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ほのぼの投降




「はあ! はあ! はあ、はあ……!」

「おいおい、どうした? 何をそんなに慌ててる?」

「ああ、グライン様! 実は取り急ぎ王様にご報告したいことがありまして!」

「今、王は忙しいようだぞ? 俺で良ければ話を聞くが?」

「し、しかし、まずは王様に……!」

「そんなにヤバい案件なら、結局俺の方へ回ってくるんだ。二度手間だろ? 何、お前に聞いたってことは黙っててやるから」

「は、はあ……。では、これを……」

「報告書……? 何、なに……」



「おい、お前」

「はい!」

「これは事実なんだろうな!?」

「確認は取れていませんが、信憑性は高いかと。何せそこには魔族も働いている、と言う情報もありますので」

「だとしたら、反逆罪だぞ……!」

「し、しかし、魔王の娘をこちらに引き込もうとしているのかも知れませんし……」

「だとしたら、国王直々の命令が下ってるだろ! これは明らかな裏切りだ!」

「で、では、やはり早急に王様へ報告を――」

「いや、これは俺が預かる」

「グライン様!?」

「この間の借りを返すチャンスがもうやって来るとはな……」

「ま、まさか、お一人で……!?」

「バカ野郎。俺は勇者だぞ? 勇者には優秀な仲間がいるんだよ。ただまあ、国王軍にも何人か出動してもらおうか」

「い、今動ける者は僅かしか……」

「飾りみたいなもんだ。僅かでいい」

「了解しました」

「宿屋〈グランベルジュ〉は魔王の娘と繋がりを持ち、あろうことかその娘の鍛錬に手を貸している反逆者共だ! 直ちにひっ捕らえに行くぞ!」



◇◇◇◇◇



「ミアさん、お手紙が届いてますよ」

「ああー、ありがとう。誰からかな……って、ユミリアの親父さんじゃん」

「感謝状とかですかね」


 リベール女学院からの依頼は無事に達成して、イザベラ先生やユミリアたち生徒からも散々感謝された挙句、今度は親父さんからの感謝状? なんて、ちょっと飽き飽きした気分になっていたんだけど、中身の手紙に目を通してみると、まあ悪くはない文言だった。


『ミア殿、この度は本当に感謝する。

 と、いつまでも感謝の言葉を述べたいところだが、それは娘のユミリアが役目を果たしてくれたと信じているので、やめておこう。

 ただ、ミア殿にこのご恩を返せないのはファーランド家の当主として心苦しくもある。だから、もしもミア殿に何かあった時。何かで困り果てた時。私たちファーランド家を頼ってくれ。

 世界を敵に回そうとも、ファーランド家はミア殿の力になると誓おう。

 そして、このことはファーランド家に代々伝えていくつもりだ。


 ミア殿、あなたは不老不死だと聞いている。

 だから、百年先、二百年先、未来永劫、ファーランド家はミア殿に寄り添うことを誓おう』


 未来永劫、寄り添うか……。

 同じ不老不死でもない限り、そんな仲間ができるなんて思ってもなかった。けど、不老不死じゃなくたって、ずっと一緒にいられる人もいるのかも知れないな。


 ユミリアの親父さんの手紙を読んで、そんなことを考えさせられた。


「どうでしたか?」

「いい知り合いができたかもね」


 コレットの件もあるし、もしかしたらユミリアの孫やその子供にいつか救われる時が来るかも知れない。そう考えると、未来が少しだけ楽しみに思えた。


「失礼するぞ」


 突然のノックの後に扉を開けたのは、鎧を纏った騎士が二人。しかも、ただの騎士じゃない。あの鎧は国王軍のものだ。

 うちの国王軍が? 何の用だ……?


「ここに魔術師がいると聞いたのだが?」

「あたしだけど、何か?」


 二人の騎士の後ろにはかなりの人数がいるみたいだね……。この宿を取り囲んでる?


「そうか、お前か」


 国王軍の間を割って入って来たのは、いつだったか遠目で見た男。

 仲間になりたいと憧れた男。


 そいつは勇者だった。


 グラインが姿を現すと、雪崩れ込むように冒険者たちが宿に押し入ってきた。これが勇者パーティーってやつなのか。ガラの悪そうな奴らが大半で、勇者パーティーって言うよりチンピラ集団ってな方が合ってる気がするよ。


「一体、何の用?」

「お前、魔王の娘と繋がっているらしいじゃないか。これは明らかな反逆罪だ。俺たち人間を裏切る大罪だ」


 国王軍も動いているってことは、これは国王の命なんだろうか……。だとしたら、下手に動くのは不味いよね。あたしはどうなっても構いやしないけど、クロエちゃんとオリヴィアは別だ。


「それは誤解だよ。個人的な親交があるのは事実だけど、人間を裏切るつもりなんて毛頭ない。あたしはあたしなりに、魔族との付き合い方を考えているだけだよ」

「鍛錬に付き合っている、と言う情報もあるが?」


 結構深くまで探られてるな……。さすがは国王軍ってことなのか……?


「……それも事実だよ」

「ミアさん!」

「ごめんね、クロエちゃん。今まで黙ってて」

「み、ミアさん……? 何を……?」


 状況が読み切れない以上、二人を巻き込むわけにはいかない。

 あたしはオリヴィアに視線を送り、それだけで悟ってくれたようで、クロエちゃんの傍に歩み寄って、そっと肩に手を置いた。


「弁明くらいはさせてくれるんだよね? あたしが一人で何を考え、何をしていたのか。それくらいは説明させてほしいんだけど?」

「お前が大人しく捕まれば、その機会もあるだろうよ」

「わかったよ。大人しく投降する」


 両手を挙げると、数人の冒険者が寄って来て、あたしの両手首に特殊な枷を取り付けた。これは付けられた者の魔法、魔力を完全に封じる拘束具だ。


「あっちの二人は無関係だからさ。手は出さないでよね」

「ああ、約束するぜ」


 こいつの言葉がどこまで本当なのかはわからないけど、グラインの狙いは多分あたしだ。まさか本当に、こいつあの時、幻惑の森の近くにいたの? それで、あたしが放ったファイアボールに被弾した? これはそれの腹癒せ?


 うーん……だとしたら、面倒なことになったな、こりゃ……。




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引き続き宜しくお願い致します。

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