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ほのぼの犯人捜し



(これであの娘は確実に呪われるんだな?)

(ええ、そうですとも。私が強化した〈マレディクシオン〉を使えば、あの少女を待ち受けるのは悲惨な未来のみです)

(くくっ……。これでやっと奴に復讐できる。自らの出世のために俺を嵌めた、あの男! アドルフに!)

(ザックスさんと言いましたか? あなたは私が憑依したとは言え、教えた〈マレディクシオン〉を扱えるほどの人。お一人でも復讐できたのでは?)

(確かに、それなりに高い魔力を持っていることは自負しているが、俺は魔力の扱いには長けていないんだ。だから、できるとしたら強力な攻撃魔法だけだ。だが、それでただ単純に奴を殺してしまうだけでは、この怒りは治まらない)

(出来得る限りの破滅を望む、と)

(あんたの魔法は最高だ。俺が考えてた以上の惨さだ。それが叶うのなら、この体がどうなろうが構わん)

(狂った人だ。いや、私は好きですけどね、あなたみたいな人は。いやー、いい人間に出会えたものです)

(いきなり夢の中で話し掛けてきた時は驚いたけどな。とうとう頭がどうにかなったのかと思ったぜ)

(私は魂だけの存在ですからね。特殊な才能かスキルでもない限り、私を認識することはできません。しかし、人は眠っている時、仮死状態のようなもの。睡眠中なら私から近付くことができるのですよ)

(そして、同調してしまえば、いつでもあんたを認識できる、と)

(ええ。今はもうあなたの体に憑依しているので、ザックスさんと言う殻に閉じ籠っているような状態でしょうか)

(そのまま俺の体を乗っ取るってわけか?)

(それもできないことはありませんし、当初はそうしようと考えていました)

(当初は? 今は違うってのか?)

(あなたは面白い人間だ。会話をしていて思いました。気が合うかも知れませんよ、私たち)

(まあ、俺も悪い気分じゃないからな)

(どうです? このまま二人で世界を統べてみる、と言うのは?)

(さすがにそれは……。いや、面白いかもな)



◇◇◇◇◇



 ミーシャが作ってくれた薬をユミリアに飲ませると、額の上に呪詛の刻印が浮かび上がってきた。これで、ユミリアはこの呪詛から解放されたってわけだ。

 あとはここでゆっくり休めば、失ってしまった魔力も体力も回復して、元通りの彼女になる。


 で、あたしは、と。

 刻印に触れると、あたしを拒むように小さな電流が走った。けど、ユミリアから剥がされた以上、こいつはもうどこからも魔力を吸収することはできない。弱る一方。

 だから、あたしは握り潰すように刻印を掌の中に収めた。


「ふーん……。どこにいるのかと思いきや、そりゃそうか」

「ザックス・メディソンの居場所がわかったのですか?」

「普通に街にいるよ。多分、ファーランド家がある街じゃない?」


 ザックスの目的はユミリアを操り、破滅させ、自分の娘に殺される親父を見ること。だったら、ファーランド家の近くにいないとそれが見れないよね。


「じゃあ、ちょっくら行ってくるよ」



 転移先はその街の外れ。いきなり大通りに現れたら驚かれるし、騒がれるのは困る。だから、人気もなさそうな路地裏に転移しておいた。

 あいつの気配は……あった、あそこだ。


 路地裏から家の屋根に飛び上がり、じーっと目を凝らす。周りの建物よりも比較的大きくて、豪華そうな屋敷の屋根の上に、一人の男が寝そべっているのが見えた。

 あそこがファーランド家、かな? そんで、ザックスはあそこの当主が殺されるのを、ああやって待ってる、と。


「虫唾が走るね、ったく……」


 屋根を蹴り、飛び出したあたしは一瞬でザックスの傍まで移動。胸倉を掴んで、体を少し引き上げた。


「ねえ、おじさん。ちょっとあたしに付き合ってよ」

「なっ! な、何だ、お前は!?」

「自己紹介は後でしてあげる」


 そのままザックスを連れて、街の外の誰もいない平原に転移。そこでようやく、真面に向かい合ったザックスは頬がこけて、やつれた印象を受ける四十代くらいの細身の男だった。


「何なんだ、お前は!?」

「グランベルジュって言う宿屋で働いてる、ただの従業員だよ」

「宿屋の従業員だと? それが俺に何の用だ!?」

「ユミリアに掛けられていたマレディクシオンはあたしが解いた。それだけ言えば、もうわかるでしょ?」

「な、何だと……!?」


 目をまん丸に見開くザックス。いやはや、いい反応をしてくれるもんだ。

 思わず、にやけてしまったあたしを見て、ザックスが一歩後ろに引いた気がした。


「そ、そんなはずない! ハッタリだ!」

「あんたにハッタリかましてどうすんのさ。まあ、証拠が見たいなら、ほら」


 あたしはまだ掌に残しておいた呪詛の刻印を見せ付ける。見せ付けておいてから、今度は本当に、確実に握り潰した。


「ショボ。ショボすぎだね、これは。魔導構築は雑だし、魔導理論も幼稚すぎる。レベルが低すぎて、逆に戸惑っちゃったよ」


 驚愕していたザックスの顔が一気に豹変した。顔を紅潮させ、眉間に皺を集め、歯をぎりぎりと食い縛っている。


「き、貴様ぁあああああー! それは私の最高傑作だぞ!」

「出たね、要領の悪いバカ室長。リエラには話を聞いてるよ」

「そ、そうか! あの女の差し金か!? 未だ、私の才能を妬んで……!」

「ああー、全然。そんなんじゃないし。共通の知り合いがいたから、たまたま話を聞いただけ。あんたをどうかしたいとか、一言も言ってなかったよ」

「わ、私をバカにするな……!」


 怒りで肉体の主導権が入れ替わったみたい。これでザックスの体から、あの魂を引き剥がしやすくなった。

 ふふふ、まんまと表に出て来たもんだ。閉じ籠っていれば、ちょっとくらいの時間稼ぎはできただろうに。


「これを喰らうがいい! 私が研究に研究を重ねた究極の炎魔法〈フレイムバーストボルケーノ〉を――」

「いろいろ長い」


 ザックス、と言うかザックスに憑依した前室長が何かごちゃごちゃ言っている間に、あたしは水魔法で滝のような雨をザックスの上だけに降り注がせた。

 何かの炎魔法を発動するつもりだったようだけど、掌に纏っていた火は鎮火。そこからは虚しく煙が出ているだけだった。


「術の名前も詠唱も長いんだって。魔法はスマートに、コンパクトに。それが今の時代の流れだよ?」

「き、貴様ぁあああ――」


 さっきとキレ方、一緒じゃん。はいはい、もういいよ。


「ごふっ!」


 あたしはザックスの懐に潜り込み、鳩尾に拳を捻じり込んだ。そのままザックスはノックアウト。仰向けに崩れ落ちた。


「く、くそっ! この私が……!」


 それでも意識があるのは、この魂のせいだ。ザックス自体の意識はなくなっているから、今は前室長の魂だけでこの体が保たれている状態だ。

 だから今、表に立っているのは前室長だ。


「スマートに終わらせるよ?」


 あたしは親指を立て、人差し指をザックスに向けて構えた。照準はオッケー。


「や、やめろ! 悪かった! あの娘にはもう二度と手を出さないと誓うから!」

「聞こえない。許しを乞うなら地獄でやりなよ」


 心の中の引鉄を、あたしは躊躇なく引いた。




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引き続き宜しくお願い致します。

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