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これはたぶん、ふつうの恋の話。  作者: AYANO


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破壊

 季節はさらに進み7月。期末テストが終わると、生徒たちは一気に夏休みをどうするかと気持ちが浮足立っていた。


 あれほど猛アプローチしていた筒居は、純平に徹底的に避けられているのを感じたのか、直接接触してくることが目に見えて少なくなっていた。

 ただし、休み時間や移動時間など、遠巻きに純平のことを見ており、純平はその視線を感じるも、散々断ってきたので相手にすることはない。


 梓も江口や岸本と仲良くなれたのはいいが、たまに昼休みに筒居が加わることがあり、その日だけは口数を少なくして過ごしていた。

 純平としては、筒居とあまり接触してほしくなかったのだが、梓に友達を作ろうと言い出した手前、そこまではさすがに言えなかった。


 吉田や橋本など、友人たちが夏休みを楽しみにしている中、純平と梓は緊張感が増していた。

 7月最後の土日に、二人が出場するコンクールがあるためだ。

 そのため、期末テスト明けからしばらく、平日も花純のレッスンを受けるため、二人は学校帰りにバイオリン教室へ通うことになる。

 

 毎日は大変なので、平日は火曜日と金曜日に行くことが決まった。しかも、学校から直接教室に行くため、必然的にその日はバイオリンと楽譜が入った手提げバッグを持って登校する。


 夏休みまであと1週間となった火曜日。この日も純平と梓はバイオリンケースと手提げバッグを抱えて登校してきた。

 さすがに机のそばに置けないので、先生に許可を貰い、教室の後ろにあるロッカーの上に置かせてもらう。1年の頃から何かと二人のバイオリンに触れてきたクラスメイト達も、そこにバイオリンがあることを特段気にしてもいなかった。


 その日の放課後HRが終わると、純平は置いていたバイオリンケースを背負う。梓も自分のケースを手に取り背負おうとした時、違和感に気づく。


「・・・あれ?」

「どうした?」


 梓はバイオリンケースをそのままに、何かを探すように辺りを見回す。


「・・・・・・梓?」

「・・・純平くん、ないの」

「ないって何が?」

「お母さんのコンサートに行った時に買ったキーホルダー・・・」

「えっ・・・」

 

 純平はパっと梓のバイオリンケースを見ると、確かに今日の朝までついていたはずのキーホルダーがついていない。

 そのキーホルダーは純平も同じものを買い、自分のバイオリンケースにつけている。その純平のキーホルダーは、そのままチャリチャリとぶら下がっていた。しかし、無くなったものはそれだけではなかった。


「えっ・・・⁉ うそっ・・・なんで・・・⁉」

「どうした⁉」


 梓は顔面蒼白な顔を純平に向けて、震えながら声を出す。


「・・・・・・楽譜(スコア)が入ったバッグが・・・ない・・・」

「えっ・・・・・・⁉」


 純平はあまりのことに少し大きな声が出てしまい、それに気づいた吉田が二人に声を掛けてきた。


「どうした? 何かあったのか?」

「あっ・・・いや、梓の楽譜が入ったバッグと、キーホルダーが無くなってて・・・」


 純平が吉田に説明している間も、梓は教室中を探し回っていた。それに気づいた江口と岸本が梓に声を掛けている。


「でも、朝からずっと動かしていないのに、キーホルダーだけが無くなるとは考えにくいよな・・・」

「・・・ああ。それもだけど、楽譜だ。あと2週間もしたらコンクールなのに、楽譜がないと・・・」


 純平も不安になり梓を見ると、梓はすでに涙目になっていた。ここで梓の泣き顔をクラスメイトに見せるのはマズいと思った純平は、梓に声を掛ける。


「梓、電車の時間もあるし、今日はとりあえずこのまま教室に行って、花純先生に新しい楽譜を用意してもらおう。今日はピアノ伴奏との合わせだし、遅れるわけにはいかないから・・・な?」

「・・・・・・うん」

 

 梓も、今日が大切な日であることは十分わかっている。楽譜も暗譜しているので、必ず必要かと言われればそうではない。しかし楽譜には、今まで花純から受けた指導や、自分が頑張ってやってきた足跡がいくつも残っている。

 それらを楽譜に書き込んでいっては頭に叩き込み、体に覚えさせていった。そんな大切な楽譜が、バッグごと無くなったのだ。しかも中には、今回の曲だけではなく、今までやってきた大切な曲の楽譜が入っている。


 その様子を見ていた吉田と、途中から入ってきた橋本、そして江口と岸本が自分たちの代わりに探しておくと約束し、純平と梓はそのままバイオリン教室へと急いだ。


 翌日。吉田たちが懸命に探したものの、結局楽譜は見つからなかった。

 梓もレッスンに集中しようとするものの、やはり気持ちが空振ってしまい、思うように進めることが出来ない。


 そしてそれは、純平の知らないところで起こってしまった。

 梓は昼休み、校舎1階の廊下の突き当りにある、元科学準備室へと来ていた。三時間目の移動教室から帰ってくると、梓の机の中に匿名の手紙が入っていた。


 その内容は、梓の楽譜が入った手提げバッグらしきものをその部屋で見た。でも、本当にそうなのかわからないから、自分で確かめてほしい。誰がそこに置いたのかはわからない、という内容だった。


 梓は迷いなくその指定された元科学準備室へと向かう。誰が、何の目的で、どうして・・・考えること、言いたいことはたくさんあるけれど、とにかく早く取り戻したい。そんな気持ちで弁当も食べずに早足で廊下を歩く。


 元科学準備室のドアを開け、ドアのそばにある電気をつける。窓は全てベニヤ板で塞がれていた。以前は科学準備室だったが、今は使われなくなった机や椅子、備品類が置いてあり物置状態になっている。

 その机の上に手提げバッグがあるのを見つけ、梓は駆け寄っていく。


 見つけたという安堵感を感じたのも束の間、自分の目の前に広がっている状況に言葉が出なかった。なぜなら、机の上にバッグが無造作に投げ捨てられており、その周りにはビリビリに破られた紙が散乱していた。

 その1枚を拾い上げ見ると、五本線に音符が並んでいる。どこからどうみてもそれは楽譜だった。梓は何枚も何枚も拾ってみる。自分が穴が開くほど見てきた楽譜が見るも無残な姿に変わっていた。


「・・・・・・なんで・・・・・・」


 手提げバッグを掴み、その場にへたり込む。すると、カチャリとバッグの中で音がする。梓がバッグの中を見ると、その中には元の原型などすっかりなくなった、あのバイオリンのキーホルダーが入っていた。


 それを確認した瞬間、突然目の前が真っ暗になる。「えっ?」と声をあげると同時にバタンッとドアが閉められる。

 梓は突然訪れた暗闇に、体が動かなくなった。


 破られた楽譜。壊されたキーホルダー。そして真っ暗な部屋に閉じ込められた現実。そのどれもが梓の心をズタズタに切り裂いた。

 助けて、と叫びたいのに声が出ない。梓は涙が出るばかりで、どうすることも出来なかった。


「・・・純平くん・・・助けて・・・」


 梓は泣きながらそう呟くので精一杯だった。

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