ドライブ中の親友に再び彼女を寝取られ動画配信を見せつけれたが、配信中にパトカーに捕まり一気に地獄と化した痴話喧嘩という名の醜い争いまで始まりNTRどころじゃない地獄です
珍しく前回からの続きものとなります
『わぁっ、サラマンダーよりはやーい!』
なんだ、これは。
とある土曜日。画面の向こうで行われてる行為に目を奪われながら、俺こと初小岩実は驚愕していた。
「これ、路夏だよな……間違いなく……」
親友から送られてきた動画配信のURL。
なんだろうとと思いつつサイトを開いてみると、そこにはつい最近浮気したが、半ば強制的によりを戻された俺の幼馴染にして彼女である、瀬谷路夏の姿があったのだ。
『へへっ、どうだ路夏? 俺のドライビングテクは。実のやつよりずっと早いだろ?』
いや、それだけじゃない。路夏の隣でハンドルを握りながら笑っている男にも見覚えがある。
宇場津太郎。俺のもうひとりの幼馴染にして、以前路夏を寝取ろうとした元親友だった男である。寝取りに失敗して以降しばらく疎遠になっていたが、どうやら現在動画配信をしながら、路夏と一緒にドライブしているようだった。
『うんっ、あっちの方も早いけど、津太郎くんのほうが、すごく早い! それにこの車、凄く高いんだよね? お金持ちの津太郎くん、素敵っ!』
『へへっ、そうだろそうだろ! 俺の方が早くて凄いに決まってるよなぁ! おい見てるか実? 路夏はお前より、俺のことを選んだみたいだぜぇ? この日のためにバイトを頑張ったからな! さっきまでぼっ〇ざろっくとトラ〇ジウムの映画をはしごしてきたが、これからふたりでネ〇ミーシーに行くところさ。勿論ホテルに泊まりでなぁっ!?』
津太郎は嬉しそうに笑うし、俺に対する情など微塵も感じ取ることは出来ない。
俺の恋人はもはや、親友だと思っていた男の金に陥落しきっている。
それが分かってしまった。同時に理解する。
俺はまたしても恋人を寝取られたのだ。それも、一度寝取ろうとして失敗した長年の親友に。
俺はまたしても恋人に裏切られたのだ。自分から強引によりを戻しておきながら、金になびいたことによって。
「あ、ああああ……」
全身が震える。絶望が襲いかかる。
これが、これが再寝取られ。これが再び恋人を奪われるということなのか。
脳が破壊される感覚で、心が壊れそうになる。いや、既に壊れてしまっているのかもしれない。
『好きなやつを奪われた、俺の気持ちが分かったか? 俺の気持ちに気付かずに、路夏と付き合いやがってよぉっ! お前から路夏を奪えて清々したぜ! ざまあみやがれ! だがまだだ。まだ俺の気持ちは収まらねぇ。リトライだ。これから行うのは、ただの寝取りじゃねぇぞ。この意味が分かるか、みのるぅ?』
そう叫ぶと津太郎は片手でスマホを掲げ、路夏と一緒にいる自分の姿をハッキリと映し出した。
二人の顔は心底楽しそうであり、俺のことなど眼中にないのは明らかだ。
前回全裸土下座までさせられたというのに笑い合えるなんて……コイツ、心がつえぇ間男なのか!?
「な、なに……?」
『何度でも心の強さで立ち上がり、寝取り続ける……ド級の寝取り、ドネトリだ!!! 実の心がへし折れるまで、俺は寝取り続けるのを絶対に辞めん! 思う存分見続けるがいい! 俺が路夏の心を完全に奪う、その一部始終をなぁっ!』
津太郎の悪夢としか思えない宣告を受けて、俺は椅子から立ち上がる。
もうこれ以上、この動画を見ていることなんて出来ない。
『勿論ホテルで行われるプレイも全て配信してやる! 覚悟するがいい実! もうやめてくれと俺に縋りついてくるまで、とことん絶望させてやるからなぁっ!!! ついでにぼ〇ろ映画とトラ〇ジウムのネタバレもしてやるぜぇっ!』
「う、うわああああああああああああ!!!!! や、やめろつたろおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ぶっちゃけホテルはどうでもいいが、ネタバレだけは許せない。
俺の心はこの瞬間、粉々に砕けてしまった。きっともう、二度と立ち直ることは出来ないだろう。
それほど心に深く傷を負っていたのだ。
激しい絶望感に襲われながら、俺は家を飛び出そうと――――
『前の車、止まってくださーい』
したのだが。突然スマホの向こうから、サイレンの音が聞こえてきた。
『え?』
『前の車、止まってください。左に寄せて止まりなさい』
『え、あ、パ、パトカー!? え? え!?』
よく見ると津太郎の運転する車の真後ろには、パトカーがピッタリと張り付いていた。
調子に乗っていたから気付かなかったのだろう。
免許を取って間もない運転初心者の津太郎は、突然警察に呼び止められたことで、露骨にパニックに陥っているようだ。それは未だ片手でスマホを握り続けてることからも明らかである。
『止まりなさーい』
『つ、津太郎くん。早く止めないと! 逮捕されちゃうかもしれないよ!?』
『た、たいっ!?』
逮捕という言葉に、津太郎はビビったのだろう。
さっきまでのイキリっぷりもどこへやら。即座に急ブレーキを踏んで減速した車を路肩へと止めたが、警察官を待つ津太郎の顔面は大きく青ざめ震えていた。
『あー、ちょっといい?』
『ひゃ、ひゃいっ!?』
やってきた警察官に窓をコンコンとノックされ、ビクリと身体を跳ねる津太郎。
もう一度言うが、あれだけイキっていたはずの親友は、今や借りてきた猫のように完全に怯え切っていた。
『君ねー、危ないよ。初心者マークもついてたけど、乗りたての頃が一番事故を起こしやすいんだから。見たところ、彼女も乗っているようだから調子に乗っちゃったんだろうけど、死んでからじゃ遅いからね』
『ご、ごめんなさい……』
『しかもスマホ掲げてたでしょ。ただでさえ運転に慣れてないのに、あれだけスピード出してよそ見運転なんてしてたら、普通死ぬよ。今回はたまたま運が良かったけど、ああいうのはもうしないでね。誰か巻き込んでからじゃ遅いんだから』
『は、はい。本当にすみませんでした……』
警官に怒られるたび、申し訳なさそうに身を縮ませていく津太郎。
知り合いが怒られる姿を見るというのは、どうしてこっちまで居たたまれない気分になるのだろうか。
早く終わってくれないかなと思いながら時が過ぎるのを待つしかない。
『とりあえず、今回はスピード違反とスマホのながら見運転での罰則ね。100キロ以上出てたけど、ここの制限速度は50キロだからまぁ……一発で免停だね』
『えっ!? め、免停っ!? マジですか!!??』
警官の言葉に驚く津太郎だったが、俺から言わせてもらうと当然のこととしか言えない。
『うん、マジマジ』
『そ、そんな……。俺、免許取ったばかりなんですけど……』
『規則だからね。帰りの運転は出来るけど、なるべく乗らないように。連絡先や住所を控えさせてもらっていいかな。その後に今回の罰則金の納付書渡すから。悪いけど、免許証持ってこっちのパトカー来てくれる?』
『わ、分かり、ました……』
呼ばれてすごすごと車から降りていく津太郎。
明らかに意気消沈といった様子で、スマホを車の中に取り落としてもそれに気付いた様子もない。
俺もまた、声を発することはしなかった。というか、この状況でどんな声をかければいいというのか。
一瞬で天国から地獄に様変わりした一部始終を見届けてしまったが、いろんな意味で居たたまれない。
『……ッチ。なにやってんのアイツ』
そんななか、唐突に聞こえてきた舌打ちに、俺は思わずびくりとする。
『警察に捕まるとか、マジで最悪なんだけど。現地着くの遅れるじゃない。ていうか、この空気で遊ぶとか無理でしょ。でも、友達には遊びに行くってもう言っちゃってるし……あーもう! イライラする! ホント最悪っ!』
路夏はキレていた。本当に凄くキレていた。
あまりの剣幕と空気の重さに一言も発することが出来ないでいると、しばらくしたのちガチャリとドアが開く音が聞こえてくる。
『あ、あの路夏。戻ったけど……』
『…………』
『あ、あはは。ほんと参ったよな。まさか警察に捕まるなんて。あいつら、余計な水差してほんとクソだわ。ちゃんと仕事しろっての。ろ、路夏もそう思うよな? な?』
『…………』
明らかに空元気と分かる津太郎の発言を受けても、路夏からの返事はなかった。
返ってくるのは沈黙だけであり、当然津太郎も二の句を継ぐことが出来ない。
無言の時間が訪れる地獄のような空気の車内だったが、それも長くは続かない。やがてこの空気に我慢出来なくなったのか、津太郎がおずおずと話しかける。
『えっと。じゃあ帰ろうか……』
『…………は? なんで?』
津太郎の帰宅発言を受けて、ようやく口を開いた路夏だったが、その声色は明らかに怒っていた。
『え、なんでって……』
『ネ〇ミーシー、行くんだよね。ホテルだって予約取ってたじゃない。なんで行かないの? てか、帰るってあり得なくない?』
『いや、でもさ。こうなった以上は仕方ないっていうか。免停になったこと、親に説明しないとだし……。免停食らって遊び続けたなんて知られたら、なんて言われるか……』
『上手く誤魔化せばいいでしょ。私、友達に今日ネ〇ミーシーに行くこと話してるし、ホテルに泊まることだって言ってるんだよ? 津太郎くんは、私に恥をかかせたいの? 私が傷付いてもいいってわけ!?』
『い、いやそんなこと言ってないだろ!? 落ち着けって!?』
『私は落ち着いてるよ!? ていうかさ! いつまでもここに車止めてても仕方ないじゃない! 捕まったせいで時間もかなり押してるんだよ!』
そう急かす路夏だったが、津太郎の反応は鈍い。
なにかをためらっているようだ。
『ほら行こう! 早く! パレードとかも見たいし!』
『いや、あのさ。実は罰則金が思った以上に高くて……ホテルのことも考えたらバイト代全部合わせても厳しいかなって……』
『ハァッ!?』
『だ、だから親にも金借りる必要ありそうで……この車、親父から借りたやつで、ドライブレコーダーも見れるから誤魔化し効かないんだよ。チェックされたらすぐバレるし、余計なことしないほうが絶対いいんだって。わ、分かってくれよ路夏……』
消え入りそうな声でそう説明する津太郎だったが、それで納得する路夏ではなかった。
むしろ目を釣りあげており、不機嫌さが加速しているのが見て取れる。
『分かれってなにをよ!? 納得できるわけないでしょ!? さっきも言ったけど、もう友達には行くって言ってあるんだよ!? このままじゃ、私嘘つきになるんだけど!?』
『う、嘘は付いてないだろ!? ホ、ホラ、ほんとのこと話せばいいだろ。俺も一緒に弁明するから……』
『ハァッ!? 運転していた彼氏が調子に乗って速度出してたら、警察に捕まりました! 免停にもなっちゃいました! だからネ〇ミーシーには行けませんでした! 私は嘘は付いてません! 彼氏もそう言っていますって、友達に説明しろっての!?』
路夏はキレていた。もう大いにキレていた。
体裁すら保つことなく、露骨にキレまくっている。
『馬鹿じゃない!? そんなこと言ったら、いい笑いものだよ! 馬鹿にされて下に見られるのが分かり切ってるじゃない!? そんなことも分からないの!? 脳みそ足りてないんじゃないかな!? かな!?』
『な、なんだよ、馬鹿って! 大体、お前がネ〇ミーシーに行きたいって言ったからこうなったんだぞ!? スピードもっと出せって言ったのも路夏じゃないか!?』
『なに!? 今度は人のせいにするの!? 最悪なんだけど!? 早いとは言ったけど、もっとスピード出せなんて言ってないし! スピード違反になるまで飛ばすとか、普通しないでしょ! 記憶捏造しないでよね! 私なにも悪くないし!』
流石にここまで言われては黙ってはいられなかったのだろう。
津太郎もキレながら路夏へと反論するが、路夏もさらに過激になって反撃する。
喧嘩はヒートアップの一途を辿っており、止められる者など誰もいない。
『じゃあなにか!? 全部俺が悪いってのか!?』
『そう言ってるじゃない! スピード違反したのも、動画配信しようって言いだしたのも、全部津太郎くんじゃん! 津太郎くんが全部悪いの! 私が悪いとこなんてなんにもないじゃん! 違う!?』
『お前なぁっ!? ホテル取らせて、遊ぶ金も全部こっち持ちで、それでそんなこと言うのかよ!? どんな神経してんだよ、おかしいだろ!?』
『おかしいのはそっちでしょ! なーにがドネトリよ! 実実言いまくってさぁっ! どんだけ実が好きなのよ! こっちだって我慢して付き合ってあげてるってこと知らないでさぁっ!? お金全部そっちが持つのは当然じゃない! あーもう! あったまきた! 前のホテルのことまで思い出してきたし、ほんと最悪! キモいキモいキモいキモいキモいー!』
『さっきからキモキモうるせぇんだよ! あーそうだよ俺は実のことが好きだよ! ずっと前から好きだったんだよ! だからお前と実が付き合い始めた時、心底絶望したわ! 今は別の意味で絶望してるけどな! 女見る目ねぇよアイツ! こんなんだったら、最初から俺を選んでおけばよかったのによぉっ! クソがぁっ!』
キレながらそうカミングアウトする津太郎に、俺は開いた口が塞がらなかった。
気分はまさにパ〇プンテだ。予想外すぎる流れ弾に、俺は動揺を隠せない。
『あー! やっぱりホモだったんだ! それで私よく抱けたね! キモっ!』
『だからうるせぇよ! 今はもう後悔しかねぇよ! あーもうやめだやめだ! 実をノンケから引きずり落そうなんて回りくどい手段取ろうとするんじゃなかったわ畜生!』
『そんなこと出来るくらい頭良くないもんね! 今だって配信続いてるのに、ホモをカミングアウトしちゃうくらい残念な頭だもん! どのみち無理だったんじゃないかな!? かな!?』
『あーもう! だからうるせぇんだよ! うぜぇし死ねよお前よおおおおおおおおおおおお!!!!!』
『死ぬのはそっちでしょ!? いいとこが顔しかないし責任転嫁するし、もう最悪! あー誘いになんて乗るんじゃなかった! 意味わかんないだけどもうっ!』
…………俺はまたしても、一体なにを見せられているんだろうか…………。
もはや痴話喧嘩を遥かに超えた煽り合いを眺める今の俺の気分は、まさに宇宙猫のそれである。
とにかくこの地獄のような時間が一刻も早く終わってほしい。
ただそれだけを願うことしか俺には出来ない。
『あ、そうだ! ねぇ実。実も確か免許持っていたよね? 今から車で、私のことを迎えに来てくれないかなぁ』
「え」
そんな中、突然画面の向こうから、俺は路夏に呼びかけられた。
完全に傍観者の立ち位置にいただけに、俺は思わず固まってしまう。
『ねぇいいよね。一緒にネ〇ミーシーに行こうよぉ。当日キャンセルとか、ホテル代もったいないしさぁ。料金は津太郎くんが払ってくれるから問題ないよ。来てくれたらお礼に、たくさん気持ちよくしてあげるから。ね?』
いや、ね?って言われても。
いきなり猫なで声で話しかけてきたけど、こっちの心臓はバックバクもいいとこだ。
人はここまで露骨に態度を切り替えられるものなのかと、恐れすら抱いてしまう。
『ねぇ実ぅ』
『おいコラクソビ〇チ! なに実を誘惑しようとしてんだ!? 俺が隣にいるのに、よくそんなこと出来るな!? どんな頭してんだお前!?』
『ハァッ? なに、使えないホモの津太郎くん。嫉妬してんの。てか邪魔だし黙っててよ。こっちは今大事な話してるんだからさぁ』
『黙っていられるわけねーだろ!? おい、実! 騙されるな! コイツはとんでもない女だぞ!? 元々怪しいと思っていたんだ! こんな女じゃなく、お前は俺と……』
『だから黙れって! アンタを選ぶわけないでしょ!? 実は女の子が好きなんだから! 大体アンタはねぇ……』
またしても始まる両者の喧嘩を見つめながら、俺はそっと電源ボタンにタッチする。
電源が切れる瞬間、パトカーのサイレン音と「そこの車、なにしてるんですかー」という拡声器による大きな呼びかけが聞こえた気がしたが、気にしてはいけないのだろう。
あまりにも不毛な言い争いをする親友だった男と恋人だった女の子のことを、今すぐ記憶から消し去りたい。今はただそれだけだ。
「…………寝取られって、誰も幸せにならないんだなぁ」
寝取られの果てに待つのがあんな醜すぎる争いとか嫌すぎる。
次こそはちゃんとした女の子と付き合うことを心に決めつつ、俺はそう結論付けるのだった。
ちなみに後日。
「ねぇ実。男の子の相手って興味ある? 実はいいバイトがあるんだけど、紹介したいんだよね。彼女のお願い、聞いてくれるよね? ね?」
「 」
津太郎に金で俺を文字通り売ろうとした路夏に盛大にドン引きし、女の子に対する根深いトラウマを植え付けられることになるが、それはまた別の話である。
なんだろうこれ……分からない、なにも……
あ、ぼ〇ろ総集編面白かったです。月〇みに輝けすき
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