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無限の火花の世界  作者: Rocky Pancakes
第2章:ママ……?パパ……?
16/25

エピソード15:ママ……大丈夫だよね。

父親の役割は、メリルにとってあまりにも重すぎた。

それが「力」で生きる村の中では、なおさらだった。

挿絵(By みてみん)

家の中は、また静まり返っていた。

穏やかな静けさではない――

何かを、待ち続けるような静けさ。


ハーリンは窓辺に座り、膝の上に閉じた本を置いたまま、

少しずつ暗くなっていく空を見つめていた。


隣では、一本の蝋燭が静かに燃えている。

暗くなったから灯したわけじゃない。

灯さないままでいるのが――なぜか、いけない気がしたから。


夕食は、もう冷えていた。


***


鍵が回ったのは、それからずいぶん後だった。


その音を聞いた時、ハーリンはもう半分眠りかけていた。

金属が擦れる、かすかな音。

いつもより、遅くて、重い。


彼女は飛び起きる。


「マ……ママ?」


ドアが開く。


メリルが中へ入ってきた。

肩は落ち、微笑みは――ほんの一拍、遅れて浮かぶ。


「ただいま」

軽い調子で、そう言った。


ハーリンは駆け寄り、ぶつかる寸前で足を止める。


近くで感じた母の匂いは、どこか違っていた。

嫌な匂いじゃない。ただ……知らない匂い。


メリルは靴を脱ぎながら、わずかによろめいた。


「ごはん、残してあるよ」

ハーリンは慌てて言う。


メリルは瞬きをする。

「え……そうなの?」


こめかみを押さえ、くすっと笑った。

「無理しなくてよかったのに……」


ハーリンは答えなかった。

もう水を取りに行っていた。


***


二人は食卓についたけれど、メリルはほとんど口をつけなかった。


スプーンで料理をかき混ぜるだけで、視線は定まらない。

そして、突然――笑った。


「ねえ……」

「あなたのお父さんが、どれだけ頑固だったか……話したことあったかしら?」


ハーリンは、少し照れたように微笑む。


メリルはもう一度笑い――そして、ぴたりと止まり、額に手を当てた。


「……ごめんね」

小さく、そう呟く。

「ちょっと……疲れてるだけ」


ハーリンは何も言わず、じっと母を見つめていた。


***


その夜、ハーリンは布団の中で目を閉じられずにいた。


家が、きしりと鳴る。

蝋燭の灯りが、ふっと消える。


隣の部屋から――咳の音。

短く、抑えたような咳。

誰かに、聞かれたくないみたいな。


ハーリンは体を起こす。


……待つ。


やがて、音は止んだ。


彼女は再び横になり、布団を顎まで引き上げる。

天井を見つめたまま、果てしない闇の中で、目が痛くなるまで。


***


次の夜、メリルの帰りは、さらに遅かった。


コートも脱がず、食卓にも寄らず、

そのままベッドの端に腰を下ろす。


目を閉じ、ゆっくりと呼吸をしている。


顔には、はっきりとした痣。

両手は、小さく震えていた。


「ハーリン……」

しばらくしてから、優しい声で言う。

「もし今夜、ママが早く寝ちゃっても……いいよね?」


ハーリンは、すぐに大きく頷いた。


「静かにするよ」

「残したごはんも、全部食べるから!」


メリルは微笑み、手を伸ばしてハーリンの髪を撫でる。

――その指先が、ほんの少しだけ、震えた。


「明日は、休むから」

そう、約束するように言った。


ハーリンは、その言葉を――

壊れない“何か”みたいに、胸に強く抱きしめた。


***


その夜、ハーリンは眠れなかった。


壁越しに、母の呼吸を数える。


一つ。

二つ。

三つ。


……


いつ眠りに落ちたのか、彼女にはわからなかった。

— 作者より —

エピソード15を読んでくださってありがとうございます!

私たちは、少しずつ彼女を失っている……。

読者の皆さんの感想をいただけると、とても嬉しいです。

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