ほのぼの探索
「はあ……はあ……大変だ! た、大変なんだ!」
「どうした、そんなに慌てて?」
「い、今そこで聞いたんだけど……ぐ、ぐ、ぐら……」
「落ち着けって。マスター、水を頼むよ」
「はいはい」
「ぷはぁー」
「で? 何をそんなに慌てていたんだ?」
「聞いて驚け。何と今〈メノウム大樹海〉に〈グランベルジュ〉が来ているらしいんだ!」
「な、何だとぉおおおおおー!? お前、何でそれを早く言わねえ!」
「お前が落ち着けって言ったんだろうが!」
「そんなことより〈グランベルジュ〉だ! 〈メノウム大樹海〉だったら、馬を飛ばせば一日くらいで行けるじゃねえか!」
「ああ、そうだ! 〈サンローイ〉まで行く必要もないんだ!」
「すぐ出発だ!」
「ま、待てって! 俺も行くからよ!」
「お気を付けてー」
◇◇◇◇◇
宿から双子岩までは、何事もなく歩けても一時間以上は掛かる。そして、メノウム大樹海を歩いていて何事もないなんてことは、かなり少ない。
てなわけで、当然オリヴィアの料理を食べて、魔物との遭遇率は下げている。それでも完全にゼロになるってわけじゃないから、出て来た魔物はソッコーでぶっ飛ばしたい、ところなんだけど……。
「み、ミアさん! ちょっと、ちょっとだけ待って下さい! この〈グレムリン〉体毛の色が一般的なものと違うんです! 変異種かも! 気絶とかさせられますか!?」
「う、うん。いいよー」
「ミアさん! あ、あれ〈フレイムホーク〉ですよ! 滅多に出会えません! 撃ち落とせます!?」
「ああー、余裕だよー……」
「み、ミアさん!」
「はいよー。気絶させればいいんだねー……」
とまあ、リズのテンションが爆上がりで全然進めない。経験のために、って誘った手前、断るのもちょっと躊躇われるし。
「ご、ごめんね、ミーシャ。早く姫睡蓮のところに行きたいだろうけど――」
「いえ、全然平気です!」
「う、うん? ミーシャ、何してんの?」
しゃがんで地面を見つめるミーシャは、ノートに凄まじい勢いでペンを走らせている。
「これ〈万年苔〉です! 栄養が豊富で、魔物にとっては薬草みたいなものなので、普段は魔物が群がってよく観察できないんです! けど、今はミアさんのお蔭で集中できます!」
「へ、へぇー……そっかー、良かったねー……」
二百年生きてるけど、学びはまだまだあるもんだ。
学者を二人連れて歩くのは、めんどい!
「ところでさ、姫睡蓮って昔は美容に使われてたよね」
「そうなんです、よくご存知ですね。その花の美しさ故に、その花を擦り潰したエキスを塗れば、綺麗になれるって思われていたんです。けど、随分昔に何の効果もないことがわかりました」
「やってたよなー、あたしも。意味ないって聞いた時は笑ったけど」
「……百年以上前の話ですけど?」
「うん。知ってる。あたし、不老不死で二百年生きてるから」
「え? ええっ?」
確認を取るように、ミーシャはリズに目をやる。すると、リズは力強く頷き、ミーシャはメノウム大樹海に轟く大声で驚いていた。
「じゃ、じゃあ、姫睡蓮が普通にそこら辺に生えている時代を知っているんですか!?」
「知ってるよ。美容に効果がないってわかっても、その香りが良かったから香水の代わりに使っている人もたくさんいたね」
「い、いいなぁー……」
「一時期、爆発的に姫睡蓮の香りが流行った時があったの。その時は道行く人みんな、街中が姫睡蓮の香りになっていた。けど、それに腹を立てたのがレストランや食堂なんかの飲食店なの」
「えっ? な、何でなんですか?」
「みんながみんな、姫睡蓮の香水をするもんだから、店の中までもその香りで充満されちゃうの。そしたら、せっかくの美味しい料理の匂いが消されちゃうでしょ?」
「あ、ああー、なるほど……」
「それで、姫睡蓮の香水着用のお客はお断り、みたいな店が結構出たんだよ」
「へぇー、それは初めて聞きました! ミアさん、昔の話、もっと聞かせてもらってもいいですか!?」
「あっ、私も聞きたいです!」
ふむふむ。じゃあ、昔話でもしますかね。そしたら二人もあたしの話に集中してくれて、先へサクサク進めそうだ。
双子岩に辿り着いたのは、宿を出発して二時間が過ぎようとしていた頃だった。帰りは転移魔法で宿まで戻ればいいから、時間的な余裕はまだある。
それに、のんびりする必要性はないんだけど、ちょっとばかり慎重に行った方が良さそうなんだ。
「思っていたより数が多いね……」
まだ姿は見えていないけど、奴らは高い魔力を持つ分、感知もしやすい。
ミーシャの話し方からして、多くても十体くらいかと思っていたんだけど……。多分、二十体はいる。レアケース、なんて言葉は不似合いだ。こりゃ、異常事態、だね。
「リズ、アンクルデーモンは二十体近くいそうなんだけど、推測される原因って何だろう?」
「に、二十体ですか!?」
「ああー、あんまり大声出さないでね?」
「ご、ごめんなさい……!」
「いや、全然普通に二人を守れるけど、一気に襲ってきたら瞬殺しなきゃじゃん? リズだって少しは観察したいでしょ?」
ごくり、と喉を鳴らしたのはどっちの意味だろう。襲われる恐怖か、二十体のアンクルデーモンを瞬殺しちゃうあたしにか。
「その場所のマナや地脈がいいと言うのなら、ずっと以前からそんな状態だったはずです。だとしたら、絶対噂になっていますし、私たち学者が調べに行っています。けど、そんな話は一切ない。つまり、アンクルデーモンの集まりは最近になってからの現象だと思われます」
「最近になってマナが溜まるようになった可能性は?」
「大いにあります。地脈の変化によってマナも増減しますからね」
確かにこの辺りのマナは濃いみたいなんだよな。マナは魔力の源のようなもの。濃いと魔力の流れがスムーズになって、普段とは少ない魔力で普段通りの魔法を発動することができる。
魔術師にとって、燃費のいい場所、みたいなことかな。
「ただ、二十体も集まるって言うのは異常ですよ……。原因がそれだけだとは思えません」
「もう少し近付けそうだね。二人とも、絶対にあたしから離れないでね」
木陰に隠れながら、あたしたちは静かに進んでいく。少しだけ甘い香りがするのは、姫睡蓮に近付いている証拠だ。あたしにとっては懐かしい香り。
「……見えたね」
アンクルデーモンの群れと、その足許に咲く姫睡蓮が。
あれだけの数の魔物がいながら、今のところ折れた花は見当たらないのは、あいつらも踏まないように気を付けて歩いているってことなんだろうか。
「あ、あそこ……! 誰かいませんか?」
ミーシャが指差す方。そこには、大樹海の緑に溶け込みそうな鮮やかな緑色の髪をした、誰かが立っていた。あれは間違いなく……魔族だ!
「魔族がアンクルデーモンの群れの真ん中に……? おいおいおい……! これってちょっとヤバいところを目撃しちゃったんじゃないだろうね……!?」
魔王は倒れたけど、魔王軍が壊滅したわけじゃない。軍として機能しているのかまでは知らないけど、まだ存在しているのは確かだ。そして、その中にあった部隊の一つが魔物部隊。
もちろん、まだあの魔族が魔物部隊の軍人なのかはわからない。けど、魔族すら襲われることのあるアンクルデーモンの群れの中で平然と立っているなんて只者じゃないし、これは只事じゃない。
「まさか、魔物部隊がここで密かに演習か訓練をしている、とか……?」
「かも知れない。けど、リズのその予想が当たったら結構大変なことだよ。あの数なら王都も攻められるレベルだからね」
「すぐに戻って国王軍に報せた方が……」
「……いや、ここで止めておくべきかも」
転移魔法で王都にはすぐ飛べる。けど、ここにはうちの客である冒険者や学者、それに何よりクロエちゃんとオリヴィアがいるんだ。みんなが襲われないとも限らない。
「二人はここを動かないでね」
念のため、二人の周りには何重もの魔障壁を張っておいた。これで流れ弾も安心だ。
……って、油断した部分があったのかも知れない。
魔障壁を張るのには当然、魔力を使う。と言っても、あたしにとっちゃ微々たる魔力だ。相手に気取られるわけがない。そう思ってた。
「ま、まさか……!?」
この距離で気付かれた……!?
きょろきょろと辺りを見回していた魔族の目が、遂にあたしたちを捉えた。
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『金髪不良霊媒体質JKと陰キャ心霊写真オタクのレトロな怪談』と言う新しい作品を投稿しました。
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