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ほのぼの姉妹



「ふわぁー……おはよ……」

「おはようございます。疲れてたんですね。結構眠ってましたよ」

「嘘? うわっ……ほんとだ。あれ? でも、何で私、リズの研究室で寝てたんだっけ?」

「回復ベッドの話をしていたら、途中で睡魔に襲われて――」

「そう! その話!」

「クロエさんの能力は錬成に近いって話でしたけど、錬成にはマナや地脈を操るほどの力はないですよね?」

「普通の錬成なら、ね。その子の能力が仮に錬成だとして、その子の力はマナや地脈にのみ効力を発揮するものだとしたら……」

「確かに何かに特化した人の能力は特殊なことが多いですけど……。あっ、でも、前に会った時、クロエさんから直接聞いたんですけど、クロエさんの能力は他の宿屋では発動しないそうなんです?」

「……どゆこと?」

「例えば、他の宿屋に行って、その宿屋のベッドを自分専用の回復ベッドに書き換えることはできないそうなんです」

「…………」

「仮説を一から検証……ですか?」

「いえ、そうでもないわよ」

「そうなんですか?」

「効力だけじゃなく、発動範囲も絞って制限させているんだとしたら、そりゃとんでもない能力になるでしょ。けどそれを、十代の女の子がやってみせるなんて……」

「クロエさんもある意味、天才なんでしょうか……」

「魔力の制限はスキルやセンスだけでできるようなものじゃないわ。寧ろ、そんなもの必要ない。必要なのは強い決意と想いよ」

「決意と想い……」

「その子にとって宿屋は、何が何でも守りたいものなんでしょうね」



◇◇◇◇◇



「で、できたー!」


 コレットのそんな声が響いたのは、ドラゴンオーブの魔導構築を完成させた翌日のことだった。

 錬成陣を描き上げるのに夜まで掛かっちゃって、一晩休んで体調を整えてから錬成にトライすればいい。そうアドバイスしたら、コレットは一発で錬成を成功させたのだった。


「うん、いいじゃん。出来栄えも完璧だよ。マチルダを超えたかもね」

「いえ、ボクなんてまだまだ……ううん、これからです」

「そうだね。じゃあ、コレットを街まで送るよ」

「ありがとうございます、ミアさん。クロエさんもオリヴィアさんも、本当にお世話になりました!」


 ぺこりと頭を下げるコレットに、クロエちゃんは手を振り、オリヴィアは笑って応えていた。




 コレットからの依頼を達成してから数日、ここのところ客の入りがあんまり良くない。出張依頼も舞い込んで来ないし。まあ、これまでが忙しかったのかも知れない。何だかんだで、いろんなところに出張していたしね。

 息抜きと言うか、みんなの精気を養うのも必要か。


「おねーさまー!」


 と、思っていたら、これだ。

 宿の外から聞こえてきた声。そして、近付く強大な魔力の気配。


「面倒な奴が来たね、これは……」

「ミアさん? 誰か呼んでますか?」

「こ、この気配はまさか……!?」

「お、オリヴィアさんまでどうしたんです?」


 あたしたち三人が神妙な面持ちで見つめる玄関が、勢いよく開け放たれる。

 そこに立っていたのは、小さな魔族の女の子。


「やっぱ、アルルか……」

「アルフィード・インゲノール・アルカンタ様!?」

「えっ、あの子が魔王の娘さんですか!?」


 見た目はピンク髪の幼女だもんね。人間界で恐れられる魔王の娘なんて思えない。

 あと、相変わらずオリヴィアは噛まないね。イリアは普通に噛むのに。


「ミアお姉様! 会いに来たのじゃ!」

「……何で?」

「めっちゃ嫌そうな顔するなっ!」


 そら、したくもなるわ。魔王の娘が出入りする宿屋、なんて知れたら最近来なくなっていた客がもっと来なくなるじゃんか。


「最近、イリアやコマチとは遊んでいるそうなのに、アルルとは全然遊んでくれないから、こっちから出向いてやったのじゃ」

「いや、イリアとコマチとは別に遊んでないから。てか、アルルと別れた後に知ったんだけど、あんた魔王の娘だったんだね」

「恐れ入ったか!」

「普通に驚いたよ」

「ま、まあ、隠すつもりはなかったのじゃ……。ただ、魔王の娘だと知れば嫌われるかも、って……」


 この子がどんな風に育てられ、そして魔王が倒された後、どんな風に育ってきたのかは知らない。でも、アルルにとってあまりいい境遇じゃなかったんだろう。


「嫌わないよ、あたしは。種族の違いなんて、あたしにはどうでもいい。ここにはほら、魔族の仲間もいるんだから」

「お久しぶりです、アルフィード・インゲノール・アルカンタ様」


 オリヴィアは片膝を付き、胸に右手を当てる。この行動に、目が飛び出そうになった。

 な、何、なに!? オリヴィアってこんな奴だったっけ!? こんな真面目で忠実な対応できるの!?


「ん?」

「アルフィード様はまだ幼かったので、憶えてらっしゃらないかも知れません。魔王城でコック長を務めていたフィンネルの弟子、オリヴィア・アシュロードでございます」

「おお、フィンネルの弟子か。いや、すまぬ。アルルはお前の顔までは憶えておらぬが、フィンネルとその弟子たちには大変世話になったのは憶えているぞ。いつも温かく美味な料理、ご苦労だったな」

「いえ! 勿体ないお言葉です!」


 アルルって最初に会った時の印象が強すぎて忘れがちだけど、魔族界のプリンセスなんだよね、この子。だったら、オリヴィアがここまで遜るのも納得できる。オリヴィアに掛けた言葉も、気品に溢れているような気もするし。


「んで? ただ単純に遊びに来た、ってわけじゃないんでしょ?」


 それでもあたしはこの通り。通常運転させてもらうよ。


「さすが、お姉様!」

「いちいち抱き付かなくていいよっ。それで、何の用?」

「今日は依頼があって来たのじゃ」

「引き受けます! 誠心誠意、全身全霊で受けさせて頂きます! この生意気な人間が」

「いや、話聞けや! あと、こっそり生意気って付け足すな!」

「アルフィード様のご依頼よ!? 受けない魔族はいないでしょ!」

「あたしは人間だっつの!」

「ま、まあまあ、まずはアルルさんのお話を聞きましょうよ……」


 アルルはあたしから離れて、咳払いを一つした。


「今回、お姉様たちに頼みたいのは〈幻惑の森〉への出張宿屋じゃ」

「幻惑の森? 何でまた、そんなところに?」


 こことは別の大陸にある幻惑の森は、年中霧が立ち込める不可解な場所だ。地場とか地脈が乱れに乱れた場所で、その森ではあたしでさえも魔力が安定しなくなる。

 そして、幻惑と呼ばれるように、森に掛かる霧には幻覚を見せる効果があって、それに惑わされて行方不明になる冒険者は後を絶たない。


「修行、じゃ。詳しくは話せんのじゃが、近々手強い相手と拳を交えることになりそうなんじゃ。それで、己の力を磨くために、幻惑の森で修行がしたい」

「お付きの人とかいるんでしょ? それに頼めないの?」

「幻惑の森に行く、などと言えば止められる」


 まっ、それもそっか。大事な大事な先代の娘だもんね。危ない場所には行かせられない。


「それで、あたしたちに依頼、か」

「引き受けてくれるか!?」

「残念だけど――」

「何でじゃ! 何でアルルのお願いだけ聞いてくれないんじゃ! イリアやコマチの願いは聞くのに!」

「待て、待って、アルル。最後まで話を聞いて」


 ぐすっと鼻を鳴らしたのが返事だったのか、アルルは大人しく話を聞いてくれた。


「アルルの今の話の感覚だと幻惑の森の中、もしくは近くに宿を出してほしいって感じだった。けど、それは無理なの。森の中、森の近くだと魔力が安定しないのはわかるでしょ? だから、あたしでもそこに宿を建てるのは難しいの」


 あたしが造る宿屋は魔法によるもの。だから、建てられたとしても、それは脆くて粗悪なものになる。そんなところに仲間を、そしてお客を連れて行けるわけがない。


「あと、クロエちゃんの能力がどうなるのかもわからない。宿屋に必要な回復ベッドが作れない可能性が大きいんだ。そんな不確定要素と不安要素しかない場所に、宿を出すのは無理」

「じゃあ、安全な場所なら大丈夫、ってことですよね」

「そう言うこと。クロエちゃんが言うように、幻惑の森から離れれば、魔力が安定する。目と鼻の先、ってのは無理だけど、ちょっと歩いたところに宿を出すのは可能だよ。それでもいいのなら、引き受けるよ」


 うるうると瞳を輝かせると、アルルはまたあたしに抱き付いてきた。

 だから、いちいち抱き付くな。そう言って引き剥がそうかと思ったんだけど、やめた。


「……お姉様、ありがと」


 顔を胸に埋めたまま言われたから、胸の辺りが吐息で温かい。


 そうだった。アルルはお父さんを亡くしているんだ。勇者と魔王がそう言う宿命だったとしても、アルルにとってはたった一人のお父さんだったんだ。もっと甘えたかったろうに、いなくなってしまった。

 その代わりができるなんて、そんな烏滸がましいことは言えない。

 でも、少しだけでも、ちょっとだけでもアルルの安らぎになれるのなら。そんな願いを籠めて、あたしは彼女の頭を撫でていた。




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引き続き宜しくお願い致します。

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