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ほのぼの修学旅行



「博士! ミーシャ博士!」

「は、はい、何でしょう……? と言うか、博士と呼ばれるほどの者ではないので、普通に呼んで下さいと、いつも……」

「ミーシャ博士、上級薬草はお持ちでしょうか!?」

「錬成で回復効果を上げた薬草ですか? そんなもの、城下町の道具屋さんに行けばいくらでも――」

「それが、ちょうどどこも切らしているとかで……! 城中の薬草を集めたのですが、それでも足りず、植物学者のミーシャ博士ならと思い、参った次第です」

「そんなにたくさんの怪我人が出たんですか!?」

「いえ、負傷者は一人なのですが状態が酷く、上級薬草が必要だそうです」

「研究サンプルとして、いくつか保管してあります。すぐに取ってきますね」

「お手伝いします」

「それにしても、わざわざ国王軍の兵士さんが私を訪ねに来ると言うことは、よっぽどの要人が怪我をしたようですね」

「……さすがは博士。すぐに見破られてしまいましたね」

「いやぁ……大体の人は気付くと思いますけど……?」

「ミーシャ博士を信頼して言いますが……」

「勝手に信頼しないでもらえますか? と言うか、博士呼びをやめてくれないあなたを、私は全く信頼できないんですが?」

「負傷したのは……勇者殿です」



◇◇◇◇◇



 コマチとはサンローイの上空で別れ、あたしはそのままグランベルジュに降下した。その少し前から気付いてはいたんだけど、どうやら宿にお客さんが来てるみたいだ。

 玄関を開けると受付で対応していたクロエちゃんと、鳴子の音で振り返ったお客さんと目が合った。初老の、上品そうな女性だ。


「あっ、こちらが今話していたミアさんです。ミアさん、こちらは王都にある〈リベール女学院〉の院長先生です」

「ど、どうも」


 話がまだよくわからず、あたしはとりあえずって感じで頭を下げておいた。それに対して、院長先生なる人は、丁寧に深々と頭を下げるのだった。


「初めまして、わたくしはリベール女学院で院長をしているイザベラと申します」

「リベールはあたしも聞いたことがあります。貴族や裕福な家庭に生まれた女の子の教育機関だとか。そこで学べば立派な婦女子になれるって」

「昔はそうでしたが、今はもう少し門戸を開き、奨学金制度などを採用して家柄よりも才能ある生徒を伸ばすことに努めております。正にミア様のような人材を」

「様、は余計です。けど、少しはあたしのことを知って、ここに来たってことですかね……?」

「ええ、もちろん。王都でも少し噂になっておりますよ、不老不死のミアさん」

「人気者になっちゃったもんだ。じゃあ、改めてイザベラ先生の話を聞かせてもらおうかな」


 ソファーに腰掛け、あたしはイザベラ先生と向き合った。いい質の魔力の持ち主だ。高いとか強いとかじゃない。きっと丁寧な魔法を使える人。サポート系の魔術師に向いてる。


 リベール女学院は古く格式高い伝統を持つ十八歳までの女子を対象とした教育機関で、百年くらい前にはその名を聞いたことがある。女の子が学問以外にも魔術や錬成術を学べる専門機関って聞いて、修行になるかもって、ときめいた記憶があるなぁ。

 けど、その当時は家柄重視で、田舎の平民には無理だって入学を断念したんだ。


「遥か南の島〈ラフレンテ〉はご存知でしょうか?」

「知ってるよ。昔、リゾート化しようとしたけど魔物が多くてやめたんだよね。その島独特の進化をしていて、厄介な魔物が多いって言うから修行しに行ったことあるよ」

「ならば、ラフレンテに宿を出すことは可能でしょうか?}

「できるけど、理由は? あそこ、特に何かあるわけでもないよ?」

「修学旅行、と言う理由ではダメでしょうか?」


 ああー、なるほど。


「リベールでは生徒が旅行先を話し合いで決めるのですが、今年はラフレンテの希望が多く、学院の規律として決定としなくてはいけないのですが……」

「あそこに宿屋はない、と」

「どうして生徒さんたちは宿屋のない島をわざわざ選んだんですか? ミアさんの話では魔物も多いし、危険な島なんじゃ?」

「さすがリベール女学院だよ。優秀な生徒が多い」

「どう言うことです?」

「今年はラフレンテの固有種〈イビルラフレシア〉の開花の年なんだ」


 イビルラフレシアはラフレシアの亜種とされているけど、単なる植物じゃなくて植物系の魔物だ。地面に根を張って、動きはしないんだけど、その根っこを触手のように使って獲物を捕らえて食べてしまう。

 食虫植物っているけど、あんな可愛いもんじゃない。イビルラフレシアはオオカミやイノシシも食べちゃう大型魔物だ。


「イビルラフレシアは五十年に一度、花を咲かせる。その花はかなり綺麗なんだけど、魅力はそこだけじゃない。花が咲く時に溜め込んでいたマナを放出させるんだけど、このマナがあまりにも濃厚できらきら輝いて見えるんだ」

「開花と共に吐き出される輝くマナ。それはホタルの舞いのようだ、とも言われます」

「自分たちの修学旅行の年にイビルラフレシアの開花が重なれば、そりゃ行ってみたいよね」

「生徒数は三十、私たち引率の教員も含めて総員は三十五人です。期間は五日。お願いできないでしょうか」


 三十五人。思ってたより少ないな。門戸を開いたって言っても、中身は超優秀校。そう簡単に入学できるような場所じゃないから、今でもリベール女学院の生徒は選ばれし生徒なんだろう。


 しかも、今回の目的は修学旅行。言ってしまえば観光だ。ラフレンテは確かに危険な場所だけど、その危険にわざわざ飛び込む冒険者を連れて行くわけじゃない。こっちが余計な世話を焼く必要もなさそうだ。


「もちろん、いいよ。引き受けてあげる」

「本当ですか!? ありがとうございます、ミアさん」

「未来ある子供たちにとって、いい経験になると思うんだ。ラフレンテはイビルラフレシア以外にも貴重な体験や経験のできる場所だからね」

「じゃあ、早速日取りを決めましょう。オリヴィアさん、呼んできますね」


 あたしは少ないって思ったけども、料理を作る人から見る三十五人はまた違うはずだ。だから、ここからはオリヴィアも混ざっての話し合いとなった。

 その結果、天気にも恵まれそうな四日後を修学旅行の開始日とすることした。



 修学旅行当日。


「こちらがこれからお世話になる宿、グランベルジュのお三方です。何度も言っているように、ラフレンテは危険な場所でもあります。なので、私たち教師とグランベルジュの皆さんの指示には必ず従うこと。そして……―—」


 と、暫くイザベラ先生の話が続くんだけど、あたしは気になる人物を発見してしまった。その気になる人は、リベール女学院の教師陣の方に立っていて、あたしたちとは反対側。

 だから、イザベラ先生には悪いんだけど、早く話終わらないかな、とか思ってしまった。


「お久しぶりです、ミアさん」


 先生の話が終わり、出発の準備時間となった時、その気になる人物が向こうからやって来た。


「久しぶりだね、ミーシャ」

「お久しぶりです、ミーシャさん。お変わりないようで」


 そう、植物学者のミーシャがなぜかリベール女学院の引率として来ていたんだ。


「何でミーシャがここに? もしかして、母校とか?」

「いえ、そう言うわけではないんですけど、特別講師として呼ばれまして」

「ああー、なるほどね。けど、あれって一応魔物だけどミーシャの守備範囲なの?」

「花が咲けば、大体調べちゃうので」


 植物学者としての矜持か、それともクセなのか。


 生徒たちの準備も終わり、転移魔法でラフレンテへ。宿は予め建てておいたから、後は先生たちの仕事だ。班分け通りに客室へと向かい、荷物を置いたら集合して軽いミーティングをするようだ。

 だから、イザベラ先生からは生徒みんなが集まれるような広間がほしい、との要望があった。あと、宿の周囲は強力な結界魔法で覆い、その更に外側には何日も前からトラップ魔法を仕掛けまくってある。

 頭のいい魔物は、最近この辺危険だぞ、って感じ始めているだろうから、無暗に近付くことはないはずだ。


「ミーシャはあれからどうなの? 研究は上手くいった?」

「はい、お蔭様で。論文も学会で取り上げてもらえて、別の大陸の学者さんとも繋がり合いができました」


 いつものようにオリヴィアとクロエちゃんは生徒たちの昼食作りに追われ、役に立たないあたしはミーシャとお喋りしていた。


「その成果もあって、今回の特別講師を任せて頂けた部分もあるでしょうね」

「リベール女学院って王都でも有名なんでしょ? そこの講師に招かれるとか凄いじゃん」

「確かに、リベール女学院は王都で一番古い学校です。あらゆる分野で優秀な人材を生み出していて、私が尊敬する植物学の権威もリベール出身ですね」

「結構お堅い感じなのかなって思ってたんだけど、中には今時の女の子って感じの子もいるよね。あと、オリヴィア見ても何の反応もなかったし」


 減ってきてはいるんだけど、貴族には人間至上主義者が多い。もちろん、イザベラ先生にはうちの料理長は魔族だってことは教えている。けど、先生は「何も問題ありませんよ」と微笑むだけだった。

 内心、ほんとかな、と思ってたんだけど、生徒たちの反応は確かに何の問題もなかった。


「今のリベール女学院は多様性に重きを置いているようです。だから、種族の違いだけで拒絶はしない。寧ろ、違うからこそ知らない部分、教わる部分があるのではないかと、積極的に関わろうとしているようですよ」

「へぇー、そうなんだ? 知らなかったな……」

「今でも政財界や国の中枢を担うのは、頭の固い、古臭い思考を持つ男性ばかりですからね。リベールが素晴らしい人材を生み出しても、舵を取れないと意味がないんですよ」

「じゃあ、変えていってほしいね、この子たちが」

「ミアさんが女王様になれば一瞬で変わりそうですけどね」

「あたしはそんな柄じゃないよー……。そもそもは勇者の引き立て役に憧れてたわけだし」

「あっ!」


 そこでミーシャは何かを思い出したように手を打った。


「ミアさん、最近の勇者様の話って聞いたことありますか?」

「何かあったらしいってことは聞いたけど?」

「そうですか……。なら、話しても大丈夫……いや、話した方がいいのかも知れません」


 ん? 何だ、何だ、この感じ? あたし今、とんでもない話に巻き込まれようとしてるんじゃない!?


「勇者様が何者かによって倒されたそうです」


 ごくりと喉を鳴らして言うミーシャ。


 あれ? こう言う展開、最近もあったような……?



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引き続き宜しくお願い致します。

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