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ほのぼの再会



「なあ、最近噂の宿屋〈グランベルジュ〉って知ってるか?」

「いや、知らない。それがどうした?」

「俺も噂話しか知らないんだが、何でもその宿屋はどこにでも宿を構えてくれる、出張宿屋らしいんだ」

「どこにでも? ダンジョンやフィールドにも、ってことか?」

「そうらしい。で、そこの従業員の魔術師がかなり強いらしいんだ。だから、てっきりお前の元仲間なのかと思ってな」

「俺の仲間だった奴に宿屋を始めた奴はいないな。強いってどれくらい強いんだ、そいつ」

「話だと〈ホワイトグリズリー〉を殲滅したとか、〈ファントムウルフ〉の群れを討伐したとか」

「ふーん……」

「まあ、パーティー組めばそれくらいは可能だろうがな」

「当たり前だろ。そいつ一人でやったわけじゃないさ。宿屋の従業員って言う肩書がちょっと変なだけだ」

「元冒険者って可能性もあるだろうし」

「まっ、俺なら一人でも余裕だがな」

「言うねぇ」

「何と言っても俺は勇者様、だからな」



◇◇◇◇◇



「久しぶり、リズ」

「あっ、ミアさん! お久しぶりです。どうして研究所に?」


 他の研究員の人にリズの居場所を聞くと、研究室にいるだろうって言うから顔を出してみると、一発でリズを発見。手を振るあたしを見て、ちょっと驚いている。


「実は今、メノウム大樹海に出張してるんだけど、そこで別の依頼を受けたのね。簡単に言うと護衛依頼みたいなものなんだけど、何から依頼者を守るかって言うと、アンクルデーモンの群れなの」

「あ、アンクルデーモンの群れ!? 彼らは群れる習性はほとんどないはずなのに……」

「まあ、群れなのか、何かに引き寄せられているのか。それはわからない。何でも、その辺りに姫睡蓮が群生しているみたいなの。それが何かの要因になっている可能性はあるよね」

「そうですね。姫睡蓮の群生も珍しいことですから、何らかの因果関係があっても不思議じゃありません」

「うん。だからさ、そう言うの調べてみたらどうかな、って思ってね。リズ、サメが専門って言ってたけど、生物学者として珍しい現場に立つのはいい経験になるんじゃないかな?」


 メノウム大樹海は危険な場所だし、アンクルデーモンも凶暴な魔物だ。だから、少しは悩むかなって思ったんだけど、リズは目を輝かせていた。


「いいんですか!? 私が同行しても!?」

「そのために来たんだしね。ああ、もちろん宿泊費はいらないから。今回はあたしからの依頼、みたいなもんだし」

「また、あのふかふかのベッドで眠れるなんて夢みたいな――」


 と、そこまで呟いたリズが突然「あっ!」と口を大きく開けた。


「そうだった。クロエさんのことで少しお話が……」

「クロエちゃんの? もしかして何かわかった?」

「それが実は……――」



 ふむ……なるほど。

 回復ベッドが生まれた経緯は未だ不明で、生まれた地だけはわかっていて、それがサンローイ。そこに住むクロエちゃん。こんな偶然ありますか、と。


「やっぱり一度実物を見てみないことには詳しい分析はできないだろう、と」

「その研究員は今どうしてるの?」

「それがタイミング悪く、ミグリッドにはいないんですよね……。論文作成のフィールドワークで……」

「だったら、わざわざ呼び出すのは申し訳ないね。今回はここまでの情報で我慢しようか。次、機会があったら是非泊まりに来てよ」

「はい。伝えておきます」


 じゃあ、こっちの調査を進めますか。

 リズにも準備があるだろうから三十分後に街の噴水広場で待ち合わせして、そのまま宿まで転移した。


「リズさん、お久しぶりです」

「久しぶり、リズ。元気にしていた?」

「お久しぶりです、クロエさん、オリヴィアさん。私は相変わらず研究に追われる日々ですよ」


 二人の出迎えにリズも笑顔が零れていた。


「けど、新聞見たわよ。『歴史的大ニュース!!』って取り上げられて、ちゃんとリズの名前まで載って、凄いことじゃない」

「いえいえ、皆さんの協力があってこそ、ですよ」

「うちの名前も出してくれて、いい宣伝になったわ」


 しまった、忘れてた……。こう言う大人な対応、しれっとできるんだよなぁ、オリヴィアって。見習わないとな、あたしの方がめっちゃ年上だけど。


「ミアさんに話を聞いて、リズさんの部屋は用意しておきました。もう出掛けられるなら、お荷物は運んでおきますよ?」

「どうしましょうか、ミアさん?」

「うーん、まずはこの依頼の依頼主と顔合わせしといた方がいいんじゃないかな? あたしも現地の詳しい状況はまだ聞いてないし、そこで何かわかることもあるかもだしね」

「じゃあ、まず部屋で話をしてみましょうか」

「そうしよう。リズは先、部屋行ってて。あたしが呼んでくるから」


 今回の依頼主である植物学者の女性の部屋を訪ねると、彼女は嬉しそうに飛び跳ねてから、あたしの後ろを付いて来た。早速、現地調査ができることが嬉しいんだろう。

 学者あるある、なのかな。リズもリムル島では凄く楽しそうだったし。


「じゃあ、紹介するね。今回、同行してもらうことになった生物学者のリズだよ」

「初めまして。私は植物学専門のミーシャって言います」


 そう言えば、ほんと今更だけど、この子の名前聞いてなかった……。


「私はミグリッドの研究所所属なんですけど、ミーシャさんはどちらで研究を?」

「わ、私はその……王立研究所の方で……」

「す、凄い! 王都の研究者さんなんですか!?」


 更に初耳だよ。この子、国王が設立した研究所の学者だったんかい。

 多分、年はリズとそう変わらないと思う。けど、地位やレベルで言えば、ミーシャはリズの上。ただ、自慢げに胸を張らず、謙遜する姿は微笑ましく思えた。


「そ、そんなこと……。それに! ミグリッドのリズさんと言えば、イッカクザメを発見した方じゃないですか! あれは分野を問わず、世紀の大発見ですよ!」

「あ、あれはミアさんたちの協力があったからこそで……。それを言えば、姫睡蓮とアンクルデーモンの群生地を見付けたミーシャさんの方が……――」

「いやいや、リズさんの方が……――」


 いかん。全く話が進まない。


「謙遜し合うのはそこまで。お互い凄い学者ってことでいいでしょ。

 じゃあ、話を始めようか。ミーシャ、姫睡蓮を見付けたのがどの辺りか説明できる?」

「はい。大樹海の西側、双子岩の更に奥です」


 広大すぎる大樹海を正確に表す地図は存在しない。だから、何かを発見しても、また同じところに辿り着くのは至難の業。

 そんなわけで双子岩とか、ドクロ岩、あとは恵みの湧き水、オーガの風穴などなど……。そんな風な地形の変化や特徴的なシンボルを、探索者は目印として脈々と受け継いでいっているんだ。


「双子岩の更に奥か……。確かにあっちの方には水脈がいくつか走ってるね。植物が育つにはいい環境だ」

「水脈の流れはマナや地脈の流れとも密接しています。アンクルデーモンが群れる要因もそこにあるのかも知れませんね。ミーシャさん、その個体の大きさってどれくらいでしたか?」

「おおよそですが……三メートル、かと」


 驚きはなかった。体長三メートルは平均的な大きさなんだ。

 けど、その大きさで魔物軍の筆頭を務めるようなレベル。アンクルデーモン一体で滅びた町も、過去にはあるんだ。

 リズは、驚く代わりに息を呑んだ、って感じなのかも。


「三メートルクラスがうじゃうじゃと、ですか……。ミアさん?」

「うん?」

「だ、大丈夫ですかね?」

「あぁ、余裕も余裕。あたしにとっちゃアンクルデーモンなんて、ビスクがちょっと強くなったくらいだよ。ビスクが十人いようが二十人いようが、負ける気はしないね」

「頼りにしてます」


 リズは安心したように笑ってくれるけど、話を知らないミーシャにとっては何のこっちゃ、だろう。あたしが身体強化魔法に優れているって言うのは知ってくれてるけど、あたしの実力を知らないミーシャに不安が残るのは当然だ。

 だからあたしは、努めて、大袈裟に、堂々と胸を張った。


「大丈夫。任せて。あたしは元勇者パーティーの男をデコピンで倒した女だよ」

「あっ、ミーシャさん。これ、マジのマジですから。誇張じゃないです」

「リーズー? 何で今付け加えた? あたしの言葉だけじゃ信じるに足らないと思ったのかな!?」

「ち、違います! 違いますから、こめかみをグリグリしないで下さーい!」


 姉妹みたいに戯れるあたしたちを見て、ようやくミーシャが安心したような笑顔を見せてくれた。



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引き続き宜しくお願い致します。

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