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開拓? モブ先生ルート? ビー太くんキック

 設定説明が面です、もっとボケたい、早くボケたい。

 歌が魔力を増幅させたり、歌に込めた感情表現等が魔法の効果に上乗せされたりする、そんなミュージカルめいた世界が乙女ゲーム『マジカル・スターライト』、今私がビー太くんに連れて来られたゲーム世界だ。


 魔法を研究する高校と大学がくっついたような学園であり研究機関が舞台で、主人公の育成や簡単なバトルモードもついた少し毛色の変わったオモシロゲームなのだった。バトルモード中は変な詩文が飛び交ったりしてなかなか混沌としている。攻略対象キャラクターは十代前半の少年から趣味で留年を続けている四十路オジサマキャラまで多数の学園生徒たちだ。


 ……その中で、私がルフナ先生を好きになったきっかけは……、攻略キャラより彼の使う詩文が群を抜いて美しかったからだった。


 他のキャラクターがいかにもな呪文めいた……、例えば『我が掌中に滾れ紅蓮の焔』等と簡潔な詩文で綺麗な声の抑揚を付けて描かれるなか、先生にだけは凝った詩文歌詩が使われていた。


 教師なのだから、攻略キャラの生徒たちより凝った詩文が使われるのは解る。解るが。


 有名声優さまのお声でもない、製作陣の関係者のうちの誰かが声をあてたのではないかとコアなファンからネットで囁かれているモブの彼の歌声は。なんというか。


「詩文の美しさと魔力は素晴らしいのに音痴過ぎて台詞も若干棒読みで本当に残念可愛くて最高に素敵です先生! お慕いしておりました、許されるなら! 願わくは!! わたくしめとどうかお茶の時間など共にさせてください!!」


 ーールフナ先生はゲームの探索・育成パートの時に良く午後の森にいる事が多く、恋愛には全く役にたたないけれど彼の元を訪れると主人公のパラメーターをぐんぐん伸ばしてくれる特殊なキャラだった。


 学力・魔力・主人公のアホみたいな詩文の才能の全てが、ルフナ先生の元に通う度に研ぎ澄まされていく。


 恋愛するだけならパラメーターはそこまで高めなくても良かったし、真面目に授業に出れば攻略キャラにだけ探索パートで会いに行っても、バトルパート中にもさして支障はない(哀しいかなルフナ先生はバトルメンバーには入れられない)仕様で、隠しダンジョンやクリア後の裏ボスキャラ等もいない為、定期的にある学園の試験(試験失敗でゲームオーバーとなる)の救済措置が恐らくルフナ先生のお役目であり、何故か伸び続けるパラメーターはゲーム開発陣の遊び心だったのだろうと推察が出来た。

 因みにゲーム中ではフードを被っていて、ルフナ先生の顔の上半分は漆黒に塗られて隠されており、いかにも[攻略対象外です]、な風貌だ。そんなキャラ、そんなキャラのルフナ先生なんてーー。


「……っ! 好きになる要素しか有りませんでした!」


 ぽかんとしているルフナ先生に向けて私は意気込んで手を差し出す。勿論頭は下げたまま。


「私のお茶飲み友達になってくださ……っっ」


「背を守護せよ、戦士の壁盾よ」


 私の先生への告白クライマックス中、ポソッと簡潔な詩文が抑揚無く背後から聴こえ、背中がほんのり熱くなったかと思った次の瞬間。


 私は背中を蹴られ、前方の柔らかい湿った黒土の中にズベーンと倒れこんでいた。両腕をルフナ先生へ向け、全身綺麗に魔法の大地にピッタリと口付けをした。

 痛くはないけれど目の前に好きな人がいるのにとんだ醜態を晒してしまった私は、倒れたまま首を回して思わず鳴き声を出した。


「酷いよ、ビー太くん!」

 

 泣き声じゃない、鳴き声だ。まるで飼い主に行きたくない方向に急にリードを引っ張られた時の犬のような気分だった。


 私の後ろの木陰から、学園服を身に付けた美少年が現れる。今まで私の告白を静観していたゲームマスターで私の相棒の、ゲーム機の化身、ビー太くんだ。


ーー嘘でしょ、七分丈ズボンじゃん、ビー太くんの制服仕様、おみ足見える美少年パターンだ!


 黒土の側に生えていた薬草を引き抜きながら、すっかり汚れた私がどうにか膝をつき両腕でガバッと上半身だけ起き上がると、私とルフナ先生を挟む形で私の前に移動してきたビー太くんは、とても冷たい声で「茶飲み友達になってどうする」と言いながら私を見下して来た。


 後日、ルフナ先生は語ってくれた。私を蹴ったビー太くんの技、あれは恐らく「サマーソルトキックというものだったのではないでしょうかねぇ」、と。

 

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