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これはたぶん、ふつうの恋の話。  作者: AYANO


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再婚

 スポンジケーキが焼き上がり、それを冷ましてデコレーションをする。

 梓と純平の母、房恵がケーキを完成させると、時刻はもう午後3時を過ぎていた。


「おお・・・! 美味そうじゃん」

「美味そうじゃなくて、絶対に美味しいの!」

「そうよ純平。梓ちゃんの愛情がたっぷり詰まってるんだからね」

「へえへえ・・・」

 

 姉の杏子がいる時はこうした会話がよくあったが、今度はそれを梓がしていることに気が付いた純平は、それはそれでなんだかくすぐったく感じてしまった。


「そういえば父さんは?」


 純平と同じく寝起きの悪い父は、午前中リビングでぼうっとしていたのに、午後から姿を見せていない。


「ああ、ちょっと隣町までおつかいに行ってもらってるの。もうじき帰ってくると思うけど」


 母がそう言うのと同時に、自宅の玄関が開く音がした。


「ただいまー。母さーん買ってきたよー」


 もう40代後半になるおっさんが、嬉しそうに弾んだ声を出すのを聞いて、純平は「気色わるっ」といい、梓は「かわいい」といった。


 母に言われて玄関に梓と一緒に向かうと、そこには父だけではなく、梓の父の征司と一人の女性が一緒に立っている。


「お父さんと、加夜子さん・・・・・・」


 梓は、征司と一緒にいる女性を知っているようで、その名前を呼んでいた。


「純平くん、紹介するね。同じ病院で働いている堀田加夜子さん。房恵さんの後輩だよ」

「初めまして、堀田です。夏見先生とお母さんの房恵さんには、いつもお世話になっています」


 征司に紹介された加夜子は、純平に対して丁寧に挨拶してくれた。


「あ、いえ、こちらこそ・・・あの、夏見純平といいます。梓とはクラスメイトで、バイオリンのデュエットを組んでいます」


 純平もとりあえず頑張って挨拶をする。しかし、その横にいる梓の表情は、先ほどとは打って変わって暗いものになっていた。


「今日はね、クリスマスパーティーと君たちのコンクールグランプリ受賞のお祝いをしようと思って、遠山先生と堀田さんに来てもらったんだよ」


 父が征司と加夜子がうちに来た理由を説明しながら、母親に頼まれて買ってきたものをリビングに運び込む。

 クリスマスパーティーというだけあって、フライドチキンやピザ、お寿司といろいろ買いこんできたようだ。ちなみに大人たちは、自分たちで飲むお酒もしっかり買ってきていた。


 そして、パーティーが始まった。

 純平はコーラで、梓はリンゴジュースで乾杯する。


「なあ、梓。今日こんなことするの知ってたのか?」


 今の今まで何も聞かされていなかった純平は、隣に座る梓に聞いてみた。


「私はおばさまから聞いてたから。でも、あの人まで来るとは聞いてなかった・・・・・・」


 梓が言うあの人とは、征司が連れてきた加夜子のことだとすぐに分かった。そして征司と加夜子がどういう関係なのかも、さすがの純平でもすぐに気が付いた。


「そうだ。夏見先生に見せようと思って、純平くんと梓のコンクールの映像を持ってきたんだ。加夜子も見たいって言ってたし、鑑賞会でもしようか」

「おっ! それはありがたい!」


 父親2人は早速DVDプレイヤーの準備をして、再生ボタンを押す。


 画面に映し出されたのは、客席から見えている純平と梓の二人だった。


「二人とも衣装が素敵で、似合っているわ」


 加夜子が二人を見ながら言うと、純平は愛想笑いをするも、梓はニコリともしなかった。

 そして二人の演奏が始まると、純平の父は目を瞑り、時折首を上下に振って二人の演奏に聴き入っているようだ。


 二人の演奏が終わったところで映像が切れ、次に映ったのは表彰式の映像だった。部門別の表彰が終わり、総合グランプリが発表されると、カメラの横で征司が喜んだのであろう、大きな声が入っていた。


「征司さん、よっぽど嬉しかったのね」

「そりゃそうだよ。二人が頑張っているのはわかっていたからね。梓の喜ぶ顔が見れて嬉しいよ」


 征司と加夜子が仲睦まじくそう話すのを見ていた房恵が、二人にところでと話しかけてきた。


「遠山先生、梓ちゃんには・・・・・・?」


 房恵に促されるように言われた征司は、一つ咳払いをして反対側に座る梓を見る。


「そうですね・・・・・・梓にはきちんと言っておかないといけませんよね」


 梓は父親に改めてそう言われ、顔を顰める。まるでこれ以上何も言うなといわんばかりの顔だ。しかし征司は、構わずに話を続ける。


「梓、実はな、来月、加夜子と入籍しようと思っているんだ。それで、近々一緒に住もうと・・・・・・」

「・・・・・・イヤ」

「・・・え?」


 梓の隣にいる純平には、はっきり聞こえた。でも、周りの大人は梓の声が聞こえなかったらしく、四人とも不思議そうな顔をしている。

 すると梓は、俯いていた顔をガバッとあげ、今度ははっきりと征司に向かって言った。


「結婚なんて・・・・・・一緒に住むなんて・・・・・・絶対にイヤ‼」

「梓・・・・・・」

「お父さんは・・・私だけじゃイヤなの⁉ 私が病気持ちだからイヤになったの⁉」


 気がつくと、梓の目から涙がポロポロポロポロ流れている。


「梓、そんなわけないだろう⁉ お前の病気とお父さんの結婚は関係ない!」


 征司は梓にわかってもらおうと、必死に説得しようとする。


「関係なくないよ! 私が病気だから・・・・・・だからお母さんとは違う人と子供ができたらってそう思ったんでしょう⁉」

「梓‼ バカなこと言うんじゃない‼」

「本当のことでしょ!? 将来目が見えなくなる私よりも、もっと健康な子供が欲しくて結婚するんでしょう⁉」


 征司は梓にそう言われて、一瞬言葉に詰まる。

 それを見て梓は征司に言い放つ。


「ほら、なにも言えないじゃない。・・・・・・お父さんなんか・・・・・・大っ嫌い‼」


 梓はリビングを飛び出し、その勢いのまま玄関からも飛び出していった。


「梓‼」


 征司よりも先に動いたのは純平だった。


「おじさん、俺が追いかけますから!」

「しかし、純平くん・・・・・・」

「梓の行くところはだいたいわかっているので」


 純平はそう言うと、急いで自分の部屋からコートを取り、梓が持ってきたコートを手に自宅の玄関を飛び出した。


 時刻は午後5時になろうとしていた。

 辺りはすでに薄暗く、梓の目が見えにくくなる時間が迫っていた。

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