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無限の火花の世界  作者: Rocky Pancakes
第2章:ママ……?パパ……?
12/25

エピソード12: こわい……

その朝、世界から、色と声がそっと遠ざかっていた。

その朝――

家には、朝日が差し込む音だけがあった。


そこにいたのは、ハーリン一人だけ。


何もかもが、いつもと違って見えた。

見慣れたはずの家が、どこかよそよそしい。


隅には、ヘイルの剣が静かに置かれている。

けれど、メリルの姿はどこにもなかった。


ふと、食べ物の匂いが鼻をくすぐる。


食卓の上には、まだ温かい朝食が用意されていた。


胸の奥が重くなるのを感じながら、

ハーリンは椅子に腰を下ろす。


そのとき、スープの器の横に置かれた一枚の紙に気づいた――

ゆっくりと、それを開く。


***


ハーリンへ。

ちゃんと朝ごはんを食べてね。

お昼ごはんも用意してあるから、お鍋から気をつけて運ぶこと。

ママは外で食べるから、ハーリンはちゃんと全部食べるのよ。

すぐ帰るからね。

愛してる。


***


……


その瞬間、

ぽつり、ぽつりと涙が紙の上に落ちた。


そこにはすでに、乾いた古い涙の跡が残っていた。


ハーリンは震える手で手紙を握りしめ、

もう一方の手で、何度も涙をぬぐった。


***


家の中は、あまりにも静かで、暗かった。


食事を終えると、

ハーリンは外に出ることにした。


今回は、テディベアと、

お母さんの魔法の本を持って。


それから――

もう帰らないかのように、

お腹がすいたとき用のニンジンも袋に詰めた。


***


どこへ行っても、

人々の視線が突き刺さる。


その目には、哀れみが浮かんでいた。


……知ってる。

……パパが死んだことくらい。

……見るの、やめてよ。


その視線が、

あの日の記憶を何度も引きずり出す。


もう、耐えられなかった。


ハーリンは走った。

どんどん、速く――森へ向かって。


涙が頬を伝い、

テディベアと魔法の本を胸に抱きしめたまま、

足だけが前へ前へと進んでいく。


***


やがて辿り着いたのは――

彼女が、まだ「家」と呼べる唯一の場所。


木々の隙間から、やさしい光が差し込む。

森の歌声が、彼女を包み込んだ。


すべてが……静かだった。

穏やかで、何も変わらないように。


ハーリンは木の幹にもたれ、

小さな声で、本を読み上げる。


腕の横には、テディベア。

彼女に寄り添うように座っている。


敵の動きが速すぎたため、

フィルシは新たな方法を考え出した。


より正確な方法を。


――それが、魔法陣の誕生である。


この本は面白かった。

どの魔法にも、その誕生の物語が書かれている。


ハーリンは、

呪文そのものよりも、

その物語を読むほうが好きだった。


***


突然――

小さな気配が近づいてきた。


ハーリンは手を上げる。


「こ、これ以上近づかないで……

ま、魔法、使えるから……」


声は、かすかに震えていた。


現れたのは、

かつて彼女が助けた、あの白いウサギ。


その後ろから、

雪玉みたいな小さな白い子ウサギが三匹、

母親の影から顔をのぞかせる。


それを見ると、

ハーリンは慌てて袋を探り、ニンジンを取り出した。


ゆっくりと差し出す。


ウサギはそれを受け取り、

子どもたちの前に落とした。


小さな口で、夢中になってかじり始める。


ハーリンは微笑みながら、

そっとウサギの頭を撫で、

「フラッフィーって名前にしよう」

と呟いて、また本に戻った。


ウサギたちは離れなかった。


母ウサギは彼女の隣に横たわり、

子ウサギたちは、彼女によじ登ってくる。


***


日が傾き始めた。


ハーリンは急いで家へ向かう。

――お母さん、もう帰ってるよね。


けれど、近づくにつれて気づく。


家は、真っ暗だった。


中へ入り、

近くのろうそくに魔法で火を灯す。


***


ハーリンは台所で、

身体を丸めて座り続けた。


待って、待って――

夜はすっかり更けていた。


近所の家々の灯りも消え、

皆、眠りについたのだろう。


ろうそくは、ほとんど燃え尽きそうだった。

けれど、ハーリンは眠らなかった。


ただ、待ち続けた。


……ママ、どうしたんだろう。

……探しに行ったほうがいいのかな。

……もし、見つけられなかったら……

……ひとりで生きるの、いやだ。


涙が、あふれ出す。


そのとき――

庭から、足音が聞こえた。


ハーリンは慌てて涙をぬぐい、

踏み台に乗って、窓の外をのぞく。


――いた。


メリルだった。


扉がきしりと開く。


台所で不安そうにこちらを見ている娘の姿に、

メリルは思わず、くすっと笑った。


「ただいま、ハーリン」


父と同じような、

疲れているのに、無理に明るく振る舞う笑顔が、

今は母の顔に浮かんでいた。


ハーリンは駆け寄り、

消えてしまうのが怖いかのように、

メリルの足にしがみつく。


「ちょっと、動けないわ」

メリルは小さく笑いながら、娘を抱き上げた。


髪をそっとかき上げ、

赤く腫れた目に気づく。


「どうしてこんなに遅くまで起きてたの?

ママを待ってたの?」


ハーリンは、こくりとうなずく。


「……帰ってこないんじゃないかって、怖くて――」


「あらあら……」


メリルは彼女を寝室へ運ぶ。


布団に寝かせ、

額にキスをして、微笑んだ。


「ママは、いつもあなたのそばにいるわ。

心配しなくていいのよ」


「おやすみ」

— 作者より —

エピソード12を読んでくださってありがとうございます!

少し前までは、こんなじゃなかった。

早すぎる……これは、夢なの?

読者の皆さんの感想をいただけると、とても嬉しいです。

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