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ほのぼの格闘



「や、ヤバい! こっちだ! 早く走れ!」

「お、俺はお前ほど足は……――」

「ちっ! 頼むぜ……。斬ってくれ、相棒……!」


 ザシュッ――


「た、助かった……」

「バカ、まだ仲間がいるぞ! 走れ!」

「く、くそ……。馬がやられてなけりゃ、こんなことには……」

「馬がいたらいたらで、あいつらの恰好の的だ。これが本体の……〈蛇神〉なら、馬なんて丸呑みだからな」

「わかってるよ、知ってるよ! けどよ、思っちまうんだよ!」

「……だな。馬がいれば、こんな惨めな敗走をしなくて済んだかもな」

「ああ! あと、早く〈グランベルジュ〉に行きたい!」

「それは心の底から俺もそう思うぞ!」

「早く、安心安全な宿屋に行きたい!」

「美味い料理もあるらしいからな!」

「死ねるわけ、ないよな」

「ああ。〈グランベルジュ〉に行くまでは」



◇◇◇◇◇



「ミアちゃんはさ、魔王様を、魔物を倒す勇者のパーティーに憧れて修行してたんだよね?」

「まあ、そう」

「なのに、魔物でサーカスするって言う私の夢は、笑わないでくれたね」

「……そだね」

「ありがとね、ミアちゃん」



 ふわぁー、よく寝た……。何か、昨日の夢見てたし。


 あたしは着替えをしながら、昨日イリアを見送った時の記憶と、今さっきまで見ていた夢を振り返っていた。


 誰かの夢を笑えるわけないじゃん。夢を叶えられる人なんて限られてる。多くの人が夢半ばで死んじゃう。

 あたしと違って。

 限られてる命で、限られた人しか叶えられないものを抱いているんだ。叶うわけないって心のどこかで思っても、別の心のどこかに大切に仕舞ってあるんだ。自分の夢を。


「さて、今日も一日頑張りますか」


 ぐぅーっと伸びをして、あたしは今日も夢への一歩を踏み出す。

 クロエちゃんとオリヴィアで、このグランベルジュを最高の宿屋にするって言う夢に向かって。



「リズ、ミーシャ、おはよう。朝ご飯、持って来たよ」


 リズにはクロエちゃんが別で個室を用意してくれたんだけど、昨晩の話が盛り上がっちゃって、そのままミーシャの部屋で語り明かしたみたい。


 ふふっ、リズは寝起きか。寝癖付いてんじゃん。ミーシャは普通に起きてるね。さすがは王都の学者ってこ……――。

いや、違うな。こいつ、普通に徹夜してんな。目、バッキバキじゃん。


「お、おふぁようごじゃいますぅ」

「おざーっす! ミアさん!」


 このテンションの違いな。いや、うるせえよ、ミーシャ。他の客に迷惑だから。


「ミーシャは徹夜で論文でも書いてたの?」

「姫睡蓮について纏めていたら盛り上がっちゃいまして……。イリアさんから聞いた魔族側からの話も興味深かったですし、本当にグランベルジュに来て良かったです」

「そう言ってくれると嬉しいよ。じゃあ、うち自慢の朝ご飯をどうぞ。リズはご飯食べてから戻る感じでいいんだよね?」

「は、はい。すみません、ご馳走になってしまって」


 リズの方も大きな収穫があったみたいだ。机の上にはレポートの束があった。そんなリズをミグリッドまで送り届けて、またメノウム大樹海に戻って来た頃。

 どうも森の奥が騒がしい。魔物の気配があちこち飛び回って、たくさんの鳥が鳴き声を上げて飛び立っていった。


「み、ミアさん、今のは……?」

「クロエちゃんは宿の中に。物騒な魔物が駆け回っているみたい」


 メノウム大樹海には絶滅危惧種だったり、珍しい魔物だったり、珍獣だったり。そう言うのがたくさんいて、そう言うのを研究しに来た学者がいるから、今回はトラップを仕掛けていないんだ。

 だから、あんまり呑気にはしてられない。


「急いで、中に入って! 宿の中は絶対安全だから!」


 森の奥からは探索に出ていたお客たちが逃げ帰って来る。それを誘導しつつ、あたしは森の奥へと進んでいった。

 細かい気配がたくさんあって、正体がわかりにくいな……。何だ? ウルフ系魔物の群れ?


「また冒険者だ。おーい、こっちこっち」


 こっちに駆けて来る冒険者が二人。ベテラン風なおじさんと、少し若めの二人組。あたしを見付けると、少し驚いた顔をしていた。


「お、お嬢ちゃんは冒険者か?」


 うん? あたしの顔を知らない? うちの客じゃないのか?

 ここに宿を構えてもうすぐ二週間。当然、全てのお客とは顔を合わせている。クロエちゃんと違ってあたしは全てのお客を把握しているわけじゃないけど、お客側はあたしのことを従業員だって認識しているはずだ。

 それなのにあたしを冒険者かどうか尋ねるってことは、この二人とは初めまして、ってわけだ。


「あたしはただの宿屋従業員だよ」

「や、宿屋だって!? じゃ、じゃあ、お嬢ちゃんがまさか――」

「それよりも、何に追われてるの? この数、普通の魔物じゃないよね」

「あ、ああ! これは〈ヘルバイパー〉だ!」

「……マジか」


 ヘルバイパー。ドデカい蛇の魔物で、昔はドラゴン属だと思われていた魔物だ。硬い鱗に覆われていて、剣にも魔法にも打たれ強い。

 あたし、うねうね系の魔物、苦手なんだよな……。キモいから……。


 一度にたくさんの子供を作り、子育て中のヘルバイパーの周りには数十匹の子蛇が付いて回っている。どうも細かい気配はそれみたい。


「おじさんたち、本体のお出ましだよ。後ろに下がってて」

「ほ、本当に任せてもいいのか?」

「ドラゴンに乗った気でいなよ」


 相手もドラゴンみたいなやつだけど。

 そのヘルバイパーは木々を縫うように、するすると高速で近付いて来る。そして、とうとう森の間から大きな顔を覗かせた。


「で、デカいぞ、これは……」


 腹を地面に付けて、頭を上げた高さでも十メートルあるかどうかってところ。全長にしたら、何メートルあるんだろう? 全体的に黒い体表で、ところどころに赤い斑点がある。

 見た目はちょっと毒々しいんだけど、こいつに毒はなかった。


「まずは、子供たちには退場願おうかな」


 ヘルバイパーの足許……――いや、足はないか……。傍には子蛇がたくさんいて、こっちを睨むように見つめている。一メートルくらいのまだ子供サイズだけど、あれでも人を噛み殺す牙を持っているんだ。

 だからって、無暗に討伐するわけにはいかないよね。


「はあっ!」


 右手を水平に振り払って突風を巻き起こす。まだまだ体の軽い子蛇たちは踏ん張りが利かなくて、森の奥へと吹き飛ばされていった。

 ちょっと強引にも思えるかも知れないけど、子供のヘルバイパーでも剣を弾く鱗を持っている。それに、下手に触らなくて済むから、こっちの方がいいんだ。


「さーて、お次は親ヘルバイパーの番だよ」


 もちろん、親の方も殺す気はない。今ここでこのヘルバイパーを始末してしまえば、あのたくさんの子供たちがどうなるか。そんなの、想像もしたくない。

 ただ、成獣のヘルバイパーを追い払うって言うのは、なかなか手間だぞ……。


「ちょっと加減して……」


 簡単な初期魔法をぶつけてみるけど、風の刃も火の玉も硬い鱗に弾かれてしまう。かと言って、本気を出せば一刀両断、一瞬で消し炭だ。


 ここまで大きいと麻痺や催眠なんかの状態異常の耐性もかなり高そうだし、拘束魔法をそこまでの効果はなさそうだな……。


「お、お嬢ちゃん、やっぱ手を貸そうか?」

「いやいや、何もしないで――」


 ああ、手か。この手でいけるか。


 あたしは自分自身に強化魔法を掛ける。普通の魔術師には必要のない筋力、腕力、俊敏性、回避力なんかの前衛ステータスを強化していった。


「い、一体何を……?」

「魔術師だって接近戦をするんだよ」


 素早く駆け込むあたしに、ヘルバイパーは自らの頭を叩き付ける。けど、俊敏性と回避力が上がったあたしは楽々宙へと回避。空中で無防備になったと思ったのか、ヘルバイパーはあたしを丸呑みにしようとする。

 けど、残念。さっきも言ったように、あたしは魔術師だよ。空を自由に飛べるんだ。


 丸呑みも瞬時に躱し、ヘルバイパーはあたしを見失ったらしい。きょろきょろと首を振る大蛇を、あたしは見上げて微笑んだ。


「こっちだよ、こっち」


 あたしはヘルバイパーのお腹の辺りに手を置いて、一気に魔力を叩き込んだ。


 見た感じは、あたしが掌底を食らわせたような感じだろうか。甲高い鳴き声を上げたヘルバイパーは蜷局を巻くように地面へと倒れ込んだ。




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引き続き宜しくお願い致します。

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