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これはたぶん、ふつうの恋の話。  作者: AYANO


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救出

 弁当を食べ終えた純平が教室に戻ると、純平の元に江口と岸本が寄ってきた。


「夏見くん、遠山さんと一緒じゃなかったの?」

「え・・・? 梓? 一緒じゃないけど・・・」


 純平は今日、吉田と橋本と共に屋上で弁当を食べていた。梓はいつも江口と岸本と一緒に食べているので、そんなことを聞かれる理由がわからない。


「遠山さん、昼休みが始まってすぐ、ちょっと行くところがあるって言って、お弁当を置いて出て行ったの。でも、まだ戻ってなくて・・・」


 そう話す江口の手には、梓がいつも持っている弁当箱が入った小さな手提げバッグを持っていた。


「どこに行くか聞いてないの?」

「うん・・・聞こうとした時にはもう出て行っちゃってて・・・」


 三人で話している間に、5時間目を知らせるチャイムが鳴る。

 授業が始まっても梓は戻ってこなかった。


 5時間目が終わり休み時間になると同時に、純平は梓のスマホに電話を掛ける。すると、梓のカバンの中から「ヴーッヴーッ」とバイブレーションの音がする。


「梓・・・・・・」


 これまで梓が授業をサボることなどなかったし、なにより、カバンも何もかも置きっ放しだ。きっと、梓の身に何かがあったのだと直感する。


 江口も岸本もやはり心配だったらしく、二人も一緒に手掛かりを探そうとしてくれている。


「夏見くん、これ・・・!」


 岸本が梓の机の中から1枚の紙切れを見つけ、それを純平に渡す。

 それを読んだ純平は愕然とした。


「江口、岸本、俺は科学準備室に行ってくる。先生が来たら言っといてっ!」


 純平はそう言い終わらないうちに、教室を飛び出した。


 2階の教室から1階に階段を駆け下り、廊下を走る。途中、先生に廊下を走るな! と言われても、純平の耳には入ってこなかった。


(梓! ・・・梓!)


 昨日、楽譜がバッグごと無くなり、キーホルダーも無くなった。そして、今日は梓がいなくなった。誰かから敵意を向けられているのは間違いなかった。


 昨日から異変は起きていたのに、今日、梓から離れてしまったことを純平は後悔する。せめて楽譜が見つかるまでは、梓から離れるべきではなかったと。


 科学準備室に着いてドアノブを捻ろうとすると、なぜかドアの鍵穴にはカギが刺さったままになっていた。試しにそのまま開けようとするも、ドアは開かず、刺さっているカギを回すとガチャリと音がした。純平はゆっくりドアを開き、中に声を掛ける。


「梓・・・・・・?」


 部屋の中は真っ暗で、その様子がわからない。ドアのそばにあるだろう照明のスイッチを探し、照明をつけた瞬間、床にへたり込んで呆然としている梓を見つけた。


「梓‼」


 純平はすぐさま梓の元へ駆け寄った。梓の顔は涙でぐちゃぐちゃで、目は虚ろになっている。


「・・・・・・純平くん・・・・・・」

「梓! 何があった⁉」


 純平は梓の両肩に手を置き、懸命に話しかけても、梓は何も答えない。その代わりに、目からまた涙がポロポロと流れ落ちてくる。部屋が真っ暗だったこともあり、目の難病を抱えている梓は身動きが取れなかったのだろう。

 そんな梓を純平は強く抱きしめた。


 誰がこんなに梓を傷つけた⁉

 なんでこんなことをした⁉


 言いたいことはたくさんあるけれど、とにかく梓のことが心配で、カタカタと小さく震える梓の身体を、純平はただ、ただ抱きしめることしか出来なかった。


 しばらくして落ち着いたとき、純平は改めて周りを見て見る。

 無数に散らばる紙切れの数々・・・それを拾い上げて見ると、純平にもそれがなんであるかすぐに分かった。


「・・・・・・誰がこんなことっ・・・・・・!」


 それを見た純平は、自分の胸が抉られるほどの衝撃と悔しさを感じる。

 

 音楽を奏でる者にとって楽譜は、作曲者の思いを音符を通して受け止め、それを音に表して演奏することによって、作曲者が何を伝えたいのか、何を表現したいのかを伝えるための手紙であり、ラブレターでもある。

 そして、たとえ暗譜をしてても、その譜面には自分たちのこれまでの努力が詰まっている。


 その努力をこんな形で破壊し、暴力的に奪うことなど決して許されることではない。


 純平は無言でビリビリに破かれた楽譜を拾い集める。それを梓が手に握っていた手提げバッグに入れようとした時、その中に入っていたものに気づいた。それを手に取った純平は、さらに悔しさが募る。


 梓と一緒に買った思い出の品は、バラバラになった姿で純平の手に握られた。


 とにかく純平は、一刻も早くこの部屋から出たかった。


「・・・・・・梓、立てるか?」


 優しく梓に尋ねると、首を縦に1回頷いて答える。

 純平は梓の手を取って、ゆっくり立たせて科学準備室を出た。

 

 もう6時間目の授業も終わっている。今頃HRをしている頃だ。

 このまま教室に帰るとまた目立ってしまうが、今はそんなことどうでもよかった。

 

 こんなことをした奴を絶対に許さない。絶対に誰がやったか見つけてやる。純平はそう心に誓って、梓の手をしっかり握ったまま自分の教室へと戻った。


 ガラガラガラッ。純平が教室のドアを開けると、クラスメイトから一斉に注目が集まる。


「夏見、遠山、お前たちどこに行ってた」


 1年から引き続き担任となった鈴木先生が、純平と梓に詰め寄る。

 しかし、明らかに雰囲気のおかしい二人に、鈴木先生だけでなく、クラスメイト全員が言葉を掛けることが出来なかった。


「先生、授業を無断欠席してすいませんでした。でも、とても大事な話があるんです。HRが終わったら、お時間いただけますか」


 純平は梓の手を握ったまま、それでも目は真っ直ぐ鈴木先生を見て訴える。

 そのただならぬ気迫に押されて、先生は「わかった・・・」としか言葉が出てこなかった。


 HRが終わり、純平は帰り支度をすると、梓の側で床に膝をつき、梓の顔を覗き込む。


「梓、今から先生と話すから。梓が知っていることを話すことは出来る?」

「・・・・・・純平くん、私もう・・・・・・」


 梓から諦めの言葉が出てくるのを感じ、純平はそれを遮った。


「梓・・・これは放置していいことじゃないよ。わかるだろう? 俺も一緒にいるから、大丈夫。梓は一人じゃないよ」


 純平が梓のそばで膝をついて話していると、吉田や橋本、江口と岸本も心配そうに寄ってきた。それに気づいた純平が四人に声を掛ける。


「みんな、心配かけてごめん。とりあえず先生と話してくるし、明日、話せるようなら話すから・・・」

「うん・・・夏見くんも、遠山さんも、無理しないで」

「ありがとう」


 純平は四人にお礼を言うと右手には梓のカバンを持ち、左手は梓の手を握って教室を出て行った。その様子を見て、二人を揶揄う者など誰もいなかった。

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