ほのぼの師匠
『し、師匠、それは何です?』
『何って、ドラゴンの尻尾』
『それ、どうする気です?』
『食べてみる』
『た、食べられるんですか、そんなもの!?』
『知らない。食べたことないし。てか、だから試してみるんじゃない』
『相変わらず適当……』
『あんたは相変わらず真面目で質問が多いわね、オリヴィア』
『師匠が言葉足らずなだけです』
『まあ、いいわ。早速、料理してみましょうか』
『何か手伝いますか?』
『じゃあ、切って、適当な大きさに。多分、絶対めっちゃ硬いから』
『多分、絶対ってどっち……――って、ほんとに硬い……! これ、包丁じゃなくて鋸レベルじゃないですか……!?』
『私、回復魔法はあんまり得意じゃないから、指切り落とさないでよ』
『知ってますよ、そんなこと……!
ふぅー、やっと一つ切れた……』
『じゃあ、まずは焼いてみますか』
ぱくっ。もぐもぐもぐ……。
『おぇえええええー!』
『めちゃくちゃ不味いわね、ドラゴンの尻尾って』
『生臭いしゴムみたいだし、皮の辺りがねっとりしてて気持ち悪い……』
『けど、これはこれでクセになりそうな……』
『師匠の舌、腐ってません?』
『酷い弟子もいたもんだ。けど、料理し甲斐はあるでしょ?』
『そ、そうですか? もっといい食材を探した方がいいんじゃないですか?』
『初めから美味しいものを料理したって面白くないじゃない。不味かったものを自分の腕と経験で美味しく料理する。それが私の楽しみ方よ』
『それで毎回、失敗作を食べさせられる私の身にもなって下さいよ……』
『何か言った?』
『何でもありませんっ』
◇◇◇◇◇
オリヴィアと二人でやって来たのは、今では数少ない魔族の街〈グリンデル〉だ。
魔族の街って言っても統治しているのは人間で、国王軍の管理の許、魔族専用のコミュニティーって感じで存在している街だ。
国王軍側も支配しているわけじゃなくて、あくまでも管理。街のルールは魔族同士が話し合って決めるし、それに人間側が深く介入することもない。
そんなわけで、グリンデルの人たちは比較的温厚な、人間にも理解がある魔族が多い。だから、あたしが普通にこうやって街中を歩いていても、睨まれることも指を差されることもない。
「んで? グリンデルの市場に用があるんだって?」
「ええ、人間の街ではなかなか手に入らないから。あと、ちょっと聞きたいこともあるのよ」
一体何を買うつもりだろうと歩いていると、徐々に活気が出て来て、周りも賑やかになってきた。
「へぇー、これが魔族の市場か。見たことないもんばっか」
「ミア、グリンデルは初めて?」
「話には聞いていたけど、実際に来るのは初めてだね。活気があって、いい街じゃん」
「ええ。でも、全ての魔族が住めるわけじゃないわ。住人が増えれば管理する人間側の負担も大きくなる。だから、溢れた魔族は人間の街に住み、それができない一部の魔族が強硬派みたいな暴徒になる」
「その一部のせいで、オリヴィアやアルル、グリンデルの人たちみたいな友好的な魔族が迷惑を被るんだよね」
「だけど、その強硬派のボスこそが今までの魔王になるんだから、魔族として否定はできないのよね」
「ああ、そっか。難しいところだね、そこは」
話をしながら進んでいくと、オリヴィアはある露店の前で足を止めた。そこにはたくさんのお肉が並んでいて、どうやら精肉店みたいだ。
けど、どれも普通の街でも買えそうなものばかりだけど……。
「おやぁ? オリヴィアちゃんじゃないのさ、久しぶりだね」
「お久しぶりです。今日、店長さんは?」
「旦那なら狩りに行ってるよ」
顔馴染みみたいだね。オリヴィアは料理人だから、こう言うお店の人と仲がいいのは当然ではあるよね。
「何か入り用かい?」
「ドラゴンの尻尾ってあります」
「昨日獲れたばかりの新鮮なのがあるよ。店先には並べないで、お得意様用に取ってあったのさ。オリヴィアちゃんみたいなお客さんのためにね」
「ありがとう、おばさん。ところで、ちょっと聞きたいんですけど、師匠って最近来ますか?」
「フィンネルさんかい? あの人ならすぐそこの河原で野営してるよ」
「また変な料理作ってるのね……」
河原で野営しながら料理って……オリヴィアのお師匠さんもなかなかの曲者なのか……?
とりあえずドラゴンの尻尾を買ったオリヴィアは、街を出て川へと向かった。澄んだ水で、川幅はそこまで広くない。暑い日なんかは子供たちが川遊びをするんだろう。
「師匠の居場所わかるの?」
「わかるわよ、匂いで」
「犬かよ、あんた――」
でしょ? とでも言いたげに笑う。
何だろ、この香り……。いろんな紅茶を一斉に作ったような……。匂いの一つ一つはいい香りなんだけど、混ざり合ってるから素直にいい匂いとは言えない。
「私の師匠、フィンネルは何でもかんでも食材として扱ってみて、とりあえず料理するの。さすがにミアもわかると思うけど、成功する確率は低い。だから、とんでもない悪臭を放つこともしばしば、なのよ」
「なるほどね。それで街の外で料理してるんだ?」
「あと、たまに爆発するから」
「料理だよね!? 料理してるんだよね!? 何で爆発すんの!?」
「変人なのよ」
「全ての問題がその言葉で片付くと思うなよ?」
川の上流へと歩いて行くと、徐々に匂いが濃くなってきた。すると、眺めていた先に焚き火と、小さなテントが見えた。
どうやら、あそこにオリヴィアの師匠がいるみたい。
「珍しいわね、バカ弟子。人間なんて連れちゃって」
テントの裏から声がする。あたしたちはゆっくり回り込んで、声の主に軽く会釈した。
「師匠は相変わらずですね」
この人がオリヴィアの師匠か。女の人だったんだ。あたしは「料理の鉄人!」みたいな、頑固一徹おじさんを想像していたんだけど、妖美な女性だった。
「あたしはミアって言います。オリヴィアの友達、ですかね」
「そうなの? 私はてっきりオリヴィアの飼い主かと思ったわ」
「か、飼い主って……」
「だって、あなたにならオリヴィアを支配することなんて容易いでしょ? いいえ、その気になればオリヴィアどころか世界すら支配できる。何者、あなた?」
「それはこっちの台詞でもありますけど……」
こっちから訪ねに来たわけだし、あたしの方から自己紹介すべきか。
「あたし、不老不死で二百年生きてるんです。だからまあ、強いっちゃ強いんですよ。ただ、世界征服には興味ないんで、今は宿屋の従業員やってます。あっ、ちなみにオリヴィアはその宿屋の料理長なんですよ」
「不老不死なのね。通りで魔力の質が濃いわけだわ。中てられて酔いそうなくらい」
「フィンネルさん、と呼んでも?」
「お好きにどうぞ。あなたの方がずっと年上じゃない」
「フィンネルさんもなかなかの察知能力だと思うんですけど、武術か魔術を鍛えているんですか?」
「それなりに、ね。魔王城直属の料理長には多少の戦闘能力も求められるのよ」
「いざと言う時、戦場に駆け付けるために?」
「ええ。あとは我が儘な注文してくる奴らをぶっ飛ばすために」
な、何か今、さすがオリヴィアの師匠って感じがしたな……。言動がほぼオリヴィア。いや、それは逆で、オリヴィアがフィンネルさんに似たんだね。
「師匠、実は今、うちの宿にアルフィード様が宿泊しているんです」
「アルルちゃんが? どうして?」
師匠は「アルルちゃん」なのか。どうでもいいけど、アルルの呼び方って性格現れるよね。
「幻惑の森で修行しておられるんです。それで私、どうしてもアルフィード様に食べてもらいたい料理があって」
「ドラゴンテールスープ?」
「わ、わかるんですか!?」
「あなたが未だに私を『師匠』と呼んでくれるように、私にとっても未だにあなたは『弟子』なのよ。弟子の考えることくらいわからなきゃ師匠じゃないでしょう?」
おおー! 何かいい!
と、漠然とそう思った。あたしには師匠なんて呼べる人はいないから、こう言う師弟関係ってものに憧れてしまうのかも。
「作れる自信がない?」
「……調理方法は頭に入ってます。けど、最後の味付けに自信が持てなくて……」
「最後の方はヤケクソになっちゃって、手当たり次第、何でも入れちゃったからね」
「けど、なぜかそれが美味しくできた……」
「料理って不思議よね。あと、適当に作っても何とかなるものね」
魔王城直属の料理長がそんな適当でいいのか……? 真面目と不真面目のバランスが絶妙な人だな、この人……。
そんなフィンネルさんは、何やら紙にペンを走らせる。
「これ、あの時入れた材料や調味料。その中に正解があるから」
「あの料理が完全に再現できるようになってたんですね。さすが師匠です」
「私ができるのはここまで。あとは自分でどうにかするのよ」
「はい!」
受け取ったメモを胸に、オリヴィアは力強く返事をするのだった。
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