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無限の火花の世界  作者: Rocky Pancakes
第2章:ママ……?パパ……?
13/25

エピソード13: どういうこと……?

短い時間の中で、本当にたくさんのことが起きた。

戸惑いと新しい出来事が、ハーリンをあちこちへと振り回していく。

その朝は、いつもと変わらないように見えた。


いつものように、ハーリンは細い道をとぼとぼと歩いていた。

擦り切れた分厚い本と、ふわふわのテディベアを、腕に大事そうに抱えながら。


けれど――

何かが違った。


周囲から向けられる視線に、もう静かな同情はなかった。

そこにあったのは、燃えるような――

嫌悪。

憎悪。


低く、鋭い囁き声が、棘のように彼女の耳をかすめる。


「ハーリンだ……子どもを近づけるなよ」

「メリルは、あの子に悪い影響を与えたんじゃないか」


聞こえてはいた。

けれど、理解できなかった。


足が重くなる。

腕に抱えたテディベアを、ぎゅっと抱きしめる。

視線は地面に縫い止められ、声だけが何度も頭の中で反響する。


***


――囁きが途切れ、

――森の入り口が見えた、その時。


胸に、ほっとしたものが広がった。


ハーリンは走り出した。


雲間から日差しが差し込むように、彼女の表情がぱっと明るくなる――


ブォン。


どこからともなく飛んできた石が、彼女のこめかみを直撃した。


痛みが弾ける。

温かい血が流れ落ち、彼女は地面に崩れ落ちた。

本とテディベアが、腕から転がり落ちる。


笑い声が響いた。


「うわっ!」

「ハーリンじゃん!」


近くで、三人の子どもが彼女を指差し、露骨な嫌悪を浮かべていた。


「気持ち悪い」

「なんで外に出ていいんだよ?」


世界が回る。

音が遠のく。


ほとんど、何も聞こえなかった。

どうでもよかった。


彼女は這うように前へ進み、残った力のすべてを使って、本へと手を伸ばす。


――指先が、触れそうになった、その瞬間。


足が伸びてきて、本を蹴り飛ばした。


三人の少年が、彼女の前に立ちはだかる。

逆光の影が、彼女をすっぽりと飲み込んだ。


一人が、指で彼女の頭を押さえつけ、土に押し付ける。


「汚いな」

「お前の居場所じゃない」


「そうだそうだ」

「元いた汚れた場所に這って帰れよ」


ハーリンは頭を抱え、震えた。


何をすればいいのかわからない。

自分が何をしたのかも、わからない。


どうして……

どうして、こんなことをするの……。

ママ……。


涙が、頬を伝い始める。


抵抗しないのを見て、少年たちはさらに調子づいた。

手が伸び、突き飛ばされ、笑い声が続く。


「おい!」


鋭い声が空気を切り裂いた。


少年たちの動きが止まる。


少し離れた場所に、もう一人の子どもが立っていた。

年はハーリンと同じくらい。


宝石のように赤い髪。

この村には似つかわしくない、気品ある雰囲気。


深紅のベルベットの外套が肩にかかり、白い羽毛の襟と金の刺繍が淡く輝いている。


まるで――

物語から抜け出してきた王子様のようだった。


彼は堂々と歩み寄り、ハーリンと少年たちの前で足を止める。


「無抵抗の女の子をいじめるのか?」


ハーリンは、ゆっくりと顔を上げた。


これが……王子様……?

私を守ってる……? でも、どうして……?


「情けないな」


若き王子は、冷たい視線で吐き捨てる。


「三人もいて、その程度か?」


中央にいた少年――どうやらリーダー格が、一歩前に出た。


「お前、何様だよ?」


王子は胸を張る。


「我が名はレアンドレル」

「タルムノール王国、第二王子だ」


彼は少年たちを指差した。


「俺がこの道に立つ限り、貴様らは大人しくしていろ」


後ろの二人が、ひそひそと囁く。


「王国の……?」

「殴ったら牢屋行きじゃ……?」


引くに引けなくなったのか、リーダーが唸り声を上げ、レアンドレルの首飾りを掴んだ。


レアンドレルの目が鋭く光る。


彼は鋭い蹴りを腹に叩き込み、少年を吹き飛ばした。

鎖が引きちぎれる。


襟を正し、見下ろす。


「それだけか?」


横から、別の少年が叫びながら突っ込んできた。


レアンドレルは振り向き――

一瞬で腰の木剣を抜く。


カン。


一撃が綺麗に決まり、少年は頭を押さえて崩れ落ちた。


ブォン。


石が一直線に飛んでくる。


カン。


彼は一振りで弾き飛ばした。


最後の一人が、石を握ったまま凍りつく。


レアンドレルは笑った。


「ほら、来いよ」


少年は悲鳴を上げ、石を落として逃げ出した。


「後ろ――!」とハーリンが叫ぶ。


遅かった。


リーダーが背後から飛びかかり、レアンドレルの耳に噛みついた。


「汚ねぇな!」


レアンドレルは肘を叩き込み、少年を倒す。


動く前に、木剣が鼻先に突きつけられていた。


「逃げろ」

「三人まとめて牢屋に放り込まれる前にな、虫けら」


恐怖が弾けた。


少年たちは泣き叫びながら逃げ去った。


静寂が戻る。


風に揺れる赤い髪と外套。

レアンドレルは振り返り、手を差し出した。


「大丈夫か?」


「だいじょ――」


けれど、ハーリンは手を取らなかった。

急いで物を拾い、丁寧に土を払う。


レアンドレルの視線が、魔導書に落ちる。


「魔法?」

「そんな無駄なもの、よくやるな」


ハーリンの体が強張る。


「無駄じゃない!」


彼女は睨みつけた。


レアンドレルは舌打ちし、視線を逸らす。


「魔法は守れなかった」

「大切な人をな」


再び、彼女を見る。


「お前を守れなかったのと同じだ」


息が詰まる。


「それは……」

言葉が続かなかった。


彼は肩をすくめる。


「価値はない」

「いつか、わかる日が来るといいな」


遠くから声が響く。


「レアンドレル! 行くぞ!」


全身を黒鋼に包んだ騎士が、丘の上に立っていた。

その存在感は、距離があっても重い。


「今行く!」


レアンドレルは最後に一度だけ振り返る。


「もう話すことはない」

「せいぜい頑張れ」


そう言って、彼は去った。


ハーリンは立ち尽くし、本を抱きしめる。


魔法は弱くない……。

それなのに、どうしてパパを救えなかったの……。

私が……弱いの……?


足元で、光が瞬いた。


見下ろすと、黄金の首飾りが落ちている。

獰猛で不気味な獣の意匠。


彼女はそれを拾い、道の先を見る。


「レアンドレル――!」


もう、姿はなかった。


ハーリンの視線は、しばらくの間、首飾りに釘付けになっていた――

そして、彼女はそれをぎゅっと握りしめた。


約束する……。

次は、地面に這いつくばってなんかいない。


***


村の別の場所。

人目の届かない、主要道の外れ。


いくつもの天幕が静かに並んでいた。

騎士や作業員が絶え間なく出入りし、低い声は布に吸い込まれていく。


その端で、一人の男――

いや、王が、冷たい大地に膝をついていた。


黒い外套が背後に広がり、肩には同じ獣の紋章が金に輝く。


手にしているのは、しおれた花。


静かに見つめるその表情は、冷静で、厳しく――

そして、守れなかったものを悼んでいるかのようだった。


背後から、柔らかな声。


「陛下……」


淡い法衣をまとったエルフの少女。

胸に銀の聖印を宿したその姿は――

ハーリンの魔導書に描かれていた、あの聖職者そのものだった。


「調査した地域では……」


一瞬、言葉を切る。


「これは、エル=グリの地全域で発生しています」


王は振り向かない。


「ここまでにしよう」


彼は立ち上がり、花を差し出した。


「これと、すべての標本を持ち帰れ」

「王国へ」


エルフは深く一礼した。


「はい、陛下」

— 作者より —

エピソード13を読んでくださってありがとうございます!

でもきっと……

私たちの先には、何か新しくて、大きなものが待っている。

読者の皆さんの感想をいただけると、とても嬉しいです。

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