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これはたぶん、ふつうの恋の話。  作者: AYANO


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19/60

修復

 純平は着信画面を見て一瞬躊躇する。

 吉田とは(いかり)で別れたきり連絡を取っていなかった。昨日橋本にも連絡をするように言われていたのだが、朝から墓参りに行ったりしていたので、ついつい先延ばしにしていた。


 しかし、友人と仲違いしたまま東京に帰れないと思い、純平は通話をポンと指で叩く。


「もしもし・・・」

『あっ・・・純平? いま大丈夫か?』

「・・・うん大丈夫だよ」

『あの・・・一昨日はごめんな。俺、言い過ぎた。あのあと橋本にも怒られてさ・・・純平と遠山にしかわからないことがあるんだから、周りが口を出すなって・・・』

「・・・・・・吉田も橋本も、俺を心配していることはわかるよ。でも、今はそっとしといて欲しい」

『そうだよな・・・・・・ホントにごめん』

「もういいよ謝らなくて。俺の方こそごめんな・・・」

『うん・・・なあ、明日帰るんだろ? 今日、仕切り直しで飲みに行かないか? 橋本と三人で』

「ああ、いいよ。錨だろ? 何時にする?」

『じゃあ、18時で。橋本には俺から連絡しとくわ。じゃあ、またあとでな』

「うん、またあとで」


 通話が終わったと同時に、純平はホッと息をつく。

 東京に帰る前に吉田とのわだかまりを修復することが出来そうで良かったと。


 約束の18時ちょうどに錨に着いた純平は、一昨日と同じように店の暖簾をくぐる。

 入口入って左手の4人掛けのテーブル席には、すでに橋本と吉田が向かい合って座っていた。


「ごめん、待たせて」

「俺らもいま来たとこだよ。純平も生ビールでいいか?」


 吉田に確認されたので、それでいいと答えると追加で注文してくれた。


 やがて三人分の生ビールが揃い、とりあえず乾杯した。

 数時間前の電話で純平も吉田もお互い謝罪したものの、面と向かって顔を合わせるのはあの時以来なので、まだ少しぎこちなさが残る。


 そんな時に頼りになるのは橋本で、自分の仕事での失敗談や最近やらかしたエピソードなどを話して三人で笑っているうちに、自然とぎこちなさも解消されていった。


「そういえば、山脇が結婚するらしいぞ。しかも相手は筒居佳織(つついかおり)だってさ」


 橋本は枝豆を食べながら、同級生の結婚報告をしてきた。


「え・・・筒居佳織って、確か純平のことが・・・」


 吉田はそう言いかけてやめる。


「まあ確かに、筒居の純平に対する猛アタックはすごかったけどな。でも、まさか山脇と結婚するとはな」


 純平は橋本から、かつて自分に思いを寄せていた女の子が結婚すると聞いても、何も思わなかった。あるとすれば「ふーん・・・」というくらいだ。


「純平は複雑じゃないのか?」

「なにが?」

「なにがって、かつて自分のことが好きだった女の子が結婚するって聞いたらさ・・・・・・まあ、でも、お前にはすでに遠山がいたから、そんなの関係ないか」


 吉田が笑って言うと、純平もつられて笑ってしまう。


「そうだな。これがもし、梓の話だったらこんなに冷静ではいられなかったけど、筒居なら別に何とも思わない。彼女には散々な目に遭わされたし、そのことを思い出したくもないんだ。ただ、相手が山脇ってことには驚いたけど」

 

 山脇は高校1年の文化祭で、バイオリンカフェのピアノ伴奏をした男で、純平とは高校卒業以来会っていない。

 元々そこまで親しいわけではなかったので、それが普通といえば普通だった。


「でもさ、純平がモテだしたのってバイオリンカフェもあるけど、そのあとの全校集会がデカかったよな。あれで一気にファンが増えたし。純平も遠山も」

「あぁ・・・・・・そういえば、そんなこともあったな」


 純平は橋本の一声で再び、梓との思い出を呼び覚ます。


♩♪♩♬ ♬♩♪♩


 土曜日に行われたコンクールから週が明けた月曜日。

 純平も梓も普段通りに登校していた。ただし、デュエットの継続が決まっても、二人の心に変化はなにもない。


 4時間目の授業が終わり、純平はいつも通り吉田たちと弁当を食べようと準備していた。梓はいつも一人でフラッといなくなるので、今日もどこかへ行くのだろう。弁当が入っている手提げバックと、今読んでいる本を抱えて、教室を出ようとしていた。


「夏見! 遠山! 悪いけど、ちょっと来てくれないか」


 梓が教室を出ようとしていたその時、担任の鈴木先生が二人を呼びに来た。

 全くもって嫌な予感しかしない、なぜか純平は直感する。


「先生、お腹空いているんですけど、今じゃないとダメですか?」


 純平はムダだと思いながらも、些細な抵抗を試みた。


「すまんな。弁当持ってきてもいいから、一緒に来てほしい」


 そこまで言われたら、従うしかしょうがない。

 吉田たちに憐れむような顔をされながら、純平は仕方なく弁当を持って、梓と共に鈴木先生の後をついていった。


 鈴木先生に連れてこられたのは、職員室の隣にある会議室。

 中に入ると、校長先生、教頭先生、そして学年主任の先生が座っていた。


「お待たせしました。二人を連れてきました」


 鈴木先生はそう言うと、二人を校長先生と教頭先生の前に座らせる。

 純平はこんな状況で弁当なんか食えるわけないじゃないかと、鈴木先生に抗議したかった。


「やぁ、すまないね。お昼時間に」


 そう思うならもっと考えてくれよと言いたかったが、なんとかその言葉は飲み込んだ。

 そんな純平の気持ちを知ってか、知らずか、校長先生は話を続ける。


「先日のバイオリンコンクールで、君たち二人が素晴らしい成績を残したと聞いたよ。おめでとう」

「「ありがとうございます・・・・・・」」


 純平と梓は、同時にお礼の言葉を口にした。


「それと、君たちのバイオリンのことは、文化祭の時から聞いていてね。なのに、私も教頭先生もまだ聞いたことがなくて、是非聞きたいと思ったんだ。それで、今度の金曜日に全校集会があるんだが、そこでコンクールのことを全校生徒に報告するのと同時に、君たちにバイオリンの演奏をしてもらいたいんだが、やってくれるかい?」


 校長先生は、あくまでも純平と梓にお願いをする。

 しかしそれは「やってね」と同義語だと二人は捉えた。


 純平はふぅと息を吐いて、隣の梓に聞いてみる。


「梓、どうする?」

「・・・・・・校長先生のお願いなら、やるしかないじゃない」


 答えはわかっていたが、梓がやるのであれば、純平が拒否することなんかできるわけがない。


「わかりました。金曜日ですね」

「おお、ありがとう! それと是非、受賞したメダルとかも持ってきてほしいんだが、頼めるかい?」


 オリンピックじゃあるまいし、と思ったが、純平も梓もムダな抵抗はしなかった。


「曲はコンクールで演奏したのでいいんですよね?」

「ああ、そうだね。それともう1、2曲演奏してもらえると嬉しいな」

「・・・・・・わかりました」

 

 純平も梓も、めんどくさいことになったなと思いながら、この日は結局、曲の相談をするため、先生たちがいなくなった会議室で二人で弁当を食べることにした。

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