ほのぼのお姉さん
「遂に手に入れたぞー!」
「何それ、お父さん!? カッコいい!」
「だろぉ? これが勇者も修行中に使ったと言われる銅の剣だ!」
「ええっ! 凄い! あたしにも触らせて!」
「ミアにはちょっと重いかも知れないぞ?」
「大丈夫だよー!」
「じゃあ、両手でしっかり持つんだぞ」
「う、うわっ……! お、重い……」
「きっと勇者は敢えて重い武器で修行して、自らを鍛えていたんだろうな。父さんもそれを見習って、これで修行して勇者パーティーに入るんだ」
「あたしもお父さんと一緒に勇者パーティーになる!」
「お前は母さんに似て、魔力が高いから魔術師として勇者パーティーに入れるはずだ」
「うん! お父さんと一緒に闘うよ!」
「親子で勇者パーティーだ!」
「気が早いわよ、あんたたち。お父さんはもう少し周りを見るようにして。連携が取れないんじゃ、パーティーなんて無理」
「……は、はい」
「ミアはもっと体を鍛える。魔術師だからって体力、筋力がいらないわけじゃないの。優れた精神は優れた体に宿る。だから、好き嫌いせず、何でも食べること」
「……はーい」
「修行するのはいいけど、熱中しすぎないこと。特にミアはね。お父さんに似て、集中すると目の前が見えなくなるんだから」
「そこがミアのいいところだけどな!」
「……ちっ!」
「か、母さん!? 重力魔法で圧し潰すのやめて! 痛いから! ごめん! 俺が悪かったから、ごめんなさーい!」
◇◇◇◇◇
はっ!
何だろう、今の……? 走馬灯ってやつ……? 昔の記憶を見ていたような……。
「ミア!」
「ミアさん、しっかりして下さい!」
二人の泣きそうな声で、あたしはようやく我に返った。
そうだった。あたし、アルルの攻撃を食らって気絶しちゃったんだ……。不老不死って言っても痛みは体に伝わるからね……。痛つつつ……。マジで死ぬほど痛いよ……。
「ごめん、二人とも。あたしは大丈夫だから」
やられたお腹を擦りながら、ゆっくりと立ち上がる。あたしの服は錬成によって魔導効果が付与されているから破れはしなかったけど、さすがにあの至近距離からの衝撃を防ぐのは無理だった。
「アルル、やってくれるじゃん」
指の関節を鳴らしながら挑発的な笑みを向けると、アルルもにやりと口許を緩める。
「不老不死も大変じゃな。死にたくても死ねんとは」
「別に死にたかないけどね。でも、死んだかも、って思ったのはこの二百年で初めてかも。だから、今の攻撃は素直に褒めてあげるよ」
「ふんっ、人間風情に褒められても嬉しくはない……なっ!」
アルルはまた目眩ましの魔法を放つ。でも、二度も受けてやる気はない。無難に躱してアルルの方に向き直ると、向こうもあたしが回避すると予想してたのか、間合いを詰められていた。
「貴様ら人間は根絶やしにするんじゃ!」
さっきのあたしみたいな、昔の記憶をアルルも幻惑の森で見たんだろうか。こんなになるほどの、理性を失ってしまうほどの辛い記憶を。
だとしても、だ。
「アルル。過去に囚われてちゃダメだよ。忘れろ、とは言わない。たまに振り返っちゃうのもいいよ。でも、前には進まないとね」
「何も知らんくせに!」
「知ってるよ。あたしもまだ忘れてないし」
だから未だ、あんな夢か幻を見てしまうんだろうし。
「ここからは、あたしもちょい本気でいくよ。あんたがやりたがってた修行、ちょっとだけ付けてあげようじゃんか」
静かに深呼吸をしてから、ゆっくりと構える。
相手が向かって来るのなら、こっちもそれに応えてやろうじゃない。逃げてたんじゃ師匠なんて務まらないし、何よりあたしの性分に合わないしね。
「ゆくぞ!」
連続で転移魔法を繰り返しての、四方八方からの攻撃魔法。通常時のアルルじゃここまでの魔法を操作はできないはずだ。暴走した魔力が強制的にアルルの能力を引き上げた、ってことかな。
「それじゃ、遅いよ。あたしには、ね」
飛んできた魔法を全て弾き返すと、アルルは悔しそうに顔を顰めた。それでも、まだまだ諦めないアルルは、前にあたしに仕掛けてきたグラビティデスフォールを手の中に溜め込む。
数撃ちゃ当たる、から変えて、一撃必殺狙いってところか。魔力を練りに練り込んでる。
「確かに、その魔力量はヤバい。でも、そんな重々しい魔力を籠めたんじゃ、自分の動きは鈍くなるよ?}
狙うは腕。魔力を溜め込む右手に一撃加えれば、魔法が暴発してアルル自身を襲う。
あたしは素早くアルルの後ろに回り込み、アルルの右腕に手刀を振り下ろした。けど、彼女の反応スピードは更に上で、半回転して手刀を躱すと、遠心力を利用して魔法を叩き込んできたんだ。
「今度こそっ!」
「か、カウンター!?}
魔法を放つ、と言うより、叩き込む、って言う方が近くなってきている。
この子、戦闘スタイルが仙術により近くなってきてる……。しかも、どうにか躱せたけど相当しっくり来てるみたいじゃん。
アルルはどこか不敵に笑っていた。
「いいよ、アルル。仙術の先輩として手解きしてあげようか。あと、重力魔法の使い方も、ね」
傍目には格闘家にしか見えないようなファイティングポーズを取り、小さく息を吐く。拳に籠めるのは、ほんの僅かな魔力のみ。駆け込む瞬間、足に魔力を使うだけで、全身には纏わず気配と殺気を極限まで消す。
「何だ、その攻撃は! 魔力の鎧を纏ったアルルには効かんわ!」
腕や足に攻撃はヒットさせられてはいるんだけど、ダメージはアルルが言うようにほぼ皆無。だけど、目的はダメージじゃないんだ。こうやって油断してくれていると、スムーズに事が運ぶよ。
お母さんもこれ、得意だったからな。お父さんによく使ってたっけ。
「もう終わりか? 随分息が上がっているようじゃが?」
「そりゃあね、これでも高齢者なんだよ」
あと、アルルの攻撃を躱しながら、こっちの拳をピンポイントに当てるのは、なかなかの難題だよ。まっ、クリアしてやったけどね。
「では、今度はこちらから――」
一歩踏み込んで、アルルは違和感に気付いたようだ。けど、それはまだ発動途中。本番はこれからだよ。
「ぬあっ! な、何じゃこの重さは……!」
「あたしが適当に攻撃してたと思う? しかも、わざと魔力を抑えて」
「アルルに重力を付加したのか!?」
「そゆこと。ダメージとしては確かに効いてないよね。だから、あたしの攻撃を無効化してるって勘違いしちゃう。その油断がこの結果だよ。重力魔法はダメージを防御できても、魔力に籠めた圧力は消えない」
アルルと最初に出会った時もそうだ。あたしはグラビティデスフォールを受け止めていたけど、重力はあたしにしっかり掛かっていた。
さっきのアルルのカウンターも別に防御もできたけど、魔力に触れた時点であたしに負荷が掛かるから回避を選択したんだ。
「さて、降参みたいだね?」
アルルは自分の体の重さに耐えきれなくなり、四つん這い状態だった。どうにか頭だけを上げて、あたしを睨むように見上げるけど、程なくして頭も下がってしまった。
「く、くそっ! お父様の、お父様の仇なのに……!」
「そんなに人間が憎い?」
「当たり前だ!」
「じゃあ、何であたしに修行してほしいなんて頼んだのさ?」
「えっ……?」
「思い出して、アルル。アルルがあたしを頼ったあの日を。アルルがくれた、あんたにとってのあたしの存在を」
魔法はもう解いた。今、アルルを押さえ付けるものは何もない。けど、アルルは四つん這いのまま小さく呟くのだった。
「ミアお姉様……?」
と、そこで事切れたようにアルルは地面に伏した。
慌てて抱き抱えるあたしの許へ、クロエちゃんとオリヴィアも駆け寄ってくる。
「ミア、アルフィード様は無事なの!?」
「うん、大丈夫。魔力の暴走で疲れたみたい。宿に帰って休ませてあげよう」
「魔力回復に効く料理を作らないと、ね。二人分」
「二人分?」
「あなたも相当削られたんでしょ。息が上がってたのは芝居じゃない」
バレてたか。
結構繊細な魔力操作が、強敵との戦闘中に必要だったからな。普段より精神力も削られた。
「クロエ、高齢のお姉さんに肩を貸してあげて」
「お祖母ちゃん扱いすんなし。けど……」
「どうぞ、ミアさん。お疲れ様です」
「ありがと、クロエちゃん。あと、オリヴィアも」
オリヴィアはアルルを抱え、あたしはクロエちゃんに肩を借りながら、宿へと帰っていった。
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