エピソード2: 瓶の中の平和
ハーリンが生まれて以来、家族はファーンの夜の厳しさと寒さを忘れ、彼女の笑顔が小さな小屋を暖めている。
またひとつ、寒くて静かな夜――
だが、グランダル家にとっては違った。
同じ小さな家、同じぼんやりとしたランタンの光――
だが今夜は、泣き声ではなく笑い声が部屋を満たしていた。
「ハーリン、『パパ』って言ってごらん」
ヘイルはゆっくりと、ひとつひとつ区切って言った。
「パ・パ」
そう言いながら自分を指さす。
すると、メリルがすぐさま割り込んだ。
「ダメよハーリン! 『ママ』って言うの! 世界で一番ハーリンを愛してるのはママなんだから!」
ハーリンは笑うのをやめた。
小さな頭を左右に傾け、困惑したように揺らす。
目の前で期待に満ちた顔をしている二人の大人を交互に見つめている。
まるで、どちらを選ぶか迷っているようだった。
そして――最終的に、ハーリンの小さな頭はメリルのほうへ向いた。
にこっと笑って。
「ママ! ママ!」
ヘイルは目を閉じ、敗北のため息をついた。
一方、メリルは真逆だった。
喜びが爆発した。
床から勢いよく立ち上がる。
「ハーリンが呼んだ! ハーリンが私を呼んだ!!」
叫びながら、今度は夫の肩をつかみ、狂ったように前後に揺さぶった。
ヘイルは手に顎をのせ、魂が抜けたような顔で言う。
「……俺が家にいない時間が長いだけだろ……」
父の絶望を察したのか、ハーリンはそちらを向いた。
「パパ」
と、小さな腕を上げて楽しそうに笑った。
ヘイルは反射的に顔を向けた。
宝箱を発見したかのように目を大きく見開き――
ゆっくり笑顔が広がっていく。
「娘が呼んだ! 俺を呼んだぞ!!」
彼も立ち上がり、メリルと一緒にぐるぐる回りながら大興奮。
そんな両親がくるくる踊り回っているのを見て、
小さなハーリンは大声で笑い、両手を楽しそうに振り回した。
— 著者より —
エピソード2を読んでくださってありがとうございます!
ヘイル、メリル、ハーリンの3人が、短くもエネルギッシュな夜を過ごします!
読者の皆様、ぜひ私までご感想をお聞かせいただけると嬉しいです!
毎週2章ずつ公開予定です!




