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これはたぶん、ふつうの恋の話。  作者: AYANO


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謝罪

 会議室に入ってきた筒居は、顔を下に向けたままこちらを全く見ようとしない。その態度に純平は腹が立って仕方なかった。

 その筒居を真ん中にして両親が立っており、会議室にいた純平たちに向かって父親が一歩前に出て口を開く。


「お話の途中に申し訳ございません。私は筒居佳織の父の、筒居秀樹と申します。遠山さん、夏見さん、そしてご家族の皆様、この度は娘が大変なことをしてしまいました。親として深くお詫び申し上げます」


 そう言って筒居の父親が頭を下げると、母親と娘も頭を下げた。それからも父親の話が続く。


「娘がやったことは取り返しのつかないことです。自分のことしか考えず、遠山さんを傷つけた行為は、許されるものではないと思っております。しかし、そのように育てたのは、親である私たちの責任でもあります。謝って済む話ではありませんが、今できる精一杯の謝罪をさせて頂きたく、こうして参りました。本当に申し訳ございませんでした」


 そこまで言うと、再び深く頭を下げる。


 筒居の父親は、この町では一番大きい水産物加工会社の社長で、従業員も多く抱えている、やり手の社長として有名だった。

 そんな父親なので、今回自分の娘が犯した過ちに対してその被害者となった梓や純平、その家族にも真摯に向き合うことのできる、とても誠実な父親だった。

 

 しかし、父親が謝罪する一方で、肝心の筒居本人からひと言も謝罪の言葉がない。それに気づいた征司が、筒居に直接問いかけた。


「筒居さん、あなたは自分のお父さんやお母さんが頭を下げているのを見て、何も思わないのかい?」


 征司にそう言われ、筒居は少しだけ顔を上げる。


「君はまだ未成年だから、保護者が出てくるのは当たり前だ。私も同じようにするだろう。でもね、高校2年生はそこまで子供じゃない。自分が悪いことをしたのなら、ご両親だけではなく、あなたもきちんと謝罪するべきだと思うよ。違うかい?」


 征司は優しい口調ながら、顔はしっかりと筒居を見て問いかける。

 それでも筒居は唇を噛み締めるだけで、言葉を発しようとしなかった。

 その様子を見て、征司は話を続ける。


「君は、純平くんといつも一緒にいる梓が羨ましいと言っていたそうだね。でもね、なぜ二人がこんなにもいつも一緒にいると思う? ・・・・・・二人にはバイオリンという共通点がある。そして、そのバイオリンを頑張るという目標もある。二人はただ仲が良いだけじゃない。お互いにバイオリンを競い合うライバルであり、切磋琢磨していく同志でもあるんだ。君は梓を羨ましがるのではなく、純平くんと一緒に頑張っていける何かを見つけようと思わなかったのかい?」


 征司に見つめられたまま問いかけられている筒居は、その言葉に何も返すことが出来なかった。

 梓を妬んで、恨んで、傷つけることばかり考えて、自分が純平に相応しくなろうと努力しなかったことを言われたからだ。

 そのことに気づいた今、とても恥ずかしく、情けなかった。


「君はまだ若い。やってしまったことはもう取り消せない。けれど、これからでもやり直すことは出来る。きちんと反省して、そしてもう間違いのないように、こんな風にご両親を悲しませることがないようにしてほしい」


 征司が話し終わると同時に、筒居の目から涙が落ちる。そしてやっと、震える声で、


「と・・・遠山さん・・・夏見くん・・・ご、ごめんなさい・・・」


 と言った。でも、その一言だけで、あとは泣くばかりになってしまい、そのまま両親に連れられて会議室を出て行った。


 筒居の処分は無期限の停学という非常に重たいものだった。その後筒居は高校を自主退学。翌年、別の高校を受け直し、そこでは真面目に3年間通った。


 そんな話を聞いても純平は、筒居のことを許す気にはなれなかった。思い出したくもないから、この記憶だけは抹消してしまいたいのに、いまだに自分の頭の中にこびりついて離れない。


 そして話し合いのあいだ、梓は一言も話さなかった。ただ、静かに話を聞いているだけの梓が心配になった純平は、梓の顔を覗いてみる。それに気づいた梓が「なに?」と声を掛けてきた。


「・・・いや、大丈夫かなって・・・」

「そうね・・・・・・正直まだ落ち込んでいる・・・・・・けど、純平くんがいてくれたから、いてくれるから、今は少し安心してる」


 そう言って久しぶりに梓の笑顔が見れた。


 皆で学校を出ると、征司はまだ仕事が残っているので病院に戻ると言い出した。


「それなら梓ちゃん、今日はうちでお夕飯食べましょう」


 房恵にそう提案されて、梓は少し悩む。しかし、房恵は間髪入れずに言葉を繋げた。


「遠山先生も、お仕事が終わったらうちにいらしてください。明日はお休みですし、主人に付き合って下さると嬉しいわ。花純先生もどうですか?」


 突然誘われた花純も驚いてしまった。


「大変ありがたいんですが、私も夜のレッスンが入ってまして、戻らなくちゃいけないんです・・・」

「あらぁ・・・残念。またの機会にいらしてくださいね」

「はい、ぜひ。・・・梓、純平、明日はレッスンに来るよね?」


 花純は自分の車で来ていたため、正門で別れることになる。その前に二人に聞いてきた。


「俺は行きます。・・・・・・梓、一緒に行くだろ?」


 純平は梓の顔を見て尋ねる。


「花純ちゃん・・・・・・私、今の状態でちゃんとできる自信ない・・・・・・」


 小さな声で話す梓を見て、花純はひとつ息を吐く。


「梓、バイオリン嫌いになった?」


 梓は首を横に振る。


「もう、弾きたくない?」


 もう一度首を横に振る。


 その梓の返事を見て、花純はひと際大きな声で梓に告げる。


「じゃあ、バイオリンを弾こう。自信なんてものは、自分が弾けるようになってあとからついてくるものだよ。自信をつけたいなら、バイオリンを弾いて、弾いて、弾きまくらないとつかない。わかるよね?」

「・・・・・・うん」


 花純は梓の頭を優しく撫でる。


「明日、教室で待っているから、純平と一緒においで。今日の分までみっちり、たっぷり、こってり指導するから。ね?」


 そう言って笑顔を向けると、梓も花純にわずかな笑顔を返す。


 梓が立ち直るまではもう少し時間が掛かるかもしれないけれど、それでも少しずつ前を向いて歩いていく梓を純平は守っていこうと心に誓う。


 その夜。梓は純平の家で房恵と一緒に夕飯を作っていた。途中、加夜子も加わり、久しぶりに賑やかな食卓を囲む。

 夜8時過ぎに純平の父親と征司が帰ってくると、酒が入った大人たちはますます盛り上がっていた。


 クリスマスの時とは違い、和やかな雰囲気に包まれる。

 大人たちがダイニングテーブルで晩酌しながら話しているそばで、純平と梓はリビングのソファーに二人で並んで座る。


「純平くん、いろいろとありがとうね」


 クッションを胸に抱えながら、梓が純平にお礼を言ってきた。


「俺は・・・何もしてないよ・・・それどころか、あんな目に遭わせて・・・・・・」

「ううん。あの時私、純平くん助けてって何度も心の中で叫んでいたの。目が見えなくて、立ち上がることも出来なかった私は、無意識に純平くんに助けを求めていた。そしたら、ホントに助けに来てくれたから・・・嬉しかった」

「梓・・・・・・」

 

 少し顔を赤くしながらそういう梓が可愛くて、純平は思わず手を伸ばしそうになる。しかしここで、ダイニングテーブルの方から視線を感じパッと見ると、大人四人がニヤニヤとニコニコの間のような、何とも言えない表情をしてこちらを見ていた。


 それに気づいた純平は、伸ばしかけた手を引っ込めてなんでもないように振舞う。精一杯の平常心を装って。


♩♪♩♬ ♬♩♪♩


 ここで純平は過去の記憶から帰ってきた。

 一体どれだけ考えていたんだろう・・・・・・。洗濯機はとっくに止まっていた。

 慌てて洗濯物を干しながら、今日の夕飯をどうするか考える。


 自分で適当に作るか、外食するか・・・・・・。

 純平はまた、自分の日常生活に戻っていった。

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