第33話:私の二人目の『親』……?
えっ、これ……どうやって説明するつもり!?
その日の朝早く――
「アリナー先生、アリナー先生――!」
ハーリンはしつこく肩を揺らした。
「んんん……あとちょっとだけ……!」
アリナーは子供のように空を払うように手を振り、顔をさらに枕に埋めた。
「アリナー先生、早く起きないと――」
ふわぁ……
小さく、ぴちゃりと唇を鳴らす音がそばから聞こえた。
「ハーリン……なんでこんな早いの……?」
床で寝ていたユキグが体を起こし、半分閉じた目で頭をかいた。
それでもハーリンは、アリナーの腕を引っ張り続けて離さない。
「んぐっ――!」
「ユキグおじさん、昨日は私のせいで授業が早く終わっちゃったから……今日はその分、頑張りたいの――」
ユキグは大きくあくびをし、体を伸ばした。
「あー……」
「よし、任せろ。」
ベッドへ歩み寄り、ハーリンにどくよう合図する。
そして――
なんの前触れもなく。
アリナーをひょいと抱え上げた。
しかしアリナーも簡単には負けない。
枕にしがみついたまま、顔を埋めて離さない。
ユキグはそのまま肩に担ぎ上げ、軽く弾みながら歌い始めた。
「太陽が昇るぞ、さあ起きろ――
太陽が昇るぞ、心も飛ぶぞ――」
ハーリンは思わず笑いながら、その周りをぐるぐる走り回る。
リズムに合わせてぴょんぴょん跳ねる。
「うるさぁぁい――!」
アリナーはうめきながら、枕で何度も叩きつけた。
ドン。
ドン。
ドン。
「痛っ、痛っ、わかったわかった――
下ろすって!」
ハーリンはくすくす笑う。
ようやくユキグはアリナーを地面に下ろした。
「ほら、これで二人とも起きただろ。」
腕を組み、胸を張って得意げに言う。
――ドン。
枕が顔面に直撃した。
「気持ちよく寝てたのに!」アリナーが睨む。
ハーリンは慌てて駆け寄り、そっとスカートを引いた。
「アリナー先生……おじさんのこと怒らないで……」
「私が早く起きたかっただけなの……勉強したくて……」
アリナーは小さく息を吐き――
ふっと笑った。
「じゃあ今日は、もう一度あなたのマナを確認するわね。」
指を向けながら言う。
「マナ……?」
ハーリンの背筋にぞくっとしたものが走る。
それを見て、アリナーは腰に手を当て、少し顔を背けながら目を閉じた。
「じゃあ……やっぱり寝直そうかしら――」
片目だけ開ける。
ハーリンはもじもじと手をいじる。
「……いえ。わ、私は……大丈夫……」
……
ジュウゥ――
くんくん。
二人同時にキッチンの方を向いた。
「ユキグ、何作ってるの~?」
「おじさん、何作ってるの?」
ユキグはフライパンを持ち、手首をひねる。
黄金色の生地が宙に舞い、綺麗に戻る。
「これはな――」
木の皿を二枚取り出し、それぞれにパンを乗せる。
「モーニングエネルギーだ。」
フライパンを傾け、黄金の生地をパンの上に流し込む。
ぱたん。ぱたん。
手を軽く払うと、そのまま皿の横を通り過ぎ――
自分用のただのパンを掴む。
一口かじりながら、扉へ向かう。
「じゃ、行ってくる――」
カチッ。
「はいはい。仕事頑張って~」アリナーは適当に返す。
視線も足も――すでに食べ物に釘付けだった。
「ユキグおじさん、見送りたい――!」
ハーリンは慌てて後を追った。
***
「ユキグおじさん、早く帰ってきてね。」
足にしがみつき、顔を押し付ける。
ユキグは少し驚きながらも、優しく頭を撫でた。
「どうしたんだ、ハーリン?」
「アリナーにいじめられたか?」と冗談めかす。
ハーリンはぶんぶんと首を振る。
「毎朝起きたときには……もういなくて……」
「朝ごはんも……もうできてて……」
ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。
「ありがとう。」
「おいおい……」
ユキグは髪をくしゃくしゃにする。
「そんなに寂しがるなよ。今はアリナーがいるだろ?」
ハーリンは答えない。
ただ、少しだけ強く抱きついた。
……
「ハーリン!もう起きてたの?迎えに来たよ!」
声に振り向く。
アニーが元気よく駆けてきて、その後ろにはヘクラド、ダニ、ボボル。
そして――
見知らぬ少女。
長い黒髪、背丈ほどの杖、先端には青い宝石。
少し弱々しく、息も荒い。
「今日はフーガも連れてきたよ!」アニーが手を振る。
ハーリンの目が輝き、一歩前へ――
だが止まる。
視線が落ちる。
「でも……私……」
……
「ハーリン。」
ユキグが肩に手を置く。
振り返る。
「勉強はいつでも取り戻せる。」
「でもこういう時間は――
戻ってこない。」
優しく笑う。
ハーリンはその表情を見つめたまま――
胸の奥で、何かが静かに揺れた。
***
「ほらね?言ったでしょ、あの子のお父さんユキグだって!」アニーが誇らしげに言う。
フーガは息を整えながら前へ出た。
「はじめまして、ハーリンのお父様。」
丁寧にお辞儀する。
そして手を差し出す。
「フーガと申します。よろしくお願いします、ハーリン。」
ハーリンは笑顔で握り返す。
「ハーリンです!」
その時――
「美味しかったわ、ユキグ~」
アリナーが外に出てきて、肩に手を置いた。
「毎朝ご飯作ってるの?」
子供たちに気づいていない。
「うわあああ――!」
アニーの目が輝く。
「アリナーってハーリンのママ!?」
「じゃあユキグおじさんが旦那さん!?すごい!」ダニが続く。
「だからあんな魔導書を持ってるのか……ハーリン。母親が大魔導師なんだな……」ヘクラドが感心する。
「……この前、わざと捕まらせてくれたのか……?」ボボルがぼそっと呟く。
フーガは再び深く頭を下げた。
「ハーリンのお父様、ユキグ様!
そしてその奥様、アリナー様!」
ユキグは固まった。
はっと息を呑み、目を見開いたまま――
ハーリンの方を振り向く。
ハーリンもゆっくりと顔を上げ――
同じように、目を見開いて見返した。
「母!?娘!?」アリナーが叫ぶ。
ハーリンは何も考えず家の中へ駆け込んだ。
……
ユキグはゆっくり――
本当にゆっくりとアリナーの方を向く。
ユキグは――
本当に、本当にゆっくりとアリナーの方を向く。
アリナーは鼻をひくつかせ、片眉をぴくりと上げる。
信じられない、というように唇が歪む。
「旦那……?!」
ユキグは口を開く。
声が出ない。
「わ、私は――」
その時――
ハーリンがパンをくわえて戻ってきた。
そして固まる。
次の瞬間――
子供たちの方へ振り向く。
「よし!パパとママも会えて嬉しいって言ってるから――
遊びに行こ!」
ぐいっと押して、そのまま連れていく。
「ユキグ……」
アリナーの表情が暗くなる。
「これ、どういうこと?」
「仕事行かなきゃ!!」
ユキグは振り向きざまに全力で逃げた。
一瞬で姿が消える。
アリナーはその場に取り残される。
「……は?」
……
「……ていうか、勉強は?」
……
「……ちょっと待って、晩ごはん誰が買うの!?」
— 作者より —
第33話を読んでくださってありがとうございます!
二人とも、この夜を無事に乗り越えられますように……。
読者の皆さんの感想をいただけると、とても嬉しいです。
今週の更新については、次の3話を公開する予定です。
木曜日、金曜日(本日)、そして日曜日に更新します。
もし順調に進めば、土曜日にも1話追加して、合計4話になるかもしれません。




