ほのぼの洞窟探索
「しかし、驚きだな。マスターがまさか元勇者パーティーだったとは」
「しかも、本隊の方だもんな。じゃあ、マスターも魔王と闘ったんだよな?」
「いえ、私は魔王の玉座の手前までですね。そこで仲間と一緒に追っ手を引き止めていました」
「それでも、すげーよ! ちなみに、マスターの職業は?」
「弓術士ですよ。前で闘うのは苦手でしてね」
「やっぱ勇者って強いのか?」
「そうですね。剣技、魔術は一流。その二つを合わせた魔法剣は超一流。具体的に言い表すのは難しいんですが、何年修行すればこんな風になれるのか、と考えた結果、無理だと思いましたね」
「〈エンシェントドラゴン〉を追い払ったってのは本当か?」
「ええ。ただまあ、かなり危なかったですがね。その前に〈ワイバーン〉と一戦交えまして」
「ドラゴンと連戦!?」
「〈ワイバーン〉を倒した時にはかなり消耗していて、その後の〈エンシェントドラゴン〉は全戦力とアイテムを注ぎ込んで、どうにかと言った感じですよ」
「それでも凄いと思う、が……」
「ああ」
「ミアちゃんなら余裕で倒すんだろうぜ」
「お二人とも、本当に気に入ったんですね〈グランベルジュ〉が」
「マスターも冒険者だったんなら、ミアちゃんの凄さは一目でわかるはずだ」
「さすがにここまで聞くと……私も泊まってみたくなりましたね」
◇◇◇◇◇
コマチが案内してくれた北の洞窟って言うのは〈エムール洞窟〉だった。ここに来るのは初めてで、って言うのも、ここには別に何かあるわけでもないんだ。お宝あるわけでも、特別な鉱石が採取できるわけでも、レアな魔物がいるわけでもない。
だから、立ち寄る冒険者も多くはない。だから、ワイバーンは誰も来ないここを住処にしたんだろう。
けど……。
「何でワイバーンが洞窟に住んでるの?」
神速を謳う速さが売りの魔物なのに、洞窟じゃ上手く飛べないだろうに。あと、暗いだろうし。
「実はこの奥に大きな空洞があるんすよ。そこを飛び回ってるみたいっす」
「真っ暗の洞窟の中を?」
「いや、ほら見て下さい」
洞窟に入ってすぐは、まだ外の光で周りが見えるんだけど、奥に進むと少しずつ薄暗くなっていく。けど、コマチが指差す先に、灯りが見えた。
あれは……錬成松明か。
「何にもないって噂されてますけど、行ってみたくなるのが冒険者の性ってやつっすね。ここを訪れた冒険者が少しずつ松明を増やしていって、地下の大空洞内も普通に明るいんすよ」
あれは錬成によって作られた松明で、周囲のマナを吸収して燃えているから、壊れない限りは永久的に燃えているんだ。
地下のダンジョンや洞窟って大体この松明があるんだけど、ここも例に漏れずそうだったんだね。
「ここのワイバーンってイリアに従わないくらい凶暴なの? イリアってあれで結構な腕のテイマーでしょ?」
「隊長はあれで歴代最年少で隊長を就任したっすからね」
「へぇー、あれで? そりゃ驚きだ」
「そうなんすよ、あれで」
「あれで、は余計なのでは……?」
いやいや、実際は凄いと思ってるんだ。あの子の腕も、あの子の夢も。
「で、ワイバーンのことっすけど、凶暴であるのは間違いないっす。ただ、別格で強いとか、そう言うことじゃなくて、あれはあの個体の性格だと思うっすね。人に従うことを良しとせず、手を貸してほしいならそれなりの褒美を寄越せ。そんな感じっす」
「プライド高い系か。けど、それだけの実力を持っているってことなんだろうね」
「隊長に聞いたんすけど、ミアさんって不老不死なんすよね?」
「うん、そだよ」
「マジでマジなんすね! うわー、かっけぇー!」
カッコいい、のか? こう言う反応は初めてだな……。
「完全無欠の最強魔術師じゃないっすか! しかも、それで美人とか! マジ、パネぇっす!」
おっ、わかってるじゃん、コマチ! あたし、この子、好きだ!
「自分、そう言う肩書きって言うか、異名みたいなものに憧れるんすよね」
「じゃあ、コレットもそうだよ。コレットの家系、アップルビー家は高名な錬成術師一族だからね」
「マジっすか!? やっぱ、かっけぇー人の周りにはかっけぇー人が集まるんすね」
「いえ、ボクはまだまだ半人前の錬成術師ですから……」
ふーん……だったら、そうなのか。
カッコいい人に憧れるコマチが「あれ」なイリアの部下でいる理由。それがわかったよ。
「史上最年少、魔物部隊隊長。これも憧れる異名なんじゃないの?」
「そ、それは! そうっすね……」
コマチは照れ臭そうに頭を掻いていた。
「コマチはさ、イリアの夢を知ってるの?」
「はい。逆に、ミアさんもご存知なんすね。魔物でサーカスをして、みんなを楽しませて笑わせたい。隊長はいつも言ってますよ」
「コマチはそれ、どう思ってるの?」
少しだけ宙を仰いだコマチは、僅かに染めた頬を掻きながら、少しだけ声のトーンを落として言った。
「隊長には内緒っすよ? マジかっけぇー、って尊敬してるっす」
「魔物でサーカスをするんですか!? ボクもそれ、見てみたいです!」
「自分もっすよ。けど、魔族にはそれを嘲って笑う奴らばっかっす。多分、最年少で隊長に就任した嫉妬とかもあると思うんすよね。自分、それが本当に許せなくて……!」
イリアはいい部下を持ったもんだ。なのに、あいつはこんな可愛い部下に尻拭いさせて。帰ったら灸を据えてやろう。
「何かボク、魔族の人たちってもっと怖いものなんだって勝手に思ってました。けど、コマチさんやイリアさんみたいな魔族もいるんですね」
「自分たち魔族は、魔王様が倒れてから変わりつつあるっす。新たな魔王の座に誰も手を挙げない理由は、今の勇者が圧倒的な力を持っているから、って言うのが大半っす。けど、人間と争うだけが魔族の在り方なのか、って言う意見があるのも本当なんす」
「そうですよね。別に一緒に住めないわけでも、一緒に暮らせないわけでもないですもんね。じゃあ、何で、何を、人間と魔族は争っているんでしょう?」
と、ここでコレットとコマチの目があたしに向けられる。まあ、確かに見た目はこんなでも最年長だからな、一応。
「それはあたしも知らない」
「そうなんすか!?」
「あたしが生まれた時代も勇者と魔王がいて、人間と魔族は争ってた。けど、種族間の争いって、大したものじゃないのがほとんどだよ。どっちが相手より秀でているか、どっちが相手より優れているか。そんな競争がいつの間にか戦争に変わるんだよ」
「……何か、バカげてるっすね」
「うん、あたしもそう思う。だからさ、こんなバカげた争いを終わらせられるのは、もっとバカげたことを考える奴だと思うんだよね」
「それって……」
「内緒だよ? イリアみたいな奴が世界の救世主になると、あたしは思ってるんだ」
人差し指を口許で立てて微笑むと、コマチは本当に嬉しそうに笑っていた。上司を、自分の憧れの存在を褒められて嬉しいのかな。
ほんと、いい奴じゃん、コマチ……。
ギギャアアアアアー!!
突然奥から聞こえてきた咆哮に、コレットはあたしの腰に手を回して抱き付き、コマチは体を強張らせていた。明らかにワイバーンの鳴き声だ。そう遠くない。
「大丈夫、安心して。こっちに気付いたわけじゃなさそう。人で言うところの独り言かな」
そんな可愛いものじゃないけど、今はコレットを安心させておこう。
「あたしが前に出るから、コマチはコレットを頼むね」
「了解っす」
「まっ、二人には近付かせないから安心してよ」
コレットの頭を撫でてから、あたしは足を踏み出した。少し後ろから二人が付いて歩き、ようやく拓けた空間が目の前に広がった。
ここにワイバーンがいる。
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