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ほのぼの錬成



「リズぅ……お疲れ……」

「あっ、お疲れ様で……ほんと、お疲れな感じですね……」

「徹夜続きで論文纏めててさ、移動中の馬車でも書いてたら気持ち悪くなって……」

「ああっ、お水、お水ありますよ!」

「ごめん、ありがと」

「じゃあ、これだけ心労を削るほどの調査ができたってことですね」

「ごく、ごく……ぷはぁー……。まあ、そうね。

 謎を解く鍵は錬成だったのよ」

「……えっ? 錬成術ですか? な、何の話です?」

「例の出張宿屋のベッドのこと」

「あ、ああ……」

「今回の調査は回復ベッドの始祖にも繋がっていたものでね。私が分析する限りでは回復ベッドの作成は魔法と言うよりも、錬成術に近いものがあると思うの」

「確かに魔術と錬成術は原点が同じでも、そこから枝分かれした分野ですからね。似て非なるもの、って言えますもんね」

「うん。それでね……そのことを、もっと話したいんだけど……。あぁーダメだ。眠気が……」

「研究室のベッド使って下さい!」

「で、でも、話が……。は、話したくて……」

「私、まだここにいるので、寝て起きたらお話聞かせて下さい」

「う、うん……。じゃあ、ちょっとだけ……。ちょっとだけ、寝――」

「……おやすみなさい」



◇◇◇◇◇



「どう思うよ、二人とも」


 メノウム大樹海から帰って来た翌日、あたしたちはサンローイのグランベルジュでテーブルを囲んでいた。そのテーブルの上には一枚の紙。そこにはモブオとコモブが挙げてくれた、宿屋にほしいもの、が書いてある。


「宿で武具を売ってほしい。これはナシね。武器を売るには別の申請をしないといけないし、そもそも武具を入手するルートもないわ」

「だね。お客によって得物も違うし、それをいちいち揃えるのも手間だしね」

「酒場を併設してほしいと言うのも、私は反対です。そう言う宿屋があるのは確かですが、接客に人数を割ける余裕はないですからね。何より、オリヴィアさんの負担が大きくなってしまいます」

「あたしらはダンジョンやフィールドでお酒を飲ませるために宿を構えるわけじゃないしね。飲みたいなら自分で持って来て、勝手にどうぞって感じだよ」


 他にもいろんな案があったんだけど、最終的に残ったのは一つ。


「宿屋で錬成をしてほしい。これはどう思う?」


 さっきまではすぐに反対意見が出ていたんだけど、これに関しては二人とも腕を組んで「うーん……」と唸っている。


「いいとは思うんですよ。でも、これって完全にミアさんの分野ですよね?」

「客の身体強化に、必要があれば客の護衛。これをやりながら、錬成もできるの?」

「錬成する規模にもよるけど、いい回復薬を作ってほしいとか、武具に付加効果がほしいとか、そんな程度ならできるよ。ただ、あたしが使っている魔道具箱を作ってとか、高価なレアアイテムなんかが絡んでくると、そっちに集中しなきゃだから、他の仕事が疎かになっちゃうかも」


 お客の身体強化とか護衛とかはあたしの体力と魔力が続く限り、何回だってできる。けど、錬成術は違う。錬成に失敗してしまうと、その素材が全部無駄になっちゃうんだ。あたしの魔力があり余っていても、錬成素材がなけりゃ何にもできない。


「けど、面白いとは思うんだ。いろんなところに宿を出すから、いろんなところの錬成素材に出会える。しかも、客である冒険者が見付けて持ち込んでくれるんだから、あたしたちが採集する必要も特にない」

「確かに錬成で一番面倒なのは素材集めよね。それを宿泊客がやってくれるんだから、手間は半減ね」

「その素材集めの護衛をしてくれって頼まれる場合もあるかもだけど、それはそれで宿屋の収入に貢献できるしね」

「そうよ。あなた、不老不死なんだから不眠不休で働けばいいじゃない」

「不老不死でも眠いんじゃい!」



 あれこれ話し合った結果、錬成はやってみようってことになった。

 けど、まずは小さな依頼から。効果の高い回復薬を作ったり、武具を強化したり。その辺から初めて、どれくらいの需要があるのか様子見するんだ。

 錬成依頼の受付はクロエちゃんが担当してくれた。少しでもあたしの負担を軽くしようと頑張ってくれているのは、本当に嬉しかった。


「そう言えば、錬成ってどんな感じでやるんですか?」

「基本的には対象物の効果や効力を上げたり、それにまた別の違う能力や効果を付け加えたりするんだよ。ちょっとやってみようか」


 魔道具箱から取り出したのは、昔どこかの街の露店で買った、何でもない普通のペンダント。そして、この間倒したキングゴーレムの魔石だ。


「このペンダントは特に何もされていない普通のペンダント。こっちはキングゴーレムの魔石。これからやるのは、ペンダントに魔石の効力を付加させる錬成だね」

「魔石にはどんな効力があるんですか?」

「それはいろいろ、だよ。この魔石を持っていた魔物の特徴に由来することがほとんどだね。キングゴーレムは硬い体が特徴的だから防御力アップの効果とか、状態異常の耐性アップの効果とか、いくつか付けられそうな効力があるね」

「その中から一つを選んで、このペンダントを強化するってことですか?」

「一つしか無理ってわけじゃないんだけど、複数の効果を付加させる場合は魔導理論の構築がちょっと面倒になるんだよね。だから、今日は一個だけ。キングゴーレムの魔法耐性をこのペンダントに付加しようと思うの」


 次に取り出したのは紙とペン。あたしはその紙に、文字のような模様のような、魔法陣を描いていく。


「これは錬成陣。魔石が持つ魔法耐性の能力を抽出して、こっちに移し替えますよー、って書いてあるって思ってくれたらいいかな」

「この錬成陣を描くために、魔導理論を読み解かないといけないってことよね?」

「そう言うことだね。その素材が持つマナや魔力を分析して、文字と言うか模様にしていくからね。この魔石の分析はもう済んでたから、こうやってあっさり描けちゃってるけど、簡単な錬成でも一時間くらいはほしいかな」


 完成した錬成陣にペンダントと魔石を乗せて、掌を翳して魔力を注ぎ込む。すると、錬成陣が仄かに光り始め、ペンダントと魔石が淡い光に包まれていく。

 この時の魔力の調整がちょっと難しくて、弱かったり強かったりすると失敗しちゃうんだ。


「ペンダントと魔石が合体しました!」


 さっきまでのペンダントには小さなガラス細工みたいなものがぶら下がっていたんだけど、光が治まった錬成陣の上には赤紫の宝石が付いたペンダントに変わっていた。


「見た感じは成功したっぽいけど、念のために確認しておかないとね。オリヴィア、軽く魔法撃ってくれない?」


 あたしが手に持ったペンダントに、オリヴィアが火の玉を飛ばす。それはあたしの手前で綺麗に掻き消された。


「うん、成功だね。今みたいに弱い魔法なら完全に防御できるし、強力な魔法でもダメージを軽減してくれるはずだよ。だからこれは、クロエちゃんにプレゼントするよ」

「ええっ! い、いいんですか!?」

「もちろん。そのために作ったんだしね。ただ、付加効果は永久にあるわけじゃないから気を付けてね」


 ペンダントを大事そうに受け取ったクロエちゃんは、早速それを身に付けた。


「付加効果が切れちゃうと、このペンダントは壊れちゃうんですか?」

「ううん、ただの何でもないペンダントに戻るだけだよ」

「そっか」


 嬉しそうに笑うクロエちゃんの首許で、綺麗な魔石が揺れる。


「じゃあ、もしそうなったとしても、一生大切にしますね。ありがとうございます、ミアさん」


 くぅー……! この子ったら、無邪気な笑顔で何言うんだよ……!

 熱くなる顔を俯いて隠すのが、あたしにできる精一杯の抵抗だった。




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引き続き宜しくお願い致します。

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