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新進気鋭な男爵様のオモテとウラ③

「あのメイドさんはたしか……ペトリさんだったかしら」


 この屋敷に来たばかりの私に優しく接してくれた方で、笑顔がとても素敵な女性だ。あの人なら私がうっかりしていても親身になって教えてくれるはず。


 そう思い、声を掛けようとドアノブに手を掛けた。



「ほんっとにあの平民は品が無いんだから! 貴族の“き”の字も知らない女の世話をさせるなんて、旦那様も人が悪いわ」


 ……あれ? ペトリさんの声にしては、いつもとは違う口調。それに今のセリフって、明らかに私について言っているよね?


 彼女が話している相手は……執事のコッヘルさん?



「あの平民の娘は、未来ある旦那様にとって害悪な存在でしかない。この屋敷から追い出せれば良いのだが……まったく忌々しい」


 そ、そんな……コッヘルさんまで、私のことをそんなふうに思っていたなんて。


 あまりのショックで思わず立ち眩みがした私は、その場を後にして廊下の壁に手をついた。



「はぁ……私ってそんなに嫌われていたのね……」


 まぁ仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。私は平民だし、人気者の男爵様には相応しくないものね……。


 なんだか急に、この生活を続けていく自信が無くなってきちゃった。


「明日、シャーレ様に相談してみよう……」



 ◇


「……はぁ。使用人も迂闊(うかつ)だが、盗み聞きする方も品性下劣というか」


 昨日と同じように食堂にいたシャーレ様に、コッヘルさんとペトリさんの会話を聞いたことを伝えると。彼は呆れたような顔でそう呟いた。


「そ、そんな……私はただ……」


 落ち込む私を見て、シャーレ様は溜息をつきながら言葉を続けた。



「それに使用人が悪口を言った程度で夫に告げ口とは。キミは貴族社会を舐めてるんじゃないか?」

「す、すみません」

「……はぁ。先が思いやられるよ、まったく」


 慌てて謝罪をする私に、シャーレ様はやれやれといった様子で首を振りながらこう告げた。



「まぁでも今の会話で、キミのことが少し分かったよ」


 そう言って立ち上がると、彼は私の手を取った。その行為に、不覚にも胸がドキッとしてしまった。だけど次に彼の口から出てきたのは慰めではなく、衝撃の言葉だった。


「やはりキミは、私の妻に相応しくない」


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