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ほのぼの捕獲



「ふぅー……」

「おっ、暫く見ないと思ったら疲れた顔してどうしたんだ?」

「ちょっと長期の依頼が入ったんだよ。魔物蠢く森で野営続き。体力も精神もガッツリ削られたぜ」

「そりゃご苦労さん、だな。一杯奢ってやるよ」

「ありがとよ。けどさ、あの噂を聞いたせいで初めて思ったよ。今ここに宿屋があったらな、って」

「〈グランベルジュ〉か。俺も野営中はいつも思うぜ。ふかふかのベッドで眠れたらな、ってな」

「ダンジョンのど真ん中で美味いもん食って、ぐっすり眠ってみたいもんだな……」



◇◇◇◇◇



〈トトリ砂漠〉での出張宿屋も、残すところ一週間となった。未だウェルさんたちはラキュウを捕まえるどころか、その姿さえも確認できていないようだ。

 宿に関しては延長も、この先に別の依頼がない場合は受け付けている。もちろん、その時は割高の契約金とはなるけど。

 まあ、お金の面での心配はないだろう。依頼主は領主だし。ただ、それで良しとするかどうかは別問題。ウェルさんたちも、主人の顔に泥を塗るような失態はしたくないはずだ。


「ミア殿! どうか私たちに協力願いたい! 何卒! 頼む!」


 と、見た目十七の女の子に土下座してまで任務を完遂しようとするのは、まあ、わかる。宿の共有スペースの、他の団員もいる中で、ここまでするには相当な覚悟も必要だ。彼の決意は認めるほかない。

 けど、だ。何であたしに頼めばいいって思ったんだ?


「あたしにお願いされてもなぁ。あたし、ただの宿屋従業員だよ?」

「しかし、ラキュウの捕獲経験のある従業員なのだろう!? クロエ殿がようやく話してくれ――」


 はっはーん。クロエちゃんか。


 ウェルさんは思わず口を滑らせたことに気付いて口を覆い、クロエちゃんは「それは言わない約束ですよ!」とでも言いたげに慌てている。

 大方、ウェルさんがクロエちゃんを問い詰めたんだろう。あたしの魔術のレベルの高さは、身体強化サービスで体験済み。そこから知識量もあると考え、直接あたしに質すんじゃなく、比較的口を割ってくれそうなクロエちゃんを狙ったんだろう。


 困っている人を放って置けない、人の好さもクロエちゃんの魅力ではあるんだけどね。


「いいよ。ただし、条件付き。このことは誰にも言わない。ラキュウ捕獲の手伝いは今回限りの一回だけ。同行人はウェルさん一人。これが呑めるなら手伝うよ」

「わ、わかった! 頼む、ミア殿!」


 早速準備に向かったのか、ウェルさんは客室へと駆けていき、入れ替わるようにクロエちゃんが顔を俯かせながら寄って来た。勝手に喋って申し訳なさを感じてるんだろう。そんなの、クロエちゃんに限ってはどうでもいいのに。


「あ、あの、ミアさん……」


 だから、心配ないよ。

 そんな言葉を籠めて、あたしはクロエちゃんの頭を撫でていた。




 ウェルさんと一緒に宿を出たあたしは、とりあえず適当に砂漠の上を歩いていた。特に代わり映えもない、この広大な砂漠を、ニワトリ程度の鳥が泳いでいるんだ。はっきり言って、当てなんかあるわけもない。

 自分の周囲に探知魔法を張り巡らせながら歩く。これが一番手っ取り早いんだ。


「聞いてもいいか? どうして私を同行させてくれたんだ? ラキュウの捕獲を口外してほしくないのなら、誰にも見せたくないことでもあるんじゃないのか?」

「見せたところで誰でも真似できるようなことじゃないからね。けど、だからって自慢するみたいに見せるものでもない。あと、ウェルさん的にもそっちの方がいいかなって」

「私のため?」

「そう。女の子に捕って来てもらったものをただ受け取るよりも、一緒に行って手伝って捕まえた、くらいに見せたほうが部下にも示しが付くんじゃない?」


 ははは、と最初は小さく笑っていたんだけど、少しずつその笑い声は大きくなっていた。


「私自身そこまで考えていなかったが、言われてみれば確かにそうだ。ミア殿に無償で受け取っては、団長としての資質を疑われていたかも知れない。お気遣い、感謝する」

「けーど? クロエちゃんを困らせてくれたのは頂けないかなぁ」

「す、すまない。クロエ殿なら何か知ってると思い、つい……」

「ラキュウ、二羽捕まえるから一羽貰ってもいい?」

「二羽も!? か、可能なのか? いや、こちらとしては一羽だけでもありがたい話だからな……」

「じゃあ、決まり。うちの料理長にもラキュウ料理を経験させてあげたいんだ」


 驚いていた顔が一変、ウェルさんは僅かに口許を緩める。


「ミア殿は本当に仲間のことを大切に思っているのだな」

「まあね。長い長い時間を過ごす中で出会えた、愛おしい子たちだから」


 少し首を傾げたように見えたけど、あたしの言葉に気を留めるほどじゃなかったようだ。

 それはさて置き、さっきから探知魔法に反応がある。

 今の探知範囲は、あたしを中心に半径約百メートル。最大で一キロくらいまで広げられるけど、そんな大きな網じゃ、ラキュウのスピードと魔力の低さから探知不可能。捕捉できる最大範囲が今のこの状態ってわけだ。

 その網に、何度かラキュウが触れている。近くを泳いでる。


「ウェルさん、ストップ。二時の方向、百メートルより少し先にラキュウがいるっぽい」

「ほ、本当か」


 本能的に何か察したのか、ウェルさんは小声で答えた。それで正解だ。さすがは騎士団長。


「うん。けど、あいつらは臆病な生き物。少しの音や気配で逃げていく。だから、こっちの気配はなるべく殺さないとダメ」

「ならば、近付くのは相当難しいんじゃないか?」

「近付くのはね。だったら、近付いてもらおうホトトギス、ってことだよ」

「ほ、ホトトギス?」


 腰に付けたアイテム袋から、一本の草を取り出す。エノコログサって言う植物で、一般的に猫じゃらしって呼ばれる雑草だ。

 あたしはその場に屈み、砂漠の砂の上に猫じゃらしをふりふりさせる。


「み、ミア殿? 一体何を……?」

「ラキュウの感知能力は鋭い。こうやって砂漠の上を猫じゃらしで撫でる音や気配も捉えてる。あいつらが主食とする虫の気配と勘違いしてね」

「そうか。近付くのが無理なら、誘き寄せるのか」

「そうゆうことー」


 掛かった! 二時の方向から物凄いスピードで突っ込んで来る小さな気配がある。間違いなくラキュウだ。

 あたしは素早く立ち上がり、右手を大きく振り払う。前方で巻き上げられた風は竜巻に姿を変え、周囲の砂が空へと舞い上がっていった。


「ウェルさん、あそこ! ラキュウがいたよ!」


 真っ黒な羽毛はよく目立つ。竜巻の中に黒い物体を見付けたあたしはすぐさま指差し、魔力を解いた。竜巻はすぐに止んで、舞い上げられたラキュウが落ちて来る。ウェルさんはそれを危なげなくキャッチした。


「こ、これがラキュウ……! そ、そうだ! 逃げられないよう、すぐに締めなければ……!」


 おっ、と。

 あたしはすぐに目を逸らした。ウェルさんの判断は正しい。暴れるラキュウを腕から落としてしまえば、すぐに砂の中に潜り込んで逃げてしまう。だから、ソッコーで動きを封じるのが正解。

 それはどうやってするのか。簡単だ。首をちょん切る。


 ぽと。

 何かが砂の上に落ちる音がした。いや、何が落ちたかって、考えなくてもわかるよ。ラキュウの頭が斬り落とされたんだ。わかるけど、大量の血を見るのはちょっと苦手なんだ。首を落とされても暫くは胴体だけでも暴れるからな……。それもまあまあグロい……。


「よし! やったぞ、ミア殿! ラキュウ捕獲、成功だ!」

「あ、ああ、うん。やったね。それより、血は止まった?」

「血はもう全て抜けたようだが……?」

「そ、そか……」


 うげぇ……。

 ラキュウの首からはもう血は抜けきったみたいだけど、ウェルさんの足許には血溜まり。しかも、それが熱々の砂の上に落ちたもんだから、熱されて生臭さが半端ない。


「す、すまない。配慮に欠けたな……」

「これでも女の子だかんね」 二百年生きてっけど。

「しかし、何度か捕獲したと聞いたが?」

「見付けた瞬間、雷魔法で心臓に電気ショック与えたからね。血を見ることもないってわけ」

「も、もしかして、わざわざ私に捕獲の手柄を……?」

「最後くらい手伝った方が達成感もあるっしょ?」

「……重ね重ね、感謝する」


 それから一時間ほど歩き回って二羽目をゲット。ウェルさんにはもう花を持たせてあげたんだから、気を遣う必要はない。すぐに雷魔法で止めを刺して、意気揚々と宿へと帰って来た。




「団長! 遂に捕獲したんですね!」

「よっしゃー! これで任務達成だ!」

「だんちょー! ようやく帰れますね!」


 騎士団員の騒ぎようは凄まじかった。それほどまでに領主からの重圧を、トトリ砂漠と言うフィールドの過酷さを感じていたんだろう。泣いている団員も数人いる。

 あたしが協力してやったから捕まえられたんだけどなぁ……。みんなその辺、気にしてないか……。まっ、いいけど。


「諸君! これも全てミア殿、いや宿屋グランベルジュのお蔭だ! この感謝を忘れることなく、この胸に留め、そして秘めておくように!」


 いや、グランベルジュの宣伝はしていいよ? 喋ってほしくないのは、あたしがラキュウを捕獲できる魔術師だってことだけだから。


「はっ!」


 右の拳を胸に当てて、輝く眼差しをあたしに向ける騎士団たち。こんな感謝のされ方は初めだったせいか、あたしは苦笑いで頭を掻くことしかできなかった。

 その後、団員たちはラキュウ捕獲の祝杯を各々の客室で挙げているようだ。クロエちゃんはみんなに酒を振る舞い、オリヴィアは宴会の肴を作るべく腕を振るう。

 ちょっと忙しいけど……二人も楽しそうだから、いっか。


「ミア殿、我々はラキュウを届けるため、明日にでもここを発とうと思うのだが……。契約期間はあと一週間ほど残っている。この場合は、その、何だろう……。ミア殿たちも引き上げる、と言うことなのだろうか?」

「気になることはズバッと聞いた方がいいよー」


 長生きしたいならね。


「まあ、言いたいことは何となくわかるよ。契約期間を残してそのフィールドから立ち去った場合、残りの契約期間分の料金を返金できないのか、でしょ?」

「で、できないのであれば、それでいい。強要することもない。ただ単純に聞いてみたかったのと、後学のためだ。あと、もし撤収するのであれば、作業員として何人かの団員を残していこう。それくらいの手伝いはさせてくれ」

「んー……撤収作業についてから言うと、別に人員を割く必要はないよ。この宿はあたしの魔法で造ったものだから、魔力を解けば砂に戻る。あとは転移魔法で帰るだけ。正直、十分もいらないね」

「そ、そうなのか。さすがミア殿だな」

「料金についてだけど、ここは徹底させてもらうよ。ウェルさんには弱みを握られているわけだけどね」

「だ、だから、強要しないし、当然ミア殿のラキュウ捕獲に関する情報も一切口外しない! それは約束する!」


 そこは信頼している。ただちょっと、嫌味っぽい言い方をしてみただけだ。


「早く引き上げたからと言って、その分の返金はしないよ。依頼期間分の準備と用意をして、ここに宿を構えたわけだからね。勿体ないな、と思うんであれば、何人か残ってフィールド探索してもいいし」

「そうか。いや、ミア殿には十分世話になった。あれだけの依頼料で良かったのか、オルレアン様も驚かれていたからな」

「いい感じに宣伝しといてよ」


 領主だから人脈は広そうだし、貴族とかの間で噂されるのも悪くない。


「ああ、もちろんだ。では、もう一泊世話になる」

「うん、ゆっくり休んでいって」


 翌日、ウェルさんたち騎士団を見送ってから、あたしたちもトトリ砂漠を後にした。




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