭に、高出力の魔法を発現させるのが苦手なんだ。移動するための魔法はそこまで苦手ではないが、速く移動したいときなどに魔道具があれば楽になるだろう。――竜族として、情けない話なのだが」


 そこまで告げたエルベルトに、カトリーヌは首をブンブンと横に振った。


「情けないなんて、そんなこと思いません。わたしの作る魔道具が助けになるのであれば、とても嬉しいです」


 本心からそう告げたカトリーヌに、エルベルトの頬は緩む。


「ありがとう、カトリーヌ」


 手のひらを上向けて前に突き出したエルベルトは、そこに水魔法で可愛らしい花を作った。


「こういう細かい魔法はむしろ得意なのだが、こんなことができても意味はないからな……」


 手のひらの花は次第に花束へと変わっていき、さらには美しいアクセサリー、リボン、さらにはドレスまで形作った。


 ここまで繊細な魔法操作は、竜族の中でも一握りの者にしかできない。最後にラビットになった水の塊は、エルベルトの手のひらからぴょんっと飛び降りて、作業机の上を飛び跳ねて回った。


 最後にスッと消えたところで、カトリーヌは頬を紅潮させて立ち上がる。


「す、凄いです! ずっと見ていたい可愛さでした!」


 思わず大きな声が出てしまった。


 面食らったような表情のエルベルトに気づき、すぐ座り直す。


「あ、申し訳ございません……」


 興奮して我を忘れてしまったことを恥じながら俯いていると、エルベルトが「ふはっ」と嬉しそうに破顔した。


「いや、そんなに喜んでもらえるとは思わず、驚いてしまっただけだ。ありがとう」

「お礼を言われるようなことじゃ……先ほどの魔法には誰でも魅了されると思います」

「そうなのだろうか。俺としてはあまり役に立たない魔法だと思っているのだが……先ほどの魔法を使えなくても困らないが、攻撃魔法が苦手なのは困るだろう?」


 エルベルトは高出力の魔法を苦手としていることが、コンプレックスなのかもしれない。そう感じたカトリーヌは、力強く首を横に振った。


「そんなこと絶対にありません! 先ほどの魔法は人々の気持ちを明るく前向きにします。それはとても重要なことです」


 カトリーヌの力説に、エルベルトはパチパチと目を瞬かせる。


「確かに、そういう側面はあるだろうが……」

「はい! それからあんなにも繊細な魔法の行使ができるのであれば、たくさんの応用ができるのではないでしょうか。例えば魔道具の内部構造に使う特殊な紙の一部だけに薬品を塗布したり、繊細な構造の魔道具を壊すことなく綺麗に掃除したり、毛皮の素材処理で皮に熱の影響を与えずに毛を焼いたり!」


 カトリーヌは魔道具製作にエルベルトの魔法がどれほど有用なのかという思考になってしまい、前のめりで早口に告げた。


 稀に見る積極的で無邪気で楽しそうなカトリーヌに、エルベルトは驚いた様子を見せながらも、嬉しそうに口角を上げる。


「カトリーヌは、本当に魔道具が好きなのだな」


 その言葉で自分が暴走していることに気づいたカトリーヌは、ハッと我に返った。


「た、大変申し訳ございません……っ」

「いや、先ほどのように素を見せてくれた方が嬉しいな。カトリーヌが言っていたことを実際に魔法でやってみよう」

「え、いいのですか……⁉︎」


 先ほどよりは控えめながらも、カトリーヌの瞳は輝いている。それを見て笑顔になりながら、エルベルトは頷いた。


「もちろんだ」

「ありがとうございます!」


 それからエルベルトの繊細な魔力操作を魔道具製作に活用できるか二人で確かめ、エルベルトの魔法は素晴らしいという結論になった。その魔法を使うだけで魔道具の品質がかなり向上し、今までは技術的に不可能だったものが作れるようになったのだ。


「エルベルト様、本当に本当に凄いです!」


 カトリーヌは今までもエルベルトに対して尊敬の念を抱いていたが、それがより強くなった。


 まっすぐなカトリーヌの賞賛に、エルベルトは優しい表情になる。


「今まで無駄だと思いつつ、細かい魔力操作を磨いてきて良かった」

「無駄だなんて……絶対にそんなことはありません。もっとたくさんのことができるお力だと思います!」


 エルベルトの魔法によって作ることができた魔道具に視線を戻して、カトリーヌは無意識に嬉しそうな笑顔になった。その表情を横から見ていたエルベルトは、カトリーヌに聞こえない声音でポツリと呟く。


「もっと、見ていたいな……」


 呟いてから少し目を見開き、僅かに耳を赤く染めて、大きな手で自分の口を塞いだ。


「エルベルト様?」


 エルベルトの様子を不思議に思ったカトリーヌが見上げると、エルベルトは耳の赤さを強くする。


「い、や、なんでもない。認めてくれて、ありがとう」

「そんな、こちらこそわたしのわがままにお付き合いくださり、本当にありがとうございます。今とっても楽しいです」

「そうか、それなら良かった」


 気が抜けたような、大切に思われていると錯覚するようなエルベルトの柔らかい微笑みに、カトリーヌはドキッと心臓が高鳴るのを感じつつ、誤魔化すように口を開いた。


「ず、随分と最初の話から逸れてしまいましたが、エルベルト様が使われる魔道具も完璧なものにしたいです。ご協力いただけますか?」

「もちろんだ。こちらこそ協力を頼みたい」

「はい。一緒に頑張りましょう」


 エルベルトと笑顔で頷き合ったところで、カトリーヌは思い浮かんできた気持ちを口にする。


「いつか、竜族の集落を訪れてみたいですね……実際に魔道具が使われる環境を見てみたいです」


 今までだったら気軽にこんなことは言えなかっただろうが、カトリーヌはエルベルトと心の距離が近づいたような気がしていて、つい願望を溢してしまった。


 さすがに無理だろうと思い、冗談だと口を開きかけたところで、先にエルベルトが告げる。


「確かにそうだな。カトリーヌならば問題ないし、そのうち招待しよう。ぜひ妹にも会ってくれ」

「え、よろしいのですか……?」

「もちろんだ」


 なんの迷いもなく頷いてもらえたことが、カトリーヌはとても嬉しかった。


「楽しみにしています」

「俺も楽しみだ」


 二人は穏やかな雰囲気で笑い合う。


 それからも力を合わせて、魔道具の研究を進めた。カトリーヌはその時間がとても幸せで、いつまでも終わらないでほしいと願っていた。

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