Ⅲー7 「アナタト同ジ招待状ヲ持ッテイマセン」
Ⅲー7 「アナタト同ジ招待状ヲ持ッテイマセン」
山本は、舞台の中央に陣取ったまま、語り続けた。その周囲の薄暗い中を数人の男が一人の裸の女を弄びながら舞い続けていた。
山本の声はさらに高く激しさを増した。
夜の森は静かだった。
眠りに入る前の鳥や獣のささやきが聞こえ、草木の歌も終わりかけていた。
ボクは数千年もこの世界を見続けてきた古木の陰でいま疲れた体を休めている。真上の洞の中にはミミズクの光る目があった。
森の道はずれで、首からカードを下げて泣いている狐の夢を見た。
狐は、その痩せた体には重すぎるほどの鎖を響かせながら、「カード」を僕の前に差し出した。
「カード」は絵模様のないトランプのようなもので、文字が書き込まれていた。
「私ハ私ヲ忘却中」「私ノ謎ハ私ガ解決スルニハ深スギル」などと乱雑に並んでいた。寄せ書きのようになっているものもあった。
様々な方向から書き込まれ、角度を変えて読もうとするとまったく別の意味になってしまうものもあった。
狐はその呪縛のために身動きできないと泣いた。
ボクが外してやろうと提案すると、目に涙をあふれさせた狐は首を左右に振った。何かの気配におびえたようにミミズクが荒々しく洞から飛び出した。
「私ハ知リスギテシマッタ」と、狐は身を震わせて泣いた。
女はボクの痛む足を擦っていた。貧しい農夫とその妻と幼い子どもの眠る小屋を通り過ぎたころだった。
「アタシニハ、何処ヘ行ッテモ、何モ変ワラナイヨウナ気ガシマス」
女はボクを誘った。
細い腕が絡み、頬にかかる息が温かい。
老樹の葉を透かして、月が白い柔らかな光を投げかけていた。
ボクは女の胸に顔をうずめた。
女は、ボクの髪を指ですきながら細い声で歌った。その声には懐かしさがあった。体がしびれた。ボクがまだ生命のかたちとなる以前からの記憶がボクをつき動かしているようだった。
「あなたは、だれなんですか。ボクは生まれるもっと前の前から、あなたを知っていたような気がしています」
女は微笑みながらボクの目を覗き込んだ。深い緑色の瞳に月が揺れていた。
「歩イテ行クト、何処モスベテ通ッテキタヨウデ、マルデ過去ヲ何度モ巡ッテイルヨウデ、前ヘハモウ進メマセン。昔、アナタト歩イタ記憶ガ、コノ森ノスベテノ樹木ニ刻マレテイマス」
「でも、まだ」
「ソウ、アナタハモウ一度、先ヘ行ケマス。私ハココマデ、コノ記憶ノ森ガ懐カシクテココマデ来テシマイマシタ」
「それで、黒い大門も通ってこれたのですね。ボクたちは、これからも一緒に進みましょう」
ボクは女の体を強く抱いた。
「イイエ、アタシタチハココデオ別レシマショウ。アタシニハ、アナタト同ジ招待状ヲ持ッテイマセン」