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ほのぼの世界樹



「おっ、イリア。お前、またなぜここにいるんじゃ? 定期報告か?」

「いえ、今日は書庫に用事があって、それでこっちにも寄って行こうかな、と」

「……お前、このアルル様の屋敷を『友達の家に寄り道して行こう』みたいな感覚で来るなっ」

「ああー、別にそんな意味はなくてですね! アルル様のお顔を拝見できたらいいなーと思いまして!」

「ふんっ。で、お前のことだから魔物絡みの用事か?」

「ですね。ついでにミアちゃん絡みの用事でもあります」

「お前、本気でバカなのか? それとも、わざとか? わざとなのか!? アルルに対する嫌がらせか!?」

「時を戻しましょう」

「戻せるか、アホ!」

「いや、そんな大した用事じゃなくてですね……」

「ミアお姉様からの用事は全て、何事よりも優先される『大したもの』じゃ」

「……めんど」

「おい今何つった」

「ミアちゃん、ドラゴンを探しているそうで、その情報がないかって相談されただけですよ」

「ほぅ、ドラゴンを……。お姉様はなぜドラゴンを探しているんじゃ?」

「討伐して魔石がほしいとか。なので〈邪竜〉を紹介しておきました」

「そうか、あやつを……――って、おい」

「はい?」

「〈邪竜〉ってアルルたちの最大戦力じゃが……?」

「あっ……」

「あれが討伐されたら、アルルがお前を討伐してやるっ!」

「み、ミアちゃぁあああああん! ストップ! ストップだわ、これ!」



◇◇◇◇◇



 オリヴィアが通信魔法でイリアに連絡を取ると、ちょっと調べものがしたいって言うから、指定された日時と場所でイリアからドラゴンの情報を得た。

 ちなみにこの通信魔法、オリヴィアは普通に使っているけど、かなり高度な魔導技術なんだ。誰でも使えるわけじゃないし、通信する相手との信頼関係も必要な、ちょっと特殊な魔法だ。


 それはさて置き、イリアからの情報で出張先は決まった。

 場所は世界樹の根元。この周辺に邪竜って呼ばれているドラゴンがいるらしい。

 世界樹って言うのは、この世界ができた時に最初に生えた木だと言われていて、その高さは三千メートルを超え、今も成長中だとか。幹を一周するだけでも一日掛かっちゃう。


「邪竜ってどんなドラゴンなんですか?」

「その名前は通称で、本当の名前は〈エンシェントドラゴン〉って言うの。遥か昔から生きる、ドラゴンの中でも貴重な存在で、何かあたし親近感湧くんだよね」

「いよいよ人間味を失ってきたんじゃない?」

「いや、しっかり人間ですからっ」


 それにしてもイリア、いい情報くれたなぁ。エンシェントドラゴンなんて二、三回見掛けただけで、闘ったことないんだよねぇ。

 初体験。いやぁ、甘美な響きですなぁ。二百年生きてると、なかなか初体験に出会えんからな。


「け、けど、本当にいいんですか? ボクの試練なんかのために、そんなハイレベルなドラゴンと闘って……。あの勇者様ですら、追い返すのがやっとだったって聞きましたよ?」

「じゃあ、倒しちゃったら勇者を軽く捻れる証拠になるってことか。勇者の実力を測る、いい機会だね」

「えっ?」

「気にしないで、こっちの話。あと、戦闘に関しても気にしなくていいよ。勝てないことはあっても、負けることはないから」


 死なないんだし。こっちの攻撃が、全く歯が立たないって可能性があるってだけだ。


「そ、それに、エンシェントドラゴンの魔石なんか、ボクに扱えるかどうか……」

「そこはコレットにとっても、いい機会だって考えないと。レアな魔石を扱えるなんて、錬成術師にとっては嬉しいことじゃない。失敗することを望んじゃいないけど、失敗することだっていい経験なんだよ?」

「で、でも、勿体ないですよ……。売れば、相当なお金にもなるし……」

「マチルダは失敗を恐れるような子じゃなかったよ」


 どんな錬成術師なったのかは知らない。けど、お転婆娘時代のマチルダは少なくとも、そうだった。


「あの子は何にでも挑戦した。まあ、大半は悪戯だけどね。けど、恐れ知らずだった。それが錬成術師としての才能やセンスに繋がったのかはわからない。けど、コレットはそんなマチルダの孫娘なんでしょ。できるはずだよ、コレットにも。失敗したとしても、それを乗り越えることが」

「ミアさん……」

「それに、失敗したとしても別のドラゴン狩ればいいだけだし」

「あのー、ミアさん……?」

「専門家の知り合いに、他のドラゴンの情報も聞いてあるからさ」

「希少種のドラゴン討伐しまくったら、専門家の人たちに怒られますよ!」

「じゃあ、一回で成功させればいいだけじゃん」

「……絶対に成功させなきゃ!」


 ドラゴンを討伐しまくる気は全くないけど、コレットの気合いが入ったみたいだから、いい煽りにはなったかな。


「そう言えば私、世界樹って初めて近くで見るわ」

「あっ、私もです。遠くから眺めたことはあるんですけど、こんな根元は初めてです」

「世界樹の葉っぱって料理にも使えるのよね。良質なハーブなの」

「えっ、そうなんだ? 外行って、拾ってくる?」

「落ち葉じゃダメなのよ。生えているものを摘み取らないといけない。だから、入手困難な食材なの」

「へぇー。じゃあ、あとで採って来てあげるよ。あたし、飛べるし」

「あの高さまで行けるの?」

「まあ、うん。昔、世界樹にツリーハウス作ってキャンプしたし」


 ぱちぱち、と瞬きをしてからの溜め息。オリヴィアのその反応はいつものことだけど、クロエちゃんにまでそれをされるのは、何だか悲しかった。


「あんたの暇潰しって、時々壮大よね……」

「何でもできるって、時々恐ろしいですよね……」


 何か、二人で共感し合ってるのが凄い悔しい!


「あっ、でも、世界樹の葉っぱはちゃんと採って来るのよ?」

「それが人にものを頼む態度かっ!」


 エンシェントドラゴンは世界樹の枝でよく羽を休めるそうだから、どっちにしろ世界樹には登るんだけどね。


「まあ、ドラゴン討伐のついでに採って来るけどね」

「それって、同行することは可能ですか?」

「コレットが? 別に構わないし問題ないけど……何で?」

「ちゃんと見ておきたいな、と単純に思ったんです。ボクのために皆さんがこうして協力してくれてるわけですし、宿で待っているだけって言うのは、ちょっと違う気がしたんです」


 そう。今回のこの依頼、出張する必要性は全くないんだ。

 あたしが世界樹に出向いて、コレットたちはサンローイのグランベルジュで待っていればいい。何なら、うちに泊まらなくたって、コレットは自宅で待っていればいいんだ。

 けど、今回の行き先が世界樹ってことで、みんなの興味が湧いた。行ってみたーい、ってなったんだ。

 そして、魔石を無事手に入れられたとしても、そこから錬成するには時間を要する。コレットは静かに集中して錬成できる場所がほしかった。

 この二つの理由から、あたしたちは世界樹の根元に出張することにしたんだ。


 ちなみに、一つ目の理由にはあたしたちの我が儘も含まれているから、今回の依頼料は少し安くしておいた。


「いいよ。じゃあ、一緒に行こうか。とりあえず、今日は探索してみよう。エンシェントドラゴンがいた痕跡があるかどうか。それをまず確かめようか」

「はい!」


 宿から外に出て、世界樹を見上げる。樹の途中で雲が掛かっていて、天辺まではよく見えない。


「コレット、背中に乗って」

「は、はい。失礼します」


 コレットを負ぶって、力一杯ジャンプ。その勢いは衰えることなく雲を突き破り、太めな枝を探して、そこに降り立った。


「す、凄いですね……」

「それはあたしのジャンプが? それとも、この景色?」

「どっちもです」


 雲海。それがあたしたちの真下に広がっている。遠くには高い山の頭だけがちょっと見えて、それ以外は果てのない空があるだけ。

 最高だよね、ここの景色は。最初は世界樹の上に宿屋を造ろうかと思ったんだけど、空気が薄いからコレットの錬成に支障を来すかも、と思って根元にしたんだ。


「ねえ、コレット。マチルダのこと、聞いてもいい?」

「もちろん」

「コレットにとって、マチルダってどんなお祖母ちゃんだったの?」

「そうですね……。ボクにとってのお祖母ちゃんは、やっぱり憧れでしたね。両親はお祖母ちゃんのことを怖くて厳しい人だって言っていたんですけど、孫だからかボクには優しい人で。錬成以外のことも、たくさん教えてもらいました」

「あいつが人に対して厳しく、か……。笑っちゃうよ。犬なんかにビビってたくせに」

「あっ、それって昔からそうだったんですか!? お祖母ちゃん、犬嫌いでしたよ!」

「大人になっても治んなかったのか、あははっ」


 これは笑ったせいだ。笑ったせいで、ちょっとだけ涙が浮かんだんだ。


「子供の頃から犬に吠えられる体質か気質だったみたいでさ。鳴き声聞くだけで、ビクってなってたよ。だからさ、街のみんなはマチルダの悪戯対策にマチルダ用の番犬を飼い始めてさ」

「ええっー!? 嘘ですよね!?」

「ほんとだって! マジだから、これ」

「確かにうちの周り、犬飼ってる人、多いような……」

「マチルダ対策の名残だね」


 あたしたちは世界樹の枝の上で、これでもかってくらい大笑いしていた。

 その時に見たコレットの笑った顔。ちょっとだけマチルダに似ていた。悪戯に成功して、笑ったあいつの顔と、コレットの笑顔が重なったんだ。


「あっ!」

「どしたの?」

「そう言えばお祖母ちゃん昔、どうしても敵わなかった子がいた、って言ってたんです。敵わないって錬成のレベルのことかなと思って聞き返すと、全部、とだけ言って微笑むんです。もしかして、お祖母ちゃんが敵わなかった相手って……」

「うーん、あたしのこと、かもね」


 けど、もしそうだったとしても違うよ。あたしはマチルダには敵わない。あんたは人としての幸せを手に入れて、こんな風に孫娘にまで慕われているんだ。


 マチルダ。あんたの勝ち。あんたが最強。




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引き続き宜しくお願い致します。

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