貴族って、ほんっとに相容れない生き物だ③
「なに? 与えられた仕事が不満?」
「はい。こんな低レベルな仕事、僕には合いません。もっと難易度の高い仕事をさせてください」
「ちょっ、やめてよ! 私は貴方のためを考えて用意したのよ!?」
私はそう訴えるも、二人はまるで聞く耳を持ってくれない。
こんな生意気な態度を取ったら、またピペット課長が烈火のごとく怒り出して――。
「そうか。ならローグ君には、夏雪草から鎮痛剤を抽出してもらおうか」
――とはならなかった。
「分かりました、お任せを」
「ちょ、ちょっと待ってください課長! 夏雪草の取り扱いは、中級以上の魔法薬師が担当する仕事ですよ!?」
夏雪草は一般的な魔法植物であると同時に、その毒性の強さも広く知られている。決して素人が取り扱っていい素材じゃないのだ。
というか、私でさえ一度もさせてもらったことのない仕事なんですけど!?
「ほう? 心配ならなおさら、先輩である貴様が見てやればいい。あぁ、ちなみに明日の朝に納品予定だからな」
ピペット課長がニヤリと笑う。
ああ、これはきっと何かあったら、私のせいにするつもりなのね。しかも明日納品予定だなんて、大事な情報をサラッと後出しで言わないでよ!
でも私は自分に向けられた悪意よりも、患者が蔑ろにされたことの方に腹が立つ。
魔法薬の調製は、人々の健康を守る大切な仕事。なのに、己のストレス発散のために使うなんて……この人に、魔法薬師としてのプライドは無いワケ!?
「わかりました。でも僕はもっとレベルの高い仕事をしたいんで。腕を認めてくれたら、僕を課長の元においてください」
「あ? なんで俺が」
「課長に教えていただいた方が、勉強になりますから」
あちゃー……こりゃダメだ。完全にピペット課長の逆鱗に触れちゃったみたい。課長の片眉がピクピクと痙攣しているし、怒っているのが丸分かりだ。
「……ほう、そうか。だったら見せてもらおうか。その腕前とやらを」
「はい、任せてください」
ローグ君は乾燥させた夏雪草が入った瓶と抽出用の機材を手にすると、自分のデスクへと戻っていく。
「ちょっと、勝手な真似をしないで――ああっ!?」
私が文句を言おうとした矢先、ローグ君がフラスコの中に夏雪草と抽出用のエーテルを注ぎ始めた。そしてあろうことか、いきなり加熱用の魔道具を作動させてしまった。
「あっ、ダメよ! まずは分量と温度をしっかり計って――!」
私が慌てて止めようとするも、ローグ君はそれを無視する。
そのあとも私の指示を無視して、彼は夏雪草の瓶が空になるまで作業を続けてしまった。
ただ、思っていた以上に彼の手技はテキパキとしており、手順も教科書通りで間違ってはいなかった。結果的に、調合台の上にはビーカー1本分の鎮痛剤が出来上がっていた。
「ほら、できた。やっぱり僕はもっと高度な仕事を――」
「駄目だよ、これじゃ」
「えっ」
私の反応が意外だったのか、彼の余裕ぶった表情が固まった。
「失敗だよ、これ。このままじゃ君……中級どころか、低級の魔法薬師にもなれないよ?」
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次回は22:10頃投稿予定です。