転生しましたが場所が分かりません(プロローグ)
社畜として疲れ切った男が、突然の事故で人生をリセット!? 目覚めた先は異世界か、それとも……? 何かがおかしい転生譚の幕開けです。
人は、生きているうちに何度「やり直したい」と願うだろうか。
学生時代のテストで、もっと勉強しておけばよかった。
就職活動で、別の会社を選んでいればよかった。
仕事で、あの一言を飲み込まなければよかった。
俺――高橋悠真、二十七歳。
都内の中小企業で営業と雑務を押しつけられる社畜だ。
夢はない。希望もない。あるのは、未払いの残業代と溜まったストレスだけ。
毎朝、満員電車に押しつぶされ、会社では上司に怒鳴られ、客には無理難題を押しつけられ、深夜にコンビニ弁当をかき込んで帰る。
そしてまた朝が来て、同じ一日を繰り返す。
「……俺、異世界にでも転生してぇな」
思わず口から漏れた弱音は、半分冗談、半分本気だった。
ドラゴンや魔法があふれる世界で、勇者として持ち上げられ、美少女と旅をして、仲間と笑い合って――そんな都合のいい妄想にすがりたいほど、俺は疲れ果てていた。
だが、人生はときに残酷に、そして唐突に幕を引く。
耳をつんざくようなクラクション。
振り向けば、巨大なトラックのヘッドライトが目に飛び込んでくる。
「マジかよ……」
反射的に身構えたが、間に合わなかった。
衝撃、浮遊感、そして暗転――。
闇の中で、俺はふと思った。
これで終わりなら、少しは楽になれる。
けれど――もしも本当に「やり直し」があるなら。
俺は……。
次に目を開けたとき、そこは知らない空と、土と、森の匂いがする世界だった。