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お茶の準備とビー太くんの不法侵入

 ビー太くんがくれた魔法紙の学内マップを左手に持ちながら、私は用意して貰っていた寮の部屋の中のベッドに腰掛けて、右手で部屋の備え付けの茶器を撫で、観察していた。


「これだと、ちょっとなぁ……」


 小花模様が申し訳程度に入ったくすんだ簡素な陶器の、白色の2人分のカップと1つのポット。

 若干ヒビも入っていていかにも安価で冷たさを感じた。もうちょっとあたたかい茶器が欲しい。


「ーービー太くん、ビー太くん?」


ーー茶器なら厨房から借りられそうだ、茶菓子は諦めろ、茶葉は学食クオリティーなら持ち出せる、ご主人は日が昇るまで眠って待っていろーー


「あ、えっと、そうじゃなくてお茶器って自分で造れたり、しない……?」


 ビー太くんとの会話は、私が望むかぎり何の制約もなく、私達の間では成立するのだとビー太くんは先刻教えてくれていた。所謂いわゆる念話テレパシー』、だそうだ。


 今は私が念話に不慣れなので、ビー太くんのくれたマップに向かって私は話し掛けていて、ビー太くんをデフォルメしたアイコンがマップに浮いている場所からビー太くんの声を聞いている状態だ。


 マップによると、彼はゲームマスター権限を公使して、夜の学園の厨房に入り込んでいるらしい。


 マップを私にくれるとき、ビー太くんはついでにこの世界ではゲーム内で主人公たちの飲食の描写が極端に少ないので、私のお腹も減らないことと、逆にお茶位ならともかく『何かその世界の人の手を経たものを食べてしまうと次に世界から転移するのが難しくなる』から食物を口にするときは良く考えるようにした方が良い、ということを説明してくれた。


ーー私が間違ってお茶菓子を食べたりしないよう、ビー太くんは私が初めてルフナ先生に告白しかけた時に、私を止めてくれたのかもしれない。


「お茶菓子は森に生えてるベリーを摘むから大丈夫だよ。私はあんまり口にしないけど、うんと艶々なのを選ぶからね」


 学園の裏にあるあの森は、私の世界に生えている木苺に良く似た果実種や、薬草などが多くある場所という設定だったし、実際に日中迷ったときに森でベリーを見かけたので、簡単なお茶うけになってしまうけれどルフナ先生と二人でお茶を飲む分には、私が手でり気持ちを込めて摘むならベリーは十分な水菓子になると思えた。


ーー茶器を造る? ちょっと待て今そちらに行くーー


「え?」

 

 私が疑問符を口にしてすぐに魔法紙のマップからビー太くんのアイコンが消えると、私と向かい合わせになっている部屋の壁の前に急にビー太くんが現れでた。


 ビックリした私はベッドから転がり落ちてベッド前に引き摺って来ていたテーブルの足に身体をしたたかに打ち付けてしまう。考え込んで集中している時の急な驚かしはやめて欲しい。


「……びっっっくりしたぁ!! 嘘でしょ!? 壁から美少年がっっ!?」


「……ッ? り、リアクションが無駄に大きい、ご主人静かにしろ、僕がいつでも逃げられるとはいえ、此処は女子寮だ!」


 床でのたうつ私にビー太くんが控えめな声でツッコミを入れてくれる。が。

 

 いや、女子寮に躊躇ためらいなく勝手に入って来たのは貴方の方よ?! 私が非常識みたいに言われても困るよ!!


「び、ビー太くんならベッドのシーツでズボン隠せば女の子に見えるもん! 大丈夫だよ! 美少女爆誕だよ!! いける、いけるっ!」


「……さーわーぐーな……」


 私を見下げてくるビー太くんの言葉が、転がり続けていた私の動きを止め、ギクシャクと正座させた。


「ゴメンナサイ魔法世界ナラ瞬間移動モデキマスヨネ、一人部屋に感謝ですビー太くん」


 寮には普通、侵入禁止結界が張ってあったような気がするけど、ビー太くんの存在はそれもすり抜け可能らしい(但し設定破りは彼の信念により私の近く限定であるとの事)。




*****


「今ある茶器を改造出来るの?!」


「……魔法で見た目だけをご主人のイメージに一時的に塗り替えるだけだ、この世界とご主人のステータスならやれる」


「寮では魔法使えないよ?」


「だから僕が来た。僕の近くなら複雑な詩文以外の魔法は使える。あまり派手にやると手伝わないぞ、控えめにこしらえるんだ、出来そうか? やりたいか?」


「や、やるよ! 先生との奇跡のお茶会の為なら!!」


 ビー太くんは『必要以外』の『世話』は焼かない、って言ったから、私が強く望めば『必要』になり、私自身が魔法を使うなら、つまりビー太くんが近くにいてくれるだけなら『世話』と言うほどの手助けでもなくなるってことなんだろう。


「えっと……じゃあまずイメージだね」


 私は中途半端な紅茶好きで、ペットボトルじゃなく水出しアイスティー用のお茶の葉を現実世界で定期購入している。


 猫舌なので熱湯用のお茶の葉はあまり買わないし淹れない。しかし今回はーー。


「ビー太くん、厨房にハーブとか無かった? レモングラスとかカモミールとか」


「……僕はゲーム外のご主人の嗅覚や味覚のことまでは良くわからない。この世界の『茶』といえば……いや……薬草茶はハーブと言えるのか? アレの乾燥させた葉ならわかる、厨房ではなく裏庭の近くの……番小屋に置いてあったような」


「あー、あの飲むとバトル中に魔力が微増する謎アイテム……、有ったね……、一週めの最初の方にだけ2、3回買いに行ったけど……ステータス上げのが効率が良くてなんか残念な感じになってくアレ。……って実際に飲んだことないからそっちだと私が風味分かんないよッ」


「いや、ご主人がこの世界に来てまもなく地面から薬草茶の元を引き抜いていただろう、アレなら僕が保管していた、嗅いでみるか?」


「いやいやいや、よくそんなもの持ってたねビー太くん?! 森で走り出すときに私投げちゃったんだよ?!」


「ま、まあ、一応ご主人の異世界転移の最初の獲得物だから、記念に後で見せようかと思ってだな」


「グッジョブだよ、よくわかんないけど有り難うビー太くん! 制服の胸ポケット? おズボンのポケットの方?」


「やめろ、触ろうとしてくるな僕から嗅ごうと思うな気持ち悪い。セクハラの罪でサバイバルホラーゲームの世界に転移させてトラウマ級のゾンビと恋愛させるぞ」


 私はもわさわさ身体を揺らしながらわきわき指を動かすのを咄嗟とっさに止めた。


「……イヤだ! ごめんなさい! 葉っぱ下さいお願いします!!」


「葉っぱって言うな、紛らわしくなる」


 ビー太くんがローブの内ポケットからしなしなの薬草を取り出して彼に向けて手を出していた私に渡してくれる。


「嗅ぎます!! 有り難うビー太くん!」


 ……すはっ!! スンスン!


 美少年にゲットされその衣服にくっついていた、しなしな薬草! 有り難う御座います!

 検分させて頂きますッ!!


「やはりご主人は気持ちが悪いな」


 ビー太くんが下を向いて腕を組む。でも私は気にしない。


「いけるよビー太くん! これマイルドミント亜種的なやつ!!」


 学食クオリティー紅茶モドキ茶葉を薄めになるよう量を調節して、乾燥させた薬草を混ぜて、熱いお湯で淹れてーー、多分2分半ぐらい蒸らせば。


「なんちゃってミントティー、出来るよ! ミントティーに合わせてイメージすれば、お茶器も造れる!」


ーー明日の午前中に裏庭集合ね、ビー太くん!


「……了解した」


「じゃあーーイメージするねーー。若草滴したたる雫のいろの姿をし、香る緑に縁取りをせよ!」


 ビー太くんに斜め背後に回って貰い、テーブルと椅子を部屋の中央に移動させながら私は簡単な詩文で魔法を使う。


 白い小花のくすんだ茶器は、ミントの色のシンプルで可愛らしい素地と濃い緑色のラインが縁についた、森を走る涼風のような見た目に変わった。

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