ほのぼの集中?
〈もっしもーし、オリヴィアちゃん?〉
「イリア、お願いしていた件、見付かったのね?」
〈魔族軍魔法研究室の室長さんだよ。フィールドワークとか言って、めちゃくちゃ深い洞窟の中にいたんんだよ? 探すの大変だったよ……〉
「あんたも樹海に籠ってたでしょ。て言うか、それどころじゃないの。その人に代われる?」
〈はいはーい。リエラ室長さんだよ〉
〈リエラよ。話はざっくり聞いているけど《マレディクシオン》に掛けられた人間がいるんですって?〉
「ええ。しかも、既存のものより進化しているそうなの」
〈何ですって!? だとしたら、あなた大丈夫なの!? そっちで何人か巻き込まれた犠牲者が出ているんじゃないの!?〉
「巻き込まれた人間はいるけど、不老不死だから何ともなかったわ。けど、その子がいなかったら、今頃私たちは全滅していたかもね」
〈イリアに聞いた不老不死の魔術師ね。確かにその子なら解除は可能かも……〉
「それよりもリエラ室長。あなた、進化版の《マレディクシオン》に心当たりがありそうな感じね?」
〈前室長の研究テーマだったのよ。それを先代魔王様に掛けようとして、処刑された〉
「じゃあ、もう死んでいるのよね? だったら、誰かが前室長の研究結果を盗み出して、それを使ったと言うこと?」
〈その可能性は低いと思うわ。《マレディクシオン》もそうだけど、その進化版を誰でも扱えるわけじゃない。不老不死レベルの最上位魔法よ。あり得るとしたら……前室長よ〉
「さっき処刑されたって……」
〈あの人ならたとえ肉体が滅びても、魂だけを残す方法くらい手に入れていてもおかしくないわ。つまりはゴースト〉
「それが人間の貴族の娘をどうして呪ったの!?」
〈おそらく、誰かが頼んだのよ。その貴族に恨みを持つ者が、前室長に〉
「まさか、お金で!?」
〈いいえ、魂だけの存在にお金なんて必要ないわ。文字通り、体で払ったんでしょうね〉
「……憑依!?」
〈そうすれば魔法も使える。けど、ある程度魔力の高い者に憑依する必要があるから、貴族の娘を呪った真の犯人は上位の魔術師か冒険者とかでしょうね〉
「その進化版の魔導理論の再構築のヒントになるものは何かない?」
〈……私も詳しくは聞かされていないの〉
「そう……」
〈ただ、これから研究室の資料を搔き集めてみるわ。研究員も何人かいるし、イリアにも手伝わせるから〉
〈え、ええっ!? 私も!?〉
「頼んだわ。何かわかったら、また連絡して」
◇◇◇◇◇
ああー、くそ! 紙が足りないよ、紙が!
オリヴィアから得た情報を頭に入れても、この進化版マレディクシオンの魔導理論の再構築はようやく登山口に辿り着いたってところだった。これから天辺の見えない山へ登っていく。
「み、ミアさん、凄い勢いでペンを走らせてますね……。全然読めないんですけど、イザベラ先生、あれは一体何を書いているんですか?」
「あれは魔導文字。ミアさんが書いているのはあの魔法の図面、みたいなものでしょうか」
「ず、図面!? あれがですか?」
「魔法、魔力、マナなどと言われて明確な形はイメージできませんよね? ですから、あんな風な文章のようになるんです。ですが、魔術師にとってはあの文章が、私たちで言う設計図に見えるのです」
さすがは院長先生。教えるのが上手だな。
「次の紙、頂戴!」
「は、はい!」
差し出された真っ白な紙も、すぐに魔導文字で真っ黒になっていく。そりゃそうだ。身体強化魔法を使って、十倍くらいの速さで書いてるんだから。
そんなわけで、あたしの周りには数人の先生たちが立っていて、一人はあたしに新しい紙を供給する係、別の先生は書き上がった紙を受け取る係、それを床に並べ、壁に貼り、管理する係などなど。総出で再構築に挑んでいる。
「ミア、どんな感じなの?」
「お、オリヴィアさん! 今は話し掛けない方が――」
「大丈夫だよ、クロエちゃん」
口調はのんびりほのぼのしてるけど、手だけは物凄い速さで動いている。我ながら、何かシュールだな。
「お喋りしながらの方が気が紛れるから」
「紛れたらいけないんじゃ……?」
「うん、普通はね。けど、こいつは普通じゃない。異常な魔導理論だ。集中しすぎたら、こっちの頭が狂っちゃうよ」
「そ、そうなんですねー」
「いや、これ冗談とかじゃなくて、割りとマジだから。もし、これを一人で机に向かってやってたら精神崩壊してるよ。不老不死も精神やられたら廃人だよ。廃人のまま死ねないなんて、ガチで笑えないでしょ」
「ミアさん。私、隣で歌でも唄いましょうか?」
「手が止まっちゃうからやめて。でも、そんな感じで普通に話し掛けてくれて大丈夫だから」
クロエちゃんが珍しくボケてくれるもんだから、いい気分転換になった。
さあて、一合目はどこだ?
「で、どんな感じか、だっけ? 相当ヤバいよ」
「あなたが言うんだから、とんでもないレベルなんでしょうね」
「これ、魔王が喰らってたら世界が滅びちゃってたかもね」
「そ、そうなの!?」
「前に言ったでしょ? これは対象者の魔力を食らう呪詛魔術なんだよ。だから、受けた者の魔力が膨大なほど、巨大な魔力暴発が起きる。ちょっと言い方が悪いかもだけど、ユミリアだからこの程度で済んだけど、これが魔王だったらって考えるとどうよ?」
この場にいる全員が息を呑んだ。想像を絶する予想図に。
「やっぱりミアも、このマレディクシオンを作り上げたのは魔法研究室の前室長だと思う?」
「可能性としては一番高いんじゃないかな。身内も言ってるくらいだし。それに、魂だけを残す方法は魔術師界での研究対象の一つだからね」
「それがユミリアに、ユミリアの家族に恨みを持つ人物に憑依した」
「憑依は簡単なものじゃないからね。魂と肉体が同調しないと成立しない。処刑された恨みと、ファーランド家への恨みが合致した。となると、やっぱり呪詛魔術の発動者はユミリアの父親を憎む罪人」
うーん……? 何だ、この魔導理論……? 何でこんなところに、こんな理論をくっ付けるんだ? わけわかめだよ。もしかして、フェイクとか!?
「しかし、だとしたらどうしてユミリアさんに? 父親を憎むのなら直接、呪詛魔術を掛ければいいではありませんか」
「見たいんでしょ? その父親が苦しむ姿を。呪詛に掛かると精神はほぼほぼ乗っ取られて、操り人形みたいなものですからね。自分の娘が呪われ、自分の娘が多くの人を殺し、そして自分も娘の手によって殺される」
「そ、そんな……。では、ユミリアさんはそれに利用された、と……」
両手で顔を覆って、イザベラ先生はぼろぼろと涙を零した。そんな先生の肩を、クロエちゃんがそっと抱く。
ああ、そうだ。そうなんだよ……! ユミリアは……!
「先生たち、もし可能ならファーランド家が裁いた罪人で出所した者って調べらる? 呪詛魔術は牢獄から遠くの相手に掛けられるものじゃない。対象者が目に見える範囲にいないと無理」
「犯人は刑期を終えて、刑務所から出た者? 脱獄犯の可能性は?」
「ユミリアのお父さんは重罪人を裁いていた。そんな奴が脱獄したら大きなニュースになるよ。でも、そんなの聞いたことがない」
「そいつを見付けることができれば、呪詛魔術は絶てるの?」
「いや、一度発動してしまったものは発動者を殺しても消えない。けど、野放しにしていればまたユミリアに危害が及ぶでしょ」
覆っていた手を下ろしたイザベラ先生は、濡れた瞳であたしを見つめていた。
あたしは手を動かしながらも、その目を真っ直ぐに見つめ返す。
「ミアさん、犯人を探し出すのは可能です。いや、やらせて下さい。我が院の大切な生徒のために!」
「お願いするよ」
「ただ、一つ聞かせて下さい。犯人を見付けた場合、ミアさんはどうするおつもりですか?」
「うーん……。実行犯は生きた人間なわけだから、そこは法が裁くべきじゃないかな。糸を引いていた陰の犯人は魂だしね、法じゃ裁けない」
「では……?」
「魂に懲罰を与えるのはあたしじゃない。地獄でしょ」
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