幕間:夢(誕生日特別編)
物語のメインディッシュの合間にある、ちょっとしたおやつ。
色鮮やかな野原が広がり、
花と草が四方へと生い茂っていた。
そよ風に、ハーリンの髪がやさしく揺れる。
彼女の隣には、神エル=グリがいた。
その手は彼女の手をしっかりと包み、二人は青々とした草原を歩いている。
――それだけが、確かに“現実”だった。
彼の鎧も、王冠も、
金と銀の光が混ざり合い、まぶた越しに見る光のように輪郭が曖昧だった。
エル=グリは歩みを緩め、
小さな花の前でハーリンをしゃがませる。
彼はその花をそっと摘み取った。
「すべてのものにはエネルギーがある」
静かな声で、彼は言った。
「そして、エネルギーは生み出すことができる」
少し間を置いてから、続ける。
「問題は――
お前に、それだけの“意志”があるかどうかだ」
彼は花を、ハーリンの手のひらに置いた。
ハーリンはそれを見つめる。
いつの間にか、
世界は闇に包まれていた。
周囲を見渡す。
――静寂。
空もない。
地面もない。
人影も、ひとつもない。
果てしない黒に、すべてが飲み込まれていた。
彼女は、手の中の花を見る。
それは、すでに枯れ果てていた。
冷たい風が、彼女の身体を撫でる。
次の瞬間――
ハーリンは崖の上に立っていた。
眼下には、混沌の光景が広がっている。
煙、粉塵、悲鳴。
燃え上がる村から、熱気が顔を打った。
――そして、見えた。
破壊の中心に立つ、
人のような、しかし人ではない、黒い影。
距離があるはずなのに、
はっきりと見えすぎるほどに。
その影が、こちらを向いた。
視線が、彼女を捉える。
背筋に、冷たいものが走った。
ハーリンはよろめき、後ずさる。
崖から離れようと、這うように下がった――
その時、下から“手”が伸びてきた。
黒い影が、崖を登ってくる。
ハーリンは迷わなかった。
背を向け、走り出す。
「パパ! ママ!」
叫んだはずの声は、
空気に吸い込まれ、形を成さない。
――そして、すべてが消えた。
ハーリンは、果てしない闇へと落ちていく。
彼女は、目を覚ました。
胸が激しく上下し、息を荒く吸い込む。
顔は汗で濡れ、歪んだ表情のまま――
次の瞬間、泣き出した。
テディベアを抱きしめ、
彼女は部屋を飛び出し、隣の両親の寝室へ駆けていく。
「ママ……パパ……」
扉の前で立ち止まり、
声を上げて泣き続けた。
空には、まだ月が浮かんでいる。
夜は、終わっていなかった。
きぃ……と扉が開き、
眠たげに目をこすりながら、メリルが顔を出す。
「どうしたの、ハーリン……?」
その後ろで、
ヘイルが半分寝ぼけたまま起き上がる。
「なんだ?」
きょろきょろと見回しながら言った。
「世界の終わりか?」
ハーリンは母の足に顔をうずめ、
ドレスをぎゅっと掴む。
「ママ……悪い夢を見たの」
「今夜は、一人で寝たくない……」
メリルは迷わず、娘を抱き上げた。
「いいわ。大丈夫よ」
やさしく囁く。
「私たちがいる」
「もう、安心していいの」
彼女はハーリンをベッドへ連れていき、そっと下ろす。
ハーリンはすぐに、父の腕に抱きついた。
ヘイルは、すでに再び眠りに落ち、よだれまで垂らしている。
メリルは軽く額を指で弾いた。
「もう寝てる……」
ため息をつく。
「ママ、パパをからかわないで……」
ハーリンが、甘えるような声で言った。
メリルは微笑む。
「はいはい。ハーリンのパパは、そっとしておくわ」
彼女は娘を引き寄せ、やさしく抱きしめた。
やがて――
三人は、再び静かな眠りへと落ちていった。
2026/1/10
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