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これはたぶん、ふつうの恋の話。  作者: AYANO


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変化

 二人の間に沈黙が流れる。

 純平は何を言えばいいのかわからなかったし、梓も家族以外にこの病気のことを打ち明けたのが初めてだったので、純平の反応が怖かった。

 それでも梓は、勇気を出して話を続けた。


「こんなこと突然聞かされて、びっくりしたでしょう? でもね、純平くんには話しておかなきゃって前から思っていたの」

「・・・・・・俺に? なんで・・・・・・」


 梓はふふっと笑って、純平に微笑みかける。


「もし今日みたいに、私が何かに躓いて転んだり、転びそうになっても、それはわざとやっている訳じゃないっていうことを知っていて欲しかったの」

「・・・・・・そんなこと、思わないよ」

「うん。純平くんは優しいから、そう思わないかもしれない。でも、誤解されることがないようにしたかったの。今はあなたといる時間の方が多いから、余計にね」


 梓は純平にもきっちりと境界線を引いた。今日みたいなことがあっても、気を引くためではない。誤解するなと。純平は直接言われなくても、そう言われた気がして、なぜか胸が苦しくなる。でも、なぜこんなに苦しいのか、自分でもわからなかった。


「学校では大丈夫なのか?」


 病気のことを打ち明けられたなら、やっぱり普段のことも心配になり、お節介だと思いつつも聞いてみた。


「日中はね、今のところ何の支障もないわ。薄暗くなると、見えにくくなってしまうけど」

「そっか・・・・・・そしたら、練習場所も考えないとな。あそこは街灯があるとはいえ、やっぱり暗いし危ないからな」


 それから純平は少し考える。練習に適した場所が、公園以外にないことはない。それを言い出そうかどうか、ずっと迷っていた。

 でも、梓の目の病気のことを聞いたら、そんなこと言ってられない。


「梓、俺もずっと黙ってたんだけど・・・・・・もしよかったら、明日から俺の家で練習しない?」


 今度は純平が梓を見て微笑んだ。


「え・・・・・・純平くんの家?」

「そう。実はさ、俺の家に小さいけど防音室があるんだ。でも、空調が無くて夏は暑すぎてやってられないから、公園に行ってたんだ。冬とか、天気の悪い日は使ってた。そこなら、明るいし思いっきり練習できるよ。梓がイヤじゃなければ、どう・・・かな?」


 梓にコンクールの話を聞いたときは、家に連れてくることなんか一切考えなかった。そこまで親しくするつもりもなかったし、コンクールが終わるまでの関係だと思っていたから。


 しかし、練習を通して梓の人となりを知るうちに、自分がその魅力にどんどん引き込まれていくのが分かった。


 二人で初めてバッハを演奏した時、文化祭で披露した愛の喜びや愛の挨拶、そしてチャルダッシュを演奏した時、梓と一緒に作り出す音は、自分が今まで味わったことがない程の高揚感と幸福感に包んでくれた。


 そんな気持ちにさせてくれた梓を、純平は素直に助けたいと思った。


「でも、これから毎日お邪魔するだなんて、ご迷惑じゃない?」

「大丈夫だよ。父さんも母さんもそんなこと言わないし、それに梓のお父さんとも知り合いなんだから、変なところに行くよりは安心してもらえるよ」


 梓はまだ遠慮しているみたいだが、純平はもう決めた。

 とりあえず、急に家に連れていくと驚かれるので、両親には前もって話しておこうと考えた。


「コンクールまでもう2か月無いんだし、この案で妥協しない?」


 純平にそこまで言われると、梓もNOとは言いづらくなった。


「うん・・・それじゃあ、お邪魔させていただきます。ご両親には、またご挨拶するわ」


 そうして、その次の日から純平と梓の練習場所は、公園から夏見家の防音室へと変わった。


♩♪♩♬ ♬♩♪♩


 今でも純平は梓の目の病気のことを思い出すと、心配で不安でしょうがない。いつ失明するかもわからないなんて、そんなこと自分にはとても耐えられない。

 白杖を持っている人を見る度に、梓のことが頭に浮かんでは「もし梓の目が失明していたらどうしよう」と考えてしまう。

 

 それでも純平は、梓を支え、守っていくつもりだった。けれど梓は純平の元を離れてしまった。

 その時は梓がいなくなったことに絶望し、悲観し、男のくせに号泣した。

 でも今は、梓がどうしてそういう決断をしたのかがわかる。


 だから純平は、もしもう一度梓に会うことが出来るなら、ずっと伝えたいことがあった。そのために、意地でも東京に残ってバイオリンを続けるという選択をしたのだ。


 今度こそ間違わないためにも。

 

 純平の選択を許してくれた両親には、とても感謝している。なので、せめて年に二回の里帰りくらいはきっちりしようと、毎年欠かさず帰省していた。


 墓参りから帰ってきた純平は、久しぶりに防音室へと入る。

 防音室は庭の端っこに父親が建ててくれたもので、広さは三畳ほどの、入り口は防音ガラスになっているものだった。

 純平が音大に行ってからはほとんど使われなくなっていたが、ここも母親が定期的に掃除をしているようで、年季が入っている割にはきれいだった。


 カラカラカラと扉を開け中に入ると、昔使っていた譜面台や楽譜、子供の頃に使っていたバイオリンなどがあった。

 そして、備え付けてある棚には、純平が受賞したトロフィーやメダルなどが飾られている。

 その中には、梓と一緒に出場したアンサンブルコンクールのものもあった。


 そのメダルを手にすると、純平はまたあの頃のことを思い出していた。

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