入学編
入学編
波がすぐそこまで来ている。
あぁ、やっと死ねる……って、そう思ってしまったんだ
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「凪ー、忘れ物してるわよ!」
「あ、ヤバ。お母さんありがと」
私は花岡凪、12歳。
今日は憧れてた学校の入学式がある。
忘れ物を取って、1時間かけて緊張しながら学校に向かう。受験の時に1回来たからこの電車に乗るのは2回目だった。
学校に着くと、周りの中一も緊張しているのが見て取れる。
クラス表を見て教室に上がると、見知った顔が見えて少し安心した。
「宮本くん!」
「あ、花岡さん。同じクラスだね。」
彼は宮本史くん。小学校の時に通っていた塾が同じで、私の好きな人。
「同じクラスだね。これからもよろしく!」
「知ってる人が同じクラスですごい安心した。よろしくね。」
クラスに入ると、宮本くんは左斜め後ろの席だった。近くて更に安心。
私の隣の席の人は、なんかムキムキの厳つい感じの男子だった。後ろの席はいかにもいい子そうな女の子。右斜め後ろの男子はずっとムキムキの子と喋っていて、なんだか掴めない感じがした。小学校が同じだったのだろうか、とても仲が良さそうに見える。座席表によるとこの人たちと同じ班らしい。
席について静かにしていると、担任が入ってくる。眼鏡をかけていて、こっちはこっちで厳ついというか怖そうな人だと感じた。
「初めまして、今日から皆さんの担任になります、齋藤です。好きな言葉は凡事徹底です。よろしくお願いします。」
「じゃあ次に、班の人で自己紹介をし合ってください。いい感じの時間で止めます。」
わあ、来ちゃった。
正直自己紹介はあまり得意ではない、いや苦手な方だ。自分について話すのはあまり好きじゃない。
何を話そうか考えていると、最初にムキムキ男が口を開いた。
「俺は中原翔斗。この学校には滑り止めで入った。野球部に入ろうと思ってる、これからよろしくな!」
一瞬思考停止した後、ちょっとした怒りが頭の中をぐるぐる回る。私がこんなにも憧れていた学校を滑り止め、と言ったのだ、この男は。苦手なタイプかもしれないと思ってしまった。第一印象だけで人を図るのは馬鹿な行為だといつも思うのに。
「中原くんね、よろしく!」
「中原かー、小学校の時の担任の名前だわ」
班のみんなが次々に反応している。私も何か言わないと。
そう思って口を開いた瞬間、女の子が喋り出したので慌てて喋ろうとするのをやめる。
「次はウチがしようかな。初めまして、久保彩晴です。早くみんなと仲良くなれるといいな!」
いかにもいい子って感じだ。絶対根から性格が良いんだろうな、と初対面なのに確信してしまう雰囲気を醸し出している。
「気軽にいろはって呼んでね。」
あ、これ私に対して言ってくれてるのか。
「うん、分かった。」
この子とは仲良くなりたいな、と強く思える感じの子だった。
そろそろ私も話した方がいいのかな。
「じゃあ次は私が。名前は花岡凪、誕生日は7月16日。家が遠いから寮に入る予定です、よろしくね。」
これぐらいでいいかな。
「ねっ、凪って呼んでいい?」
「お前いい名前してんな!」
反応は本当に多種多様といった感じ。
ただ、名前を言った時に一瞬びっくりするぐらいの無表情になった人がいた。この人はまだ自己紹介をしていない。名札には巫と書いてあるが、なんて読むのだろうか。
「おい、後はお前だけだぞ〜」
「はいはい、分かったって」
「僕の名前は巫一織。かんなぎいおり、って読みます。1年間よろしくね。」
なんだか、周りの空気が冷たくなったような、そんな感じがした。
ただ周りの人は”それ”を感じていないらしく、小さく拍手をしている。
「巫かぁ、珍しい苗字だね。」
「巫って巫女様みたいな名前だな!!」
「そうかな?」
「はい、そこまで。」
突然担任の声が聞こえた。
「てことで1年間このメンツでやっていくのでね、よろしくお願いします」
「じゃあ次は学校の案内があるので……__」
班の人に思うところが無かったわけでは無いけれど、でも普通の学校生活は送っていけそうだと思った。
少しの不安を抱きながらも、これからの学校生活に思いを馳せる。一体どんな青春が私を待ち受けているのだろうか。