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無限の火花の世界  作者: Rocky Pancakes
第3章:泡の向こうへ
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エピソード23:“小さな妹”

思っているほど、悪くないよ。

ハーリンはベッドの上にあぐらをかいて座っていた。


部屋の隅には、開かれていないままの魔導書が置かれている。


その代わりに――

四つの木のペグが、小さな集まりのように彼女の前に並べられていた。


彼女はそのうちの一つを手に取り、上下にそっと揺らす。


「ハーリン、一緒に遊ばない?」


彼女はゆっくりとうなずいた。


「でも……どうやって遊ぶのか、わからない」


小さな声で答える。


ペグも、こくりとうなずかせた。


「ぼくたちの遊びは、魔法を使うんだよ」


「ほんと?」


彼女の瞳に、かすかな光が灯る。


「じゃあ、わたしもやりたい」


コンコンコン。


鋭いノックの音が、部屋を切り裂いた。


ハーリンは凍りつく。


ゆっくりと、手にしていたペグを置いた。


……


おじさん?


彼女はそっと扉へ近づき、わずかな隙間から外をのぞく。


息が止まった。


柱のように背の高い兵士が立っている。


磨き上げられた鎧に日差しが反射し、まぶしくて目を細めた。


ちがう……


待って……


彼は彼女を見下ろしている。


唇が動いている。


けれど、声が聞こえない。


自分の思考のほうが、ずっと大きかった。


兵士に聞かれたら――


ユキグの妹だ。


ユキグの顔が脳裏に浮かぶ。

兵士の顔と重なり、ぼやけていく。


繰り返してごらん。お前は――?


……


わたしは、ユキグの妹。


「わたしはユキグの妹です!」


思わず口にした。


兵士はため息をつく。


「それは知っている。ユキグからすでに聞いている」


一拍おいて、


「私が聞いているのは――なぜここにいる?」


ハーリンは口を開いた。


「え?」


顔から血の気が引く。


「わ、わたしは……」


「ユキグの妹……?」


かろうじて言葉を絞り出す。


兵士は目を閉じ、鼻筋をつまんだ。


「他州から来た子どもは……」


ぼそりとつぶやく。


「いったい何をそんなに怖がっているんだ」


彼はしゃがみ、目線を合わせた。


ハーリンの唇が震える。

声は出ない。


兵士はしばらく彼女を観察する。


「見習いか?」と当てずっぽうに言った。「木彫りの」


「木彫り……?」


彼女は繰り返す。


「ユキグの仕事を継ぐために来たんだろう?」


溺れている人に投げられた縄のように――


ハーリンは激しくうなずいた。


「はい! あの、はい!」


兵士は息を吐く。


「最初からそう言えばいいものを」


うめき声とともに立ち上がる。


「家で一人のときは気をつけろ」


そう言いながら、家の中を軽く見渡した。


「何かあったら大声を出せ」


「あ、ありがとうございます……」


彼女は小さくささやいた。


鎧の背中が通りを曲がって見えなくなるまで、じっと見送る。


***


夕方。


サッ。

サッ。


ハーリンは本棚の前に立ち、木のおもちゃ一つ一つのほこりを丁寧に払っていた。


カチャ。


扉が開く。


ドサッ。


ユキグが道具袋を床に落とす。


「あああ――」


伸びをしながら家に入ってきた。


ハーリンはおもちゃと刷毛を持ったまま駆け寄る。


「おじさん! 今日、兵士さんが来た!」


「本当か?」彼は驚いた。


彼女はこくこくとうなずく。


「もうか……」


小さくつぶやく。


「言われた通りに言えたか?」


満面の笑みで――


「最初にそれを言ったよ!」


ほっとしたように、彼の肩から力が抜ける。


「おじさん……どうして“姪”って言っちゃだめなの?」


ハーリンは静かに尋ねた。


ユキグは肩をすくめる。


「街は書類が好きなんだ。“妹”のほうが都合がいい」


ハーリンは少し眉をひそめる。


ユキグは片眉を上げた。


「質問は少なく」


「書類も少なく」


彼は彼女の手にある刷毛に気づく。


「本棚の掃除か?」


ハーリンは首をかしげ、それから自分の手を見下ろす。

確認するように。


「うん!」


慌てて掃除に戻る。


ユキグはくすりと笑い、台所へ向かった。

食器を取り出しながら。


それでも、視線は何度も彼女へ戻る。


……


いつの間にか、何をしていたのか忘れていた。


カウンターにもたれ、顎に手を乗せる。


笑みがゆっくりと消えていく。


「ハーリン……」


「なに、おじさん?」


ペグを磨きながら答える。


「お金を持ったことはあるか?」


彼女は首を振る。


「もし……時々、夕飯の買い物を頼んだら……」


少し間を置く。


「やってくれるか?」


ハーリンはゆっくり振り向き、彼の顔を探る。


お金?


お父さんが、あんなに必死に働いていたのは……


そして、それでお母さんが――


胸がぎゅっと締めつけられる。


この家を、生かすために。


彼女はしっかりとうなずいた。


「その意気だ!」


ユキグは笑いながら指をさす。


「毎朝、棚の上にお金を置いておく」


「食べられるものなら、好きなものを買っていい」


「それから……」


彼女の期待に満ちた目に気づく。


「おつりは、お前のだ」


「ほんとに?」


目が大きく見開かれる。


「ああ。おつりは全部な」


彼女はその場でぴょんと跳ねた。

喜びを隠せない。


ユキグは道具袋を指さす。


「持ってきたものを見てみろ」


迷いなく駆け寄り、勢いよく開ける。


茶色の外套を取り出した。


「わあ……」


だが、ほかのものに目が止まる。


袋の底に散らばる木くず。


小さな彫刻刀。のみ。


どちらも、さびついている。


背後から、ユキグの声。


「明日から、外へ出るときは……」


「その外套を着ろ」


ハーリンはうなずいた。


けれど――


視線は、さびた道具から離れなかった。

— 作者より —

エピソード23を読んでくださってありがとうございます!

錆びついた道具……?

読者の皆さんの感想をいただけると、とても嬉しいです。

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