ロビィと砂漠のなかまたち!
「ひゃっほぉ──う! いい砂だぜ──ぃ!」
ガカッ! と日照り炎天下の、ここは砂國グラーニュ砂漠。
こ高い砂丘のナイスな波から、宇宙柄サーフボードに乗ったロビィが飛び出し、サングラスと笑顔をキラめかせた。
熱い日差しに濃むらさきの長い髪を照りつかせて、目にかかる前髪もひるがえり、左耳の宇宙色フレアとMの字に伸びた横髪がバタつきなびく。
いずれも、その毛先は端にいくにつれ、色が薄まったものである。
右耳は普通の人間のそれを尖らせた形。衣服は一糸まとわずに、オーロラ状の宇宙を何層にも重ねたやつを、控えめに膨らんだ胸の前や腰の周りに巻きつけるように置いてある。あと鼠径部も宇宙に染まってる。
右の手首には惑星のブレスレットを巻き、足には宇宙で編んだビーチサンダル。
簡易な水着姿の彼女はロブリン、愛称ロビィ。人の形をした宇宙で、今日は砂漠に遊びに来ていた。
「たまんねぇぜ、この波! やや、目の前にデッカいオアシスが!」
ゴキゲンな彼女の言葉どおり、眼前には水場とヤシの木、理想的なオアシスの景色が広がっている。
ロビィが今、使用しているサーフボードは、彼女自身の宇宙によって形成されたものだ。従って水陸両用、融通が効く優れモノ。
ならば、誰でもそうするように、ロビィも素晴らしいオアシスに飛び込むつもりで、勢いつけて滑り行く。
もの凄いスピードをつけたロビィはサーフボードを走らせて、
「失礼します、こんにちはー! 銀河にキラつく、いちばん星! どうもロビ──ギャブッ!?」
オアシスの景色ひろがる、立て看板に激突した。
五体を広げたロビィの体が、あまりの衝撃にバラバラに落ちる。
「いったぁ~い! 何ですか、これぇ! こんなトコに看板なんか立てないでくださいよ、もう!」
ヒヨコ2匹を頭にピヨらせて、起き上がったロビィが紫グラサンをかけ直す。
褪せた看板を見てみると、うっすらと文字が書いてあった……
『新装オープ──リゾート──この夏、最高の体験を──』
……ほとんどかすれて読めなかったが、どうも近くにリゾート施設があるようで。
まあ、少女漫画の冒頭じみた出会い方をした縁だ。それらしいものを見つけたら行ってみよう。
休日らしい小さな方針を、ひとつ決めてロビィは再びサーフボードを走らせた。
それから、しばらくして。
ボロボロのガッタガタ、ひと気ひとつ無いオンボロ施設。その真ん中にロビィはやって来た。
「って、潰れてるじゃないですかー!?」
点々とした萎れヤシ、枯れ果てた流れるプール、崩れ落ちた飛び込み台にウォータースライダー。
元気な頃に会っていれば、確かに楽しいレジャー施設だったであろう名残が、逆に悲しい形で死んでいる。
「はあ~。セクシーな水着の女の子どころか、人の気配さえしやしない。ていうか、入り口が電気落ちのボロボロ状態だった時点で怪しむべきでした……」
「グルルル……!」
「──んっ?」
突然に、奇妙で獰猛な唸り声。セクシーなナオンの気配はしなくとも、血に飢えた猛獣は切らしてないようだ。
外したグラサンを握り潰して、ロビィが拳を構えると、同時に物陰から凶暴な砂漠ガビアルが飛び出した。
「──ギシャァアアアッ!」
「コスモブロー! の、ジャブ」
「ギャブッ!? バギュエ、」
ドンドン、ドン!
右の2回、左の1回。ただのそれだけで、細長い口の砂漠ガビアルは腹から背中を爆裂させて散り消える。
拳を突き出したままのロビィ。その背後から、
「──ギャォオオオッ! グッ!?」
「後ろ蹴りっ! 振り向きコスモブロー!」
「ギャインギャイン!」
躍りかかった別のガビアルの腹に、サンダル履きの蹴りがヒット。
太い胴体が空中でとどまり、即座に星弾を伴うフックがめり込む。
「ガァアッ! ガギャ!」
「バギュウ! ギバッ!」
「ガルルガア! ギャース……」
まったく、どこに潜んでいたのか。暗闇から次々と、砂漠ガビアルが長い口を振りかざして、のそのそと這いずってきた。
「ギャス……! ギバァアアーッ!」
「ようっし、来なさい! オトコたる者、裸の拳で勝負すべし!」
咆哮を号令に、いっせいにかかるガビアル軍団。無数のツメとキバが躍り狂い、きらきらとギラめき、
「わたしは宇宙なんで武器使いますね! コスモブレード!」
「ギャーン!」
突然、生成された両手剣のひと薙ぎに斬り払われた。幅広い刀身が、星の瞬きをチカらせて、きらめく。
「名付けて、タイラント! おりゃ~!」
「ギェーン! ギャアース!」
切り上げ、切り下ろし。集団戦に広い攻撃範囲は普通に強い。
けど、包囲と波状攻撃に晒されてる現状は、少々取り回しが悪い。ヒビ割れ床に剣を刺して、ロビィはタイラントを蹴っ飛ばした。
「ギェーン!」
「星惑散弾!」
「ギェッ!? ゲエッ」
吹き飛ばされる前方の一団、好機と見て襲いかかる後方の一派。ロビィは振り向きもせずに片手をあげて、背後に小さなエネルギー弾を沢山、空間いっぱいに発生させた。
振り向いたロビィが手指を動かすと、ワニどもを縫い止めた天体弾が滅茶苦茶に動き始める。
「ガギッ! グエゲッ。メギャ、バギィ~!」
「おらおら、オラオラ! 拳と星飛ぶ、コスモブロー!」
ひとしきり手を動かすと、ロビィは宇宙をまとったストレートパンチを繰り出した。
ロケット砲のごとく飛んでいく拳圧と、それを追尾する星粒弾。ガビアルのサークルに穴があいた。
怒り狂ったガビアルたちが、残りいっせいに走り出す。
「これでジエンドです。宝刃周円盤帯!」
「ギャブッ! ……ッ!」
いっぺんに集まるもんだから、皆ロビィを中心に展開された丸虹を避けられなかった。
すべての小型ガビアルが塵となって消え失せて、レジャーランドの台地が揺れる。
「おおっ! この地鳴り……親玉ですか!」
「うお~! マグニフビアル見参! ロビィめ、よくも部下を可愛がってくれたな!」
施設の残骸をブッ飛ばし、小高い丘から長い口が伸びる。
ロビィは片手で円を描き、燃えあがる天体弾を形成し、跳び上がり横蹴りでブッ飛ばした。
「太陽天体! シュ~ト!」
「きさまは直々に、このワシが可愛がってくれよ──う、うわああああ!」
太陽球が炸裂し、まともに殴り合ったら、それだけで1本の話になりそうな巨体が塵にかえる。
吹き荒れる熱波と、炎の竜巻。それに弾かれて、マグニビアルの腹から何かが飛び出した。
「えっ、何です何です?」
「うお~! 久しぶりの自由だ、暴れるぞ~!」
「お、魚……? 何でしょう、あれは……?」
宙に飛び出した巨大ゴツゴツ魚。その長い口、巻いた尻尾、どう見てもタツノオトシゴである。
タツノオトシゴは塵を吸い取ってみるみる膨らみ、ついに施設の屋根をブチ破った。
「ヒッ!? キャアアアア──」
「んん~? 何か巻き込んじまったかな。まあいい! この最強タツノコ、ギガントマシュレ! 小さいものなど気にしない!」
崩落に巻き込まれ、砂に消えるロビィ。天を衝く巨体となったタツノコマシュレが、長い管状の口を持ち上げる。
離れた砂丘に新たに生成されたロビィが、胸元ガバッガバの袖無しルネッサンスシャツの襟を正した。
「はあ~、死ぬかと思いました。にしてもムカつきますねアイツ……急に現れて殺しかけやがって」
「ぐはははは……! こんなにパワーアップしたのは久々だあっ。記念に砂漠を平らげてやる~!」
丸く豊かな胸を潰すように腕を組み、ロビィは遥か彼方にそびえるマシュレを見る。このままでは腹の虫がおさまらない。
ロビィは、ふわりと両手を広げ、背後に宇宙の景色を展開した。
「──星座。アストロラーベ」
「オレが最強だ! オレこそがキング! 誰もオレに逆らうんじゃねえ~!」
吠えたてるマシュレが、長い管先の口を開く。今の彼のサイズなら、その吸引力は、まさしく砂漠絶滅クラス。いやらしく笑う巨大馬魚のゴツ腹を、
「さそり尾釣りの星」
「うげえッ!? げああああ~!」
突然、カギ爪のような尾が貫いた。
怒号と悲鳴をあげながら、ゆっくりと持ち上がる巨体。ロビィはカッと目を見開き、自分の手の甲を、強く叩いた。
「はさみ打ちの星!」
「グギャアアッ! ぶ、ボヘェ~ッ!」
「フッ……決まりましたね。わたし」
凄まじい轟音と共に、マシュレを挟む超圧力。
クルリと背を向けて、勝った気のロビィ。彼女の背後から、
「──ん? えっ、あれ。ウソ!?」
「何だ、テメェエ~! チビカスがよ~!」
「今ので死んでないんですか!? ひえ~! 待って待って待って!」
砂嵐のごとく巨大な馬面の魚が覆い被さった。
管の先、ぎざぎざの口がジャコンと開く。吸い込まれたら、間違いなくミンチだ。
慌ててロビィは振り返り、指で空間にバツ字を描いた。
「ハッ。神への祈りか? だが有り難く思え! お前はオレ様のおやつとなる! カスだがな」
「お断りします! グランドクロス・コスモブロー!」
「権利などあるか~! チューブ形式ブラックホール!」
ロビィが赤黒いバツ字の剣閃を殴り飛ばし、マシュレの吸引と激突する。
"吸引力"を斬る、インパクトブロー。マシュレの口先ブラックホール。両者の力は拮抗、いや僅かにマシュレが勝っていた。
「ぐははは! どうだ、みるみる斬撃が畳まれていくぞ! オレの勝ちだ~!」
いつの間にか背を向けていたロビィは、マシュレのがなり声には返さず、片手に握った眩い球体を思いっきりに振りかぶる。
「はっ? 何だ、その玉──」
「宇宙生誕超爆発論。これでジエンド! おら~ぁ!」
ばびゅん! と、曲線でカッ飛んでいくキラめき弾。それは次第にサイズを増して、マシュレの腹へと押し当たった。
「うぎゃがががががっ! どわ~……」
ビビるほどデカいビーム玉に押されて、天高く上昇していくマシュレ。
そして、遥か高い空。超爆発が、ボールの形に膨らんだ。
「たまや~! あっはっはっは……」
再びサングラスを形成したロビィは、ゴキゲンな紫で花火を見上げた。