"ヴァルプルギスな気分"
処理機に身を投げる事は、一般には非合法であるとされている
しかし、処理機は実際にはあらゆる街に存在して居る
そこで自死を図る人間たちと共に
同級生の男の子が「本当にこの先なの?」と、心配そうに尋ねる
僕は彼の手を引きながら、深夜の山道を迷い無く進んで行く
月のない夜だった
理由有って、僕はおおよそこの町の処理機すべての場所を把握して居る
それが何故なのかは、最後にはこの話の中で語られるかも知れないが、端的に言うならば『生存の為の知恵』だ
「鉛筆削りの中身って」
「………視た事ある?」
向かう先に視線を残したまま、僕は同級生に聞く
意外な質問だったのか、彼は「えっ?」と困ったように聞き返すと、それきり黙ってしまった
「処理機の内部構造」
「───あんな感じなんだって」
振り向きながら、笑う
握った手のひらが冷たくこわばって居る
残念ながら、同級生の少年は全然笑ってくれなかった
「大丈夫だよ」
頭を抱いて、優しく撫でる
同級生の不安げに荒れていた呼吸は、僕の両腕の間で少しずつ穏やかなものになっていった
「僕がついてるから」
そして僕は、彼の唇に自分のそれを重ねた
途中、少々の獣道を通る事にはなったが
最終的に山頂に僕らは辿り着いた
処理機はそこに、厳然と存在して居た
まるで、『死そのものが動かし難い』という事実と同じように
先刻の説明と同じように
処理機の投入口は、本当に鉛筆削りの投入口に似て居た
僅かな違いとして
処理機の入口は、大きな口を開いて僕たちを待ち構えて居たが
「怖くなってきたかも………」
繋いだ手と手の先で同級生が言う
あんなに冷えていた手が、それでも汗ばみ始めて居る
僕は繋いだ手を、ぎゅ、と固く握り締めると、自分の足の外側部で彼の足を引っ掛けて、転倒させた
声を上げる暇も無く
僕より少しだけ背の低い同級生は、昏い穴に吸い込まれていく
ちゃんと全身が落下するように
僕は屈んで、握った手を穴へと近付けた
処理機が動作する
不可逆的な破砕の音が、ばりばりと鳴り響き、哀れなる少年は視るも無残なピンク色の肉片や、石ころ程の大きさの骨の欠片に変わっていく
僕は、握った彼の手が最初の一瞬だけ跳ねるように暴れ回ったあと、直ぐに何の反応も視せなくなるのを、指と手のひらの感触で恍惚と味わい続けた
人間として多少の時間を生きたであろう生命は、瞬く間に片手を残し、生命では無いものにあっさり変わっていった
「やったー!この手、すっごい綺麗………!!」
残った少年の、血の気が引き力の抜けた手に何度も口付ける
美し過ぎて食べてしまいたい程だったが、これはせっかく手に入れた僕の部品だ
今は我慢が必要だった
長袖を捲る
繋ぎ目だらけの僕の腕が、服で隠して居た醜い部分を顕にする
焦るように、右手を引き抜いて処理機の穴に投げ捨てると、いま手に入れた少年の手を、繋ぎ目に新しく押し付ける
ぶじゅぶじゅと音を立てて、結合が始まった
「今度は眼が欲しいな〜」
雲が流れ、月が顔を出した
「また転校して、今度は眼の綺麗な子の居る学校に行きたいな」
紅い月だ
今日は曇ってただけで、新月では無かったらしい
僕はこの真赤な月が好きだった




