新しい家と新しい旦那様?①
「ようこそ、先輩。ここが僕の家です」
馬車を待たせているからと、リケット男爵のお屋敷から連れ出された私は、王都にあるローグ君の家に来ていた。
貴族のお屋敷に比べると小さいけれど、一般的な平民の家よりはずっと大きい。立派な石造りで、庭も手入れされていて綺麗な花が咲き誇っていた。
「さ、もう日が暮れてきましたし。どうぞ、家に入りましょう」
「いや、私は自分の家に帰るよ!? さすがに男性の家に転がり込むのは……」
両手をブンブンと振りながら断ろうとするも、ローグ君は顔色一つ変えずにこう言った。
「何を言ってるんですか。今日からここが先輩の家ですよ?」
「へ?」
意味がわからず私は目を点にしていたけど、ローグ君が私の手を取った瞬間ハッとした。
「ま、まさか夫婦になるって本気で……?」
「あはは、そんなに気負わないでください。あのときは方便でそう言っただけですから」
「だ、だよね……」
「でも形式上は夫婦ですから。これからはここで一緒に暮らしてもらいます」
ローグ君の言葉に私は頭が真っ白になる。
私の混乱などお構いなしに、彼はニコニコと微笑みながら私を玄関前まで案内した。そして扉を開けながらこう言った。
「おかえりなさい、先輩」
そんな彼の笑顔を見た瞬間、今度は私の顔が真っ赤になった。
「……ただいま、ローグ君」
◇
「そういえば先輩、お腹は空いてませんか?」
ローグ君にそう言われて、私はハッとして気がついた。朝から色々とあったせいで何も食べていないのだ。
私が素直にそう答えると、ローグ君はニッコリと笑ってこう言った。
「よかった! 実は料理を練習していたんです」
「ローグ君が!?」
「はい。是非召し上がってください!」
そう言いながら家の中に入っていく彼に私も続いたのだが……中も凄かった。まるで貴族街の邸宅にいるかのような豪勢な造りだ。
何より目を引くのが、廊下にまで所狭しと置かれた本棚の数々。しかもどの棚にもギッシリと本が並べられていて、パッと見ただけでも千冊以上はある。
「あの……もしかしてこれ全部が魔法薬の本?」
私がそう尋ねるとローグ君はニッコリと笑って頷いた。
「そうですよ。片っ端から目についた本を購入していたら、どんどん置き場が無くなってしまって……」
そう言いながら彼は苦笑いしていた。
きっとここにある本を全て読破するだけでも、気が遠くなるほどの年月を要するに違いない。それでも彼は頑張って勉強をしてきたんだろうなぁ……。
私はローグ君に案内されながら、ダイニングルームに通されたのだが……これまた凄い。
キッチンは最新の設備が備え付けられていて、大きなオーブンや食材庫などが設置されている。しかも魔力式だから魔法が使えなくても簡単に操作できるし、食器洗い用の魔道システムすら備わっていた。
「さぁ、座ってください」
ローグ君に促された席に座ると、彼はテキパキと動き始めた。
「すぐ準備しますね」と言って、冷蔵庫から取り出した食材を次々にカットしては魔法を使って調理していく。その動きはとても手慣れたもので、洗練された技術を感じさせた。
私は感心しながらその様子を眺めていたのだが……ふと我に返った。
(なんでここまで一方的に私は尽くされているの? このままじゃ年上の先輩としての面子が立たないし、ちょっとは私も頑張らないと……)
そこで私はローグ君に提案してみた。
「あの……私に手伝えることは無い?」




