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これはたぶん、ふつうの恋の話。  作者: AYANO


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桜舞

「梓、お待たせ。・・・知り合い?」


 純平は少し乱れた息を整えながら、なるべく平静を装う。


「あ・・・純平くん・・・」


 梓は純平に気が付くと、少し気まずそうな顔をする。すると、その男は純平の顔を見るなり純平に向かって言い放つ。


「あのっ、ひとつ聞きたいんですが・・・夏見先輩は梓先輩とは、お付き合いされてないんですよね」

「・・・・・・何が言いたいの?」


 自分と梓のことを先輩と呼ぶなら、こいつは2年生か? 1年生は入学したばかりだし・・・と純平は男の顔を見ながら冷静に対処する。


「俺、梓先輩のことが好きで、このあいだ付き合ってほしいって言ったんです。その時は断られたけど、どうしても諦めきれなくて・・・」

「それで? 君は俺に何が言いたいの?」


 純平は後輩の男をじっと見つめる。その目ヂカラに圧倒されてしまった後輩は、勢いのまま言ってしまったことを早くも後悔していた。


「なにがって・・・その・・・」

「俺と梓がどんな関係であろうと、君には関係ないよね? それに梓はもう断ったんだろう? あんまりしつこいと余計に嫌われるよ。・・・梓、行こう」


 純平は梓の手を取って公園に向かって歩き出す。

 思えば約1年前、筒居に駅で待ち伏せされた時もこうして梓の手を取って歩いたなと思い出していた。


 その手を握ったままいつもの場所に着いた時、純平はふっと思いつく。


「梓はこの上って行ったことある?」

「え・・・この上? 行き止まりじゃないの?」


 たまに人が通って奥に行くことはわかっていたが、そこに何があるのかまで気にしたことがなかったし、行くこともない。

 二人がいつも練習しているのは遠くに海が見え、手前に町が見渡せる展望台にもなっている広場の一角だった。


「時季的にもいい時季だし、練習前にちょっと行ってみない?」


 純平に誘われた梓は、そのままついていくことにした。

 二人はバイオリンを背負ったまま、広場の奥へと進む。

 

 奥まで進むと、左側に舗装された坂道が伸びていた。

 周囲は鬱蒼と樹々が生い茂っており、時折吹く海風に煽られて、ザザァーと枝が揺れている。その坂道を歩いていくと、急に拓けた空間に辿り着いた。


 そこは芝生で整備されたもう一つの広場になっていたのだが、圧巻だったのはその周りに植えられた桜の木が満開を迎えていたことだった。


「すごい・・・きれい・・・」


 海風が吹くたびに桜吹雪がハラハラと舞い上がる。

 その様子はとても幻想的で、梓は両手を上に向けて舞い上がった花びらを掴もうと、手のひらを握ったり開いたりする。

 二人はバイオリンケースを下ろし、少しの間お花見を楽しむことにした。


「この場所さ、こんなにきれいなのに下に生えている樹のせいで全然目立たなくて、知っている人が少ないんだよな。花見の穴場スポットだよ」

「そうみたいね。全然人がいないし、こんなにきれいなのにもったいないわ」

「去年はちょうど満開の時に雨が続いたから来れなかったけど、今年は天気がよくて良かったよ」

「うん・・・・・・そうね」


 そう言いながら梓はずっと桜吹雪に酔いしれていた。

 純平も桜吹雪を見上げながら梓の隣に立つ。そして、そのまま梓の横顔を見ると、胸が締め付けられる感覚に陥る。


 桜吹雪の中の梓は息をのむほど美しく、そして儚かった。掴まえていないとどこかに消えてしまいそうな、そんな雰囲気を純平は感じてしまった。

 だからだろうか。梓の髪の毛についた桜の花びらを取ろうと手を伸ばした時、伸ばした手で梓の後頭部をゆっくりと引き寄せ、もう片方の手を梓の背中に回し、気がつくと自分の胸の中に閉じ込めていた。


 梓は突然、純平に抱きしめられたことに驚き過ぎて、声を出すこともままならない。しかし、決してイヤな気持ちではなく、むしろ喜びを感じていた。

 だから梓は、純平が言葉を発するのをじっと待つことにした。


 なぜ、自分はこんなことをしているんだろう。

 梓が告白されていたから? それとも、桜吹雪を見上げる梓がきれいだったから?

 純平は自分がした行動に自分で驚いた。

 これまで何度か梓を抱きしめたことはある。しかしそれは、全て梓を慰めるための行動だった。


 でも今は、梓は泣いてもいないし、落ち込んでもいない。むしろその逆で、桜吹雪に感動し目をキラキラと輝かせている。それなのにこんなことをするのは何故なんだ。そう考えた時、その言葉は自然と口に出ていた。


「梓・・・・・・俺、梓のことが好きなんだ・・・・・・ずっと、この関係を壊したくなくて気持ちを隠していたんだけど・・・これ以上はもう無理だった・・・ごめん」


 純平はあふれ出る気持ちを抑えられなかった。1年以上隠し続けた想いは、梓のそばにいればいるほど募っていき、自分以外の男と一緒にいる梓に対して嫉妬した。


「純平くん・・・・・・」


 梓も純平の想いを聞いて嬉しかった。自分も同じ気持ちだったから。

 でも、やはりどうしても梓には、あと一歩踏み込めなかった。

 

「梓、別に今すぐ返事はしなくてもいい。ただ、俺の気持ちを知っていて欲しかっただけなんだ。だから、これからも今まで通りにしてほしい・・・・・・」


 本当は梓とその先へ進みたい。でも、それはまだ早いと思った純平は、せめて梓の負担にならないようにそう告げる。

 純平は梓を抱きしめるその手をゆっくり離し、恥ずかしながらも梓の顔を覗くと、その顔は耳まで赤く染まっている。そんな顔を見れただけでも純平は嬉しかった。


「ははっ・・・真っ赤だな梓。かわいい・・・」


 そう言いながら今度こそ本当に、梓の髪についている花びらを優しく丁寧に取る。その手があまりにも優しくて、梓はますます顔を赤くする。


「ありがとう、純平くん」

「・・・・・・うん。さっ、練習しようか」


 再びバイオリンケースを持って、二人はいつもの広場へと戻る。


 その夜。純平は梓を家に送り届けて自宅の部屋に入るなり、ベッドにダンゴムシ状態で丸くなる。


(ああああああっ‼ なんで俺、告白なんかしたんだ‼ 言うにしても今じゃないだろう‼ バカバカバカ! 大バカ野郎だ!)


 と、一人大反省会状態だった。


 ひとしきり脳内反省会をし、ゴロンと大の字になって上を向く。


(だってしょうがないじゃないか。あの時の梓は、本当にきれいな顔をしていたんだ。言わずにはいられなかった。それに、迷惑なら迷惑だと梓ははっきり言うはずだ。それどころか、ありがとうって言われたし、期待してもいいのか・・・?)


 などと、純平の頭の中は今日の出来事で一杯で、夕飯を食べている時に両親から怪訝な目で見られていることにも気が付かなかった。


 高校3年の春。純平は初めて女の子に告白をした。

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