ほのぼの来客
「あれ? アルルさん、もう戻ってたんですか?」
「ああ。お姉様とオリヴィアが出掛けると聞いていたからな。クロエ、お前一人の時に面倒を起こしては申し訳ない」
「何かあれば、すぐにミアさんを呼べる用意はしてありますが、お気遣いありがとうございます」
「うむ。時にクロエ」
「何でしょう?」
「……ミアお姉様とは長い付き合いなのか?」
「まだそこまで長くはないんですけど、思い返せば長く感じますね」
「お姉様の誕生日は知っておるか?」
「……あっ。不老不死って聞いたから、誕生日なんて気にしたことありませんでした……」
「確かに歳は取らんが、お姉様が生まれた日くらい気に掛けろ!」
「か、帰って来たら、それとなく聞いておきますね」
「頼む……――って、これはただの興味だからな、興味! 変に勘違いするなよ!」
「わかってます。他に知りたいことはありますか?」
「ふむ……趣味とかは何なんじゃ?」
「結構、多趣味なイメージがありますね。長く生きているから、いろんな暇潰しをした、って言ってた気がします。けど、お料理は苦手みたいですね」
「あの美貌じゃ。男に言い寄られたりとかはないのか!?」
「二人で歩いていると、やっぱり男の人の視線を感じちゃいますね。みんな、ミアさんに見惚れてるんだと思います。けど、当の本人は、みんな子供だもん、って気にも留めてませんよ」
「二百歳に比べられてはな……。
クロエはミアお姉様のことをどう思っているのじゃ?」
「ええっ!? どうって……。
最初は命の恩人で、次に誰よりも頼りになるお姉さん、でしょうか。今は雇い主と従業員と言う関係性ではありますが、同じ夢を追い駆ける仲間ですね。もちろんそれは、オリヴィアさんもそうです」
「仲間、か……」
「そして、できる限り長く、願わくばずっと、一緒にいたい人です」
◇◇◇◇◇
師匠からのメモを託されたオリヴィアは、市場でまた食材を買い足してから、宿へと戻って来た。やっぱり、帰るなりキッチンに引き籠もって、何やら難しい顔をしている。
「オリヴィアさん、どんな様子です?」
「何かいろいろ考えてるっぽい。あたしじゃ邪魔になるだけだし、ここは見守るしかないね。アルルの方はどうだったの? もう帰ってるんでしょ?」
「はい。お二人がいないから、早めに切り上げたみたいです。今は部屋で休んでます」
「魔族二人にとっては試練の時、ってことかな」
「二人とも成長できるといいですね。あっ、成長で思い出したんですけど、ミアさんの誕生日っていつなんです?」
「……成長でそれ、思い出すの?」
「い、いや、そう言えば聞いたことなかったな、と思いまして……」
アルルに何か言われたかな? クロエちゃんは嘘が下手だな。
「三月十三日だよ。まあ、誕生日を迎えても歳を取らないんだけどね」
「けど、お祝いはしたいですよ。今年はもう過ぎちゃいましたけど、来年はお誕生日会やりましょうね」
誕生日会、か……。子供の頃、両親に祝ってもらったのが最後で、そんなもの家族以外の人となんてやったこともない。祝ってもらいたいなんて思ったこともなかったし、そもそも祝ってくれるような人もいなかった。
けど今は、来年が楽しみだな、と期待してしまう自分がいた。
「……おっと」
「どうしました?」
「サンローイの方のグランベルジュにお客さんみたい。ちょっと行ってくるね」
「わかりました、行ってらっしゃい」
あたしのアラーム魔法に反応があった。誰か訪ねて来たみたいだ。あたしはすぐさま転移魔法を使い、グランベルジュのドアを開けた。
「いらっしゃいませ。グランベルジュにようこそ」
「おお、お留守かと思いましたよ」
「すみません、依頼で遠方にいまして。気配を察知して転移してきました」
ドアの向こうにいたのは身形のいい、初老の男性だった。貴族や何かのお偉いさんと言うよりかは、それに仕えている人って雰囲気だ。
「おお。では、あなたがグランベルジュの魔術師殿ですか」
「はい。ミアと言います。立ち話も何ですし、中へどうぞ」
「これはこれは。私はガーランドと申します。では、失礼致して」
ガーランドさん、か。話しやすい人だし、この人自身も人と話をすることに慣れていそうな感じだ。商談や取引、交渉の役を担う人なのかな。
「遠方から転移したと聞きましたが、どこからここへ?」
「幻惑の森です」
「あ、あんなに遠くから!? なるほど、噂は本当だったようですな」
「その様子だと、うちに依頼を?」
「はい。是非、お頼みしたいことがあるのです」
クロエちゃんほど上手くはないけどお茶を淹れて、ガーランドさんの前にそっと置いた。
「じゃあ、まずは話を聞きましょうか」
「詳細は引き受けてくれた際に話しますが、ある男の捕縛に協力して頂きたい」
「……依頼するとこ間違ってません? どんな噂が出回ってるのか知らないけど、うちは何でも屋じゃないよ?」
「もちろん、それは承知しております。承知した上でミア殿しかいない、と判断したのです」
うーん……正直、そっち系の依頼はあんまり引き受けたくない。
捕まえたい男の詳細を明かさないってことは、単純にそいつが危険人物ってだけじゃないはずだ。公には知られたくない、何かしらの黒い過去を持つ人物。街を、もしかしたら一つの国を揺るがすような奴。
そいつを捕まえること自体は可能だと思う。けど、こう言う依頼に関わると、またグランベルジュに変な噂が立ちそうだし。目立つのはいいけど、目立ち方って言うのも重要だ。
「あたししかいない、ってことはないでしょ? 冒険者で無理そうなら国王軍がいるし、人間側の最終兵器だってありますよね?」
「今回の件、勇者殿でも難しいかも知れないのです」
「……ほぉ」
今回のターゲット、あたしが考えていた以上に危険、または厄介な奴らしい。
人間側の最大最強組織は国王軍で、あたしを除けば人間最強は勇者。そのどっちも敵わない相手って誰? 単純に気になるんだけど……。
「けどなー、あんまりそう言うことに首を突っ込むのは――」
「ミア殿! 私からも頼む!」
「うわっ! ウェルさん!? びっくりさせんなよ!」
いきなり宿のドアが開いたかと思うと、そこに立っていたのはウェルさんだった。
「何でウェルさんがここに? てか、何でウェルさんまで頼みに来るのさ?」
「もちろん、今回の件に関わっているからだ」
「じゃあ、そっちでどうにかしてよ」
「ああ、どうにかする。だから、そのために協力してほしい」
何言ってたんだ、こいつ? と、あたしは首を傾げた。
「何もミア殿が捕縛する必要はない。捕縛できる人間を育てるのも、協力だろう?」
「なるへそ。そう言うことか。だったら、最初からそう言ってくれればいいのに」
「あわよくば、ミア殿に捕縛してもらおうかと思っていたのだよ。そちらの方が早くて安心だからな」
「楽しようとすんな、働け。それで? また修行してほしいって?」
「ああ。相手は元国王軍の魔術師だ」
そう来たか。
元国王軍だったなら、国王軍はもちろん、それを指揮した勇者の手の内はよく知っている。だから、今回は直接関わり合いがなかったウェルさんの騎士団に白羽の矢が立ったってわけか。
「先日のミア殿の修行のお蔭で、我が団のレベルはかなり上がった。しかし、元国王軍が相手となると、念には念を入れたくなる」
「正しい判断だと思うよ。国王軍の実力がどんなものかは知らないけど、勇者と一緒に魔王軍を倒した組織なんだ。そこの魔術師ともなれば、術の種類もスキルも豊富だろうね」
「では、引き受けてくれるか?」
「いいよ。ちょうど今、あたしたち幻惑の森にいるの。騎士団用の出張宿屋、出してあげるよ」
「幻惑の森か。確かに魔術師の修行には打って付けの場所だと聞くな。わかった。すぐに準備させる。送迎を頼めるか?」
「依頼料は後で相談しようか」
今ある宿屋を増築しようかとも考えたけど、アルルがいるから別の宿をもう一軒建てた方が何かと都合は良さそうだ。戻ってからクロエちゃんにも手伝ってもらうとして……。
後で聞いたんだけど、このガーランドさん、事前にオルレアンさんにも話をしていたみたい。断られた時の保険ってことなのか、温厚そうに見えて意外と強かな人なのかも。
ガーランドさんの依頼を受けたことについて、クロエちゃんは笑顔で承諾してくれた。問題は団員のご飯を作るオリヴィアなんだけど、こっちも、
「今は何でもいいから料理して、閃きを得たいの。ちょうどいい報せだわ」
と、ちょっと満足気味に応えてくれた。
アルルの修行から始まって、オリヴィア、そして今度は騎士団。何だか徐々に賑やかになっていく幻惑の森だった。
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