エピソード5: 隠された美しさ
ヘイルとメリルは何かを準備している。どんな贈り物が待っているのか…まだ分からない。だが、これでハーリンの心の内が見えてくる。
月日が流れ、母・メリルの根気強い指導のおかげで、ハーリンは文字をスラスラと読めるようになっていた。
ある朝、両親が言い争っている声で目を覚ます。
「ヘイル、ダメ! 絶対ダメ! 贈り物をするからって、馬鹿なことをしていいってわけじゃないの!」
とメリルが叱る。
「今日はハーリンの日だ! 喜ばせるためなら、世界をも引き裂くぜ!」
とヘイルは断言する。
その時、まだ目をこすりながらリビングに入ってきたハーリンを見て、両親はぴたりと動きを止めた。
「何の話してるの…?」
「ハーリン! 父ちゃんは冒険に行かなくちゃ――母ちゃんに聞きな!」
ヘイルは叫ぶと、そのまま家を飛び出して行った。
「ヘイル!」
メリルが叫ぶ。
振り返った母は、慌てながらハーリンに言った。
「…私も、何言ってるのかよくわからないのよね…」
ハーリンは首をかしげる—まだ納得できていないようだ。
メリルは話題を変えようと急ぐ。
「お腹空いてるでしょ? さあ、ママが大好きな朝ごはんを作るわ!」
ハーリンの目が輝いた。
「パンケーキ!」
メリルが生地を混ぜながら、何気なく言った。
「ハーリン、朝ごはんのあとで外に遊びに行かない? たくさんのお友達が会えるのを楽しみにしてるわよ!」
明らかに、彼女は気をそらそうとしていた。
ハーリンはしばらく深く考え込んだあと、うなずいた。
「うん!」
****
できたての熱々のパンケーキほどいい匂いのするものはない。
メイリルは一枚手に取った。まだはっきりと熱い。小さな一口をちぎって、ふうっと息を吹きかける。
十分に冷めると、メイリルはそれを娘の口元へ差し出した。
ハーリンは素直に口を大きく開けた。
「ママのパンケーキ、最高!」 ぽっちゃりした頬を膨らませて言う。
メイリルは微笑んだ。
「食べ物を口に入れたまま喋っちゃダメよ、プリンセス。」 ハーリンのぽっちゃりした頬をつんとつまむ。
食べ終わると、メイリルは丁寧にハーリンの顔を拭いた。
「さあ、行っておいで!」
「ありがとう、ママ!」 ハーリンは急いで中へ入り、物語の本、ペン、ノートを手に取った。
「もう行くね!」ハーリンは慎重に準備を整え、まるで狩りの獲物を追う冒険者のように、出発の準備ができていた。
その姿に、メイリルはくすっと笑った。
ハーリンは母の腕に飛び込み、ぎゅっと抱きしめてから、ドアの方へ駆けていった。
「気をつけて遊ぶのよ」と、メイリルの声は次第に遠くなる。
「うん、いってきます!」
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ハーリンは村の小道を進む。
家が遠くなるにつれ、村フェルンはのどかな場所であることが分かる。
農夫、剣士、そして母のようなわずかな魔法使いが住む、控えめな村だ。
朝の空は深く澄んだ青。
近所の家々から、温かい香りが漂ってきた。
子どもたちは転がる木樽を追いかけ、鍛冶屋の鉄の音が規則正しく響き、細い煙が朝の空気に立ち上る。
畑では村人たちが黄金色の作物を丹念に刈り取る。
フェルンは派手でも魔法に満ちてもいない。
でもハーリンにとっては、そこが全世界だった。
遠くに子どもたちの姿を見つける。
子どもたちはすぐに気づき、明るく無邪気に手を振った。
「ハーリン! 遊ぼう!」
ハーリンは立ち止まる。
初めて家を一人で出た――母の手も、父の影もない――
そして突然、子どもたちの声が大きすぎ、近すぎると感じた。
ハーリンは本を胸にぎゅっと抱きしめる。
何度も母と学んでいる間に、窓越しにその子たちを見たことがあった。
一度、ささやき声も耳にした。
「なんであの子、いつも本ばっかり読んでるんだ?」
「魔法使いだからだよ…」
「本って何が面白いのかわかんない。」
悪い子たちではない。
ただ、生活が違うだけだ。
フェルンは手を使う村、頭を使う村ではなかった――
畑、道具、仕事の村であり、文字の村ではない。
そしてハーリンは――
物語を愛する、少し変わった子だった。
一歩前に進む――
だが足が途中で止まり、動こうとしない。
心の中で、子どもたちの声が嘲笑っているように聞こえた。
「なんで本を持ってるの?」
「ここで誰かが本を読むの見たことある?」
想像の声が頭の中でこだまする。
胸がぎゅっと締めつけられる。
子どもたちは再び手を振るが、今度は戸惑っている。
「ハーリン…?」
ハーリンは頭を下げ、胸の鼓動が大きすぎて返事できずに通り過ぎる。
悪いのは彼らでも、自分でもない。
ただ…まだ、他人の世界に踏み出す方法を知らなかった。
なぜか、誰かを目にするたび、足は自然に避けるように動いてしまう。
村がゆっくりと背後に消えていく。
どれだけ歩いたか分からなかったが、やがて森に着いた――道の終わりだ。
あまりに疲れ、ハーリンは顔を草にうずめて倒れ込む。
鳥がさえずり、虫が鳴き、風が葉を揺らす。
森全体が一つの歌のようで、すべてが調和していた。
休息の後、ハーリンは起き上がり景色を眺める――
森は美しかった。
そよ風が緑の木々と、光る青い髪を揺らす。
葉の間から差し込む光は、黄金の光の帯を作る。
ハーリンは深く息を吸う――森の空気は清々しい。
さらに奥へ歩くと、小川のせせらぎが聞こえ、
水面下を魚が滑るように泳ぎ、彼女の姿が映る。
近くの木を見つけ、ハーリンは腰を下ろし、水や森のリズムをノートにスケッチし始めた。
そしてお気に入りの物語の本――ゴッド・エル=グルリィを開く。
エル=グルリィは、彼女が住む大地の名前だった。
「 こんな人間ごときが! 私には何も及ばぬぞ!」
「意志がある――それだけで十分だ!」
時間の経つのも忘れて読みふけった。
気がつくと、日差しはすでに夕方に傾いていた。
— 著者より —
エピソード5を読んでくださってありがとうございます!
かわいそうなハーリン、あれで少しは気持ちが楽になったといいけど!
読者の皆様、ぜひ私までご感想をお聞かせいただけると嬉しいです!
毎週2章ずつ公開予定です!




