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これはたぶん、ふつうの恋の話。  作者: AYANO


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共鳴

 その日の放課後、純平と梓は山脇と共に音楽室へとやってきた。

 バイオリンカフェで演奏する曲を決めるためだ。


「なんだか騙された気分だわ」


 梓が山脇に対して不満を露にする。その気持ちは純平だって同じだった。


「いいじゃん。遠山は夏見だけじゃなくて、他の人とも仲良くなった方がいいでしょ」

「別に。他の人とわざわざ仲良くなろうなんて思わないわ。純平くんとは12月のアンサンブルコンクールに一緒に出ることが決まっているから、練習しているんだし」


 純平は梓にはっきり言われて、なぜか胸がキリっと痛んだが、わかっていたことなので気のせいにした。


「とにかく、やることは決まったんだし、文化祭まであと1か月だから、それで準備できる曲を探そう」


 純平は決まったものはしょうがないと腹を括る。本当は12月に向けての練習を強化したかったが、それは文化祭が終わるまでお預けになりそうだ。


 そして三人で話し合った結果、クライスラーの「愛の喜び」、エルガーの「愛の挨拶」、モンティの「チャルダッシュ」など全部で5曲ほど用意することにした。


「でもさ、自分で言うのもなんだけど、夏見も遠山も大丈夫なの? こんなに準備することになったけど」


 山脇は、今頃になって純平と梓の心配をする。


「お前さ、俺らがコンクール前だってわかって言ったんだろ。俺も梓も腹括ってやるんだから、お前も出来ないなんて言わずに逃げるなよ」

「わかってるよ。俺が言い出しっぺだしな。とりあえず家で練習して来るから、1週間後に三人で合わせるでもいいか?」


 山脇からのその提案に、純平も梓も了承する。


 それから1週間。純平と梓の公園練習は、文化祭に向けての練習となった。

 愛の喜びや愛の挨拶などは、CMなどでもよく耳にする曲なので、クラシックに慣れていない人でも受け入れやすいと思い、今回採用することにした。

 

 チャルダッシュは超絶技巧の曲として有名で、始まりは哀愁漂う雰囲気で叙情的に演奏する。しかし中盤から終盤にかけて、曲調は情熱的でエネルギッシュな曲調に変化し、ここで超絶技巧が光る。

 元はハンガリーのジプシー風民族舞曲とされており「酒場」をイメージしているため、中盤からの超絶技巧部分では大いに盛り上がると思い選曲した。


 そして山脇との約束の1週間後。純平と梓は、放課後の音楽室で山脇と共に練習するため、バイオリン持参で登校した。


 バイオリン持参の登校は目立つので嫌だったが、他に練習場所がないので妥協することにした。そのかわり、看板やカフェの装飾品制作など、他の準備に関しては免除してくれることになったので、それでプラマイゼロだ。


 放課後、純平は梓と一緒にバイオリンと楽譜などが入った手提げバッグを手に音楽室へ向かう。音楽室のグランドピアノの前には、すでに山脇がスタンバイしていた。


「よっ、お二人さん。遅かったな」

「日直だったんだよ」

「そっか、そっか」


 山脇は軽口をたたくと、自分が用意した楽譜が入っているタブレットを開き「どれからするー?」と言ってきた。


「三人で合わせるのは初めてだし、とりあえず愛の挨拶からしてみるか」


 純平の言葉に梓も山脇も同意したので、調弦を済ませて準備をする。

 

 山脇の柔らかなピアノの音にのせて、梓がバイオリンを弾き始める。

 そこに純平も加わっていくと、2本のバイオリンとピアノの音が美しく共鳴し、作曲者のエルガーが婚約者のために贈った曲とされるように、愛の溢れる音が音楽室に響き渡る。


 曲が終わり三人で顔を合わせると、自然と笑みが零れた。


「山脇くん、やるじゃない」

「孤高の美少女の遠山にそう言われると、素直に嬉しいよ」

「その変な呼び方は却下よ」

「ハイハイ」


 純平は梓と山脇のやり取りを横目に、次はどうしようかと考える。


「とりあえず、全曲やってみる? それで細かい修正を入れていこうか」


 それから愛の喜びや、万人受けするであろうJPOPの曲や、海賊が主人公の映画の主題歌などを演奏する。

 純平も梓も、これまでクラシックばかりだったので、こういう曲を演奏するのはとても新鮮で、練習の時から楽しんでいた。

 

 そして最後にはあの超絶技巧曲のチャルダッシュだ。その前に少し喉を潤そうと、純平は持ってきたペットボトルを取ろうとして音楽室の後方へ行く。すると、音楽室の扉に嵌めているガラスから、たくさんの顔が覗き込んでいて思わず「うおっ⁉」と大きな声を出してしまった。


「どうした⁉」

「どうしたの⁉」


 純平の声を聞いて、梓と山脇も一緒になって大きな声を出す。


「いや、なんかめっちゃ覗かれてて・・・・・・」


 純平が扉を開けると、そこにはクラスメイトのほとんどがいた。


「おいおい、お前たち。準備サボって何してんだよ」


 クラスのリーダー的存在の山脇が、看板製作やカフェの装飾品を作るために残っていたであろうクラスメイト達に、ここにいる理由を聞く。


「だってさ、夏見と遠山が持っていたバイオリンを見たら、どんな風に弾くのか気になって・・・そしたら、結構な音量で音楽が聴こえてきたから、みんなで行ってみようってなってさ・・・・・・」


 ここにいる言い訳をグダグダ言っているが、とりあえず時間がもったいないので、全員音楽室に入ってもらうことにした。よく見ると違うクラスの人や、その中には橋本までいた。


「しょうがないな。とりあえず、合わせるだけ合わせよう」


 山脇がそう言うので、純平も梓も仕方なく付き合うことにした。


 曲は山脇の力強いピアノの音で始まる。そして序盤の梓の哀愁漂う音が鳴り始めると、それまでざわざわしていた同級生たちが、一瞬で梓の音に吸い込まれていった。それに続いて純平も負けじと梓の音に自分の音をのせていく。


 中盤の超絶技巧の部分になると、純平も梓もそして山脇も楽しくなり、その気持ちが音に現れているのか、耳に入る三人の音が楽しく踊っているように見えた。


 まだ未成年なので酒場に行ったことはないが、きっとお酒を飲んで楽しく踊っている様子が、ありありと見て取れる。

 そしてクライマックスを迎えると、そこで見ていた同級生たちや、音楽室に入りきれなかった人たちから割れんばかりの拍手を貰った。


 その日を境に、純平と梓に対する同級生たちの見る目が変わったのは間違いない。

 1学期の途中からいろいろ噂をされていて、あまりいい気分ではなかったので、これをきっかけに変なことを言う奴らが減ってくれればいいと純平は思っていた。


 そして三人は文化祭当日を迎えた。

 この章で紹介した「愛の喜び」「愛の挨拶」「チャルダッシュ」は、YouTubeにもたくさん動画がアップされているので、気になる方は覗いてみてください。物語とリンクして、よりお楽しみいただけると思います!

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