表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/19

想像していた結婚生活じゃない①

「花嫁ディアナ。貴女はリケット男爵を夫として永遠に愛し続けることを、神に誓いますか?」


(……うーん、ごめんなさい。ちょっと自信がないです)


 女神様の像と神父様、そして私の旦那様となる男性の視線が重なる中。純白のドレスを身にまとった私は、引きつった笑顔のまま固まっていた。



「ディアナ?」

「え? あー……えっと」

「形だけでいい、とりあえず頷いておきなさい」

「……はい」


 私の旦那様となる人……壮年のリケット男爵は、爽やかな笑みを浮かべて優しげな言葉をかけてくれた。私は彼の笑顔に応えようと、コクリと頷きながら――内心ではひたすら現実逃避していた。


 シャーレ=リケット男爵。

 金髪碧眼に高身長。齢30を前にして、彼が始めた事業は軒並み急上昇中。

 祖父の代に叙爵した新規貴族でありながら、現在もっとも有望視されている男爵様だ。顔も世の女性なら羨むほど、非常に整った形をしている。


 そんな人が、いったいどうして私を妻にする?



「ねぇ、あの花嫁って平民らしいわよ」

「しかも血のように赤い髪って、品が無いわよねぇ」

「なんだか田舎者の臭いが、こっちにまで漂ってくる気がするわ」


 うるさいわね、ヒソヒソ声がこっちまで聞こえてきているのよ。どうせ私は平民で田舎者ですよ。大正解だわ。


 でも髪の色は気に入っているんだから馬鹿にしないで。



「では神の御名において、この婚姻の成立を認めます」


 神父様の宣言と共に、周囲から拍手の音が鳴り始める。


「あ……あはは……」


 私はどうにかぎこちない笑みを浮かべながら、呆然と立ち尽くす。


(どうしてこうなった)


 いやまぁ、理由はちゃんと分かっているんだけどね。


 課長に呼び出されたあの日。部屋に入って早々、私に告げられたのは”男爵から縁談がきた”という話だった。



「彼は若いながら、我が研究所に出資をしている傑物だ。そんな人物が直々にお前を指定して、嫁にしたいと言っている」

「はぁ……」


 まるで光栄に思えと言わんばかりの言い草に、思わず素っ気ない返事をしてしまう。正直私には、何の興味もそそられない話だったから。


「ともかくお前に拒否権は無い。そもそも、平民が貴族の妻に選ばれること自体が異例なのだ。謹んで受けるがいい」


 つまりそれは私に拒否権は無いってことだ。課長は私が断るという可能性を(はな)から想定していないのだろう。


 そうしてあれよあれよといううちに数か月が経ち、結婚式を迎えることになってしまった。


 ちなみにリケット男爵と会ったのは、この結婚式で二度目。顔合わせで互いに軽い自己紹介を交わしただけで、いつの間にやら結婚式当日を迎えたという始末だ。



「はぁ……」


 私は今日何度目かわからない溜め息をつきながら、教会の祭壇から神父様を見つめていた。


「これでお前の顔を見なくて済むようになると思うと、清々するな」


 結婚式に来ていたピペット課長から、そんな捨て台詞を頂戴して私は確信した。建前上は寿退社ということになっているけれど、これは実質クビだ。この縁談に、課長も一枚嚙んでいたに違いない。


 過程はどうであれ、これで魔法薬師になるという私の夢は潰えてしまった。あーあ。課長に気に入られるよう、もっと媚でも売っておくべきだったかな。



 憂鬱な感情とは裏腹に式そのものは順調に進み、私は男爵の妻となった。誓いのキスはさすがに遠慮してもらって、ファーストキスだけは私の唇に残しておいたけれど。


(私ってば、一体何をしているんだろ)


 専用にあてがわれた、男爵家の自室の窓を少しだけ開いて、夜空を見上げる。月の光が差し込んでくる部屋の中、私は今日の出来事を思い返していた。

(7/19)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ