SaGaと葛藤・クセつよ魔法世界でクセつよ乙女に恋は出来るか
「出だしは善かったんだが最低の告白になりそうだったから止めた」
ビー太くんはおみ足露出サービスしてくれた所で何処までも私というプレイヤーに対して冷徹なままだった。
ルフナ先生には制服が汚れましたので失礼します、とだけ告げ頭を下げて走って逃げてきてしまった。
「あの、彼はいったい?」というルフナ先生のビー太くん出現に対する問いについては「彼は学友で今二人で芸術的なツッコミ方法を模索してるんですッ」、と謎の言い訳を大声でして、ノリと迫力だけでかわしつつ。
ーーツッコミ模索中に好きな人に告白する乙女なぞいまいに。と脳内でセルフツッコミを入れていた。
「酷いよ、詩文の告白は見守ってくれてたのに、折角ルフナ先生のお顔もやっと見られてこれからキメ台詞だったのに、何で守護詩文かけてくれながら愛の告白中に蹴り入れてきたのー?!」
ーービー太くんひどぉいーー
肩で息をしながら私は鳴く。
「本気の恋をしろって言ってくれたのにー!」
私の全力の走りの横を乱れなく早歩きで着いてくるビー太くんは「やはり身体能力の底上げは詩文以外ではされないな、ご主人の足は想像以上に遅い」と私を分析していて、乙女心ごと泥まみれになった件については触れてもくれなかった。
ーーもう、走れない……。
魔法はイメージ出来ても、身体の方は現実世界みたいにちゃんと重く、進学校の体育で「2」を貰ってしまった運動音痴な私は、比喩でなく胸を痛ませながら走り出してから短距離で立ち止まってしまい、どうせ泥だらけなので森の緑のうえにそのままグタンとへたりこんだ。幸いなのはルフナ先生の位置からは見えないように入り込んだ森の道をぐねぐねと進めたこと、森の特質で近付き過ぎなければ詩文以外は見えない相手に聴こえないこと、だった。
「……ご主人は癖が強い。自覚しろ、さっきの詩文以外の告白部分じゃ、誰も本気で恋をしているだなんて思わないぞ」
ーー僕以外は。
ビー太くんは気まずそうに私に呆れた表情を向けながら、私の泥を払う動作をし「本当は僕には詩文もいらない、僕のゲームの中だからな」、と言って私から土を完全に取り除いてみせてくれた。
「ご主人の力で僕に見せて欲しいんだ、ご主人が夢中になってくれた、僕に注いでくれた沢山の物語の中で、弾む気持ちや落とした涙の意味を、本当の僕に真実から見せて欲しい、ご主人、僕と」
ーー君が僕に託したゲームの中で本気で遊んで恋を見付けてくれーー
「つまり、いきなりの珍妙な告白はゲーム機の僕は本気と見なさない。ふざけた選択肢をわざと選んで短いエンディングに突き進むようなものだからだ。僕が実は万能でご主人の味方でも、設定以上の過剰な世話は出来るだけ焼かない。ご主人が今『ここ』にいる事実、ご主人と対話が叶う『相手』が重要なんだ。きちんと誰かと向かい合って、最短ではなく本気の恋をしろ」
ーーリセットはしてやらないぞ、ロードも無しだ、出来るか、ご主人ーー
ビー太くんは今までで一番真剣に、そして初めて心配げに私にそう言ってくれた。
私の大好きな、昔から一緒だった、少しレトロな大事なゲーム機。私の相棒。私の半身。そんな彼が、誰よりも主人公になれる、たった一つの最後の奇跡のゲームの展開。それが、今なんだ。
「……そうだね、面白そうな選択肢だけで遊んでちゃ、乙女としてもゲーマーとしても、本気にはなってなかったかもしれないね」
私はまず、本当の、今やっと会えたルフナ先生を知っていかなくちゃ。ビー太くんで遊べる有り難さを深く真剣に想って来たぶん、ビー太くんとする最初で最後のこのゲームでは、攻略の関係ない、本当の恋を大切に始めなきゃ。
でも、でも。これだけは言っておきたい。
「ふざけた選択肢って結構選びたくなっちゃうのもSaGaなんだよビー太くん!」
ーー公式が用意しているエンディングならなんでも見てみたいモノじゃないですかッ!?
私の叫びを聞いたビー太くんは、その容姿と声に似合わぬ表情を作ると「やる気の方向を間違えるなッ!」と言いながら私に頭突きをしてきた。
痛くはないけれどプシュルルルと音がして私の額からは白煙が上がったので、私はやっぱり鳴き声を上げた。
「恋ってすっごくムツカシイ!!」
現実の恋にも過ちはつきものだと聞いているのに、ゲーマー歴=乙女歴な私(恋は二次元ゲーム限定)にはビー太くん判定の本気の恋は実はかなり難しいものなのだった。
なんか……主人公が全然……いうことを聞いてくれない……、ラブが進まない……どうしよ……。