エピソード9: それが続いていた間
すでに慣れ親しんでいた、穏やかな日々のスライドショー。
前へ進む私たちが、いつか戻るかもしれない記憶。
胸の奥に残り続ける、忘れがたい感情——。
一週間は、静かに――
ほとんど優しく――過ぎていった。
まるで太陽さえも、
グランダル家のために光を和らげてくれたかのように。
***
川辺は穏やかで、
水がなめらかな石にささやくように流れている。
そこは、ハーリンのお気に入りの場所。
いつもなら、本を抱えて座る場所だ。
けれど今日は違った。
彼女は地面にしっかりと足を踏ん張り、
眉をきつく寄せて集中している。
川向こうに垂れ下がる枝へ向かって、
片手をまっすぐ伸ばしていた。
近くで、メリルが見守っている。
胸の前で手を組み、目を輝かせて。
「できるわ、ハーリン」
彼女はやさしく言った。
「ママが言ったこと、思い出して」
ハーリンは深く息を吸った。
ふぅ……
枝が、震えた。
ほんの少し――けれど、確かに動いた。
一瞬、ハーリンは固まる。
そして次の瞬間、朝日のように顔が輝いた。
「できた! ママ、できたよ!」
メリルは思わず駆け寄り、
ハーリンを抱きしめる。
頬に、額に、
何度も何度もキスを降らせながら。
「できるって、分かってた」
そう言って、
額と額をそっと重ねる。
「ずっと、信じてた」
ハーリンはくすくすと笑い、
その背後で川面がきらめいていた。
***
テディベアが高く放られ、
ぽすん、とやわらかく湯の中へ落ちた。
湯気が立ちのぼる。
木の湯桶の中で、
ハーリンは腰まで湯に浸かり、テディを拾い上げる。
背後では、
短パン姿のヘイルが真剣な顔で彼女の髪を洗っていた。
一本一本、
丁寧に。
「なあ」
ヘイルはにやりと笑う。
「テディベアだって、風呂に入るんだぞ」
ハーリンは少し考え――
とても真剣にうなずいた。
片手で湯をすくい、
テディの頭にかける。
てっぺんを、
ごしごし――
ごしごし――
ものすごく集中して。
舌が、口の端から少しだけ出ている。
ヘイルは吹き出した。
「ははは! そんな洗い方したら、
かわいそうなやつ、ハゲちまうぞ」
身を乗り出し、
大げさに手本を見せる。
「ほら、こうだ。やさしくな」
そう言って、
娘の頭を軽く弾く。
「いった……」
ハーリンはむっとする。
ヘイルはその場所をなで、続けた。
「まず後頭部。次に首の後ろ」
手を移し、
「耳の後ろも忘れるな」
そして、テディの額をちょん、と叩く。
「一番大事なのは前髪だ。
顔だからな。人はまず顔を見る」
ハーリンは、
まるで古の教えを授かるかのように、
厳かにうなずいた。
「ありがとう、パパ」
教えられた通り、
彼女はテディの髪を洗い始める。
その背後で、
ヘイルはこっそり笑っていた。
***
緑の丘から、村が見渡せた。
ハーリンは腕を伸ばし、
震えながら立っている。
背後から、
ささやき声と小さな笑い声。
何人かの子どもたちが立ち、
その声が風に混じって流れてくる。
不安に、
何度も振り返りそうになる。
そのとき――
そっと、腕に触れる手。
「ハーリン」
メリルがやさしく言った。
「ママを見て」
ハーリンは振り向く。
メリルは、穏やかに微笑んでいた。
「気にしなくていい」
前髪をそっと整えながら。
「ここにいるのは、ママだけ。
ママは、ずっとそばにいるわ」
世界が、静まった気がした。
ハーリンはしばらく母を見つめ、
小さくうなずく。
そして前を向き、
ぎゅっと目を閉じた。
***
庭で、
ハーリンは腕を上げ、目を閉じている。
そばで、ヘイルが姿勢を変えず見守る。
「ハーリン……?」
家の中から、メリルが出てきた。
ヘイルはすぐに振り向き、
唇に指を当てて合図する。
集中する娘を見て、
メリルは立ち止まり、
黙って見守ることを選んだ。
閉じた瞼の奥――
闇の中で、
青と赤の光の粒が、
雪のようにゆっくり漂っている。
やがて赤い粒だけが集まり、
伸ばした手の前で渦を巻く。
圧縮され――
一瞬、火花が走り、
消えた。
ハーリンは、ゆっくり目を開く。
ヘイルの手が、
肩に置かれた。
困惑したように見上げる。
「……できた? パパ」
ヘイルはくつくつと笑った。
「じゃあもう、
石こすって火を起こさなくていいな」
***
笑い声が、丘に響く。
ハーリンとメリルは、
追いかけっこをしていた。
そのとき――
「メリル、ちょっと見てくれないか?」
丘の下から、
村人が手を振る。
二人は立ち止まる。
「今行きます……!」
メリルはうなずき、
娘の頭にそっと手を置いてから歩き出す。
ハーリンは、
母の服をつかみながらついていった。
弱った作物の前で止まる。
「最近おかしくてな……
どれも枯れてきてるんだ」
メリルは膝をつき、
土に手を当て、目を閉じる。
淡い緑の光が広がり、
大地へと染み込んでいく。
葉が震え、
ゆっくりと背を伸ばし、
深い緑を取り戻した。
村人は、
安堵の息を吐いた。
「あなたがいなかったら、
この村はどうなっていたか……」
メリルはやさしく微笑む。
「少し手を貸しただけです」
男は、
メリルにしがみつくハーリンに目を向けた。
視線に気づき、
ハーリンはさらに身を縮め、
母の影に半分隠れる。
男はしゃがみ込み、
目線を合わせる。
「誇りに思いなさい、ハーリン」
穏やかに言う。
「魔法がなければ、
今年は越せなかった」
ハーリンは答えず、
服に顔を埋め、ちらりと覗いた。
メリルは娘を見て、
あたたかく微笑む。
「大丈夫よ」
そう言って、
頭をなでた。
— 作者より —
エピソード9を読んでくださってありがとうございます!
魔法そのものが火を生み出したわけではない。ただエネルギーを引き出しただけだ。
ハーリンは空気に隠された成分を引き離し、目の前で渦を描くように操った。熱が逃げるよりも速くそれらを押し潰した瞬間、閉じ込められたエネルギーが一筋の鋭い火花となって弾けた。
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