ほのぼの討伐
「オルレアン様、先日パトリック様がミア殿に〈ファントムウルフ〉討伐の依頼をしたそうなのですが……」
「うむ。報告書の写しか。どれ……」
…………。
「こ、この数で間違いないのだな、ウェル?」
「はい。私も目を疑いましたが、回収された素材の数とほぼ一致します」
「何と……これだけのウルフの群れをたった一人で……」
「これは勇者様に匹敵、いえ、魔力に関しては勇者様を超えているのではないでしょうか」
「かも知れん。一つ確かなことと言えば、彼女を敵に回さなくて良かった、と言うことだな」
「そうですね。そこで一つ提案があるのですが?」
「何だ?」
「騎士団を〈グランベルジュ〉で特訓させるのはいかがでしょう?」
「ミア殿に訓練して頂く、と言うことか。そして、その際の宿を提供してもらう、と」
「あまりに人数が多いと迷惑でしょうし、魔術師部隊だけに絞るのが良いかと」
「うむ。いい提案であると思うが……ミア殿は受けてくれそうか?」
「……八割方、断られるかと」
「ふふっ、いいだろう。ダメ元で聞いてみよ」
◇◇◇◇◇
それにしても広い。いや、広すぎんだろ、メノウム大樹海。
あたしは歩き疲れた結果、浮遊魔法を使ってぷかぷか浮かぶことにした。
「ミアは初めてなの、ここ?」
「いや、むかーし昔にキャンプしたことあるよ。二、三年」
「二泊三日じゃなく? 二、三年? 不老不死と話してると時間の感覚がズレてくるわ……」
「まあ、あたし自身が時間の感覚とか皆無だからね」
ちょっと足の痺れもマシになったかな。ここからは歩こう。
浮いてると体力は使わないけど魔力は消費するからね。
「まだ修行中の頃の話でね。故郷の山奥だけじゃ飽きてきて、場所を変えてみようって思ったの。世界最高峰の山の頂上とか、永久凍土の雪原とか、魔獣蠢くサバンナとか」
「そんなだから世間との接点がなかったのね」
「あの頃は修行大好き修行オタク、だったよ。黒歴史だね、マジで」
「死んだ魚の目になってるわよ。それで、その修行でここにも来た、と?」
「うん。修行しつつサバイバル生活すれば鍛錬も二倍になるんじゃないか!? とか思ってね。結局二年半くらいだったかな? ここに籠って生活してみたけど、それでもこの大樹海を制覇することはできなかったよ」
バカにした目であたしを見てくるけど、そんなバカでも全てを歩き回れないほどバカ広いのがメノウム大樹海なのだ。
「メノウム大樹海ツアー、みたいなのやってみたら? リズみたいな学者たちが食い付くなんじゃない?」
「おおっ、いいかも、それ!」
「けど、一組限定ね。護衛をできるとしたらミアだけだもの」
「最強の天才魔術師でも面倒見きれる数には限度があるからね。それに、ここは凶暴な魔物がうじゃうじゃいるし」
そう言うところも修行には打って付けの場所だったんだ。
今回、依頼してきた冒険者たちは腕に覚えがありそうな感じだったし、学者たちの方も腕っ節のいい護衛を付けているみたいだった。だから、そこまで心配はしてないんだけど……。
「うーん? 囲まれてるね、あたしたち……」
「囲まれるまで気付かないってことは、相当なレベルの魔物ってこと?」
「いや、気配は察知していたんだけど、数がそこまで多くなかったからこっちを狙ってるって思わなかったんだよね」
前方、左右に三体。群れで狩りをする魔物にしては少ないし、単独ハンターがたまたま集まったにしては陣形が整いすぎ。
何だろ……? こう言うタイプの魔物はここで出会った記憶はないな……。新種かな……?
「オリヴィア、ちょっと下がってて」
ドスドス、と大きな足音が響く度に地面も僅かに揺れる。草木を踏み付けているのか、メシメシと軋む音もする。
大型の魔物だ……! ドラゴン!? オーク!?
「ご〈ゴーレム〉か! それにしては……デカいじゃん、こいつら!」
全身を岩に覆われた人型魔物ゴーレム。こいつの平均サイズは二メートル前後。背の高い男性ほどだ。
けど、現れた三体のゴーレムはどいつも五メートルは確実に超えている。
「私も初めて見るサイズよ……。これは〈キングゴーレム〉ね……」
魔物の中にも何かの影響で大きく成長する奴がいて、そいつらには「キング」の名を付けるのが定番なんだ。デカいゴブリンならキングゴブリン、デカいオークにはキングオーク、みたいに。
「こりゃ、硬そうだね……。近接攻撃は無理そうだ。だから……!」
あたしは掌に旋風を巻き起こし、両腕を振り払った。風魔法〈ウインドカッター〉だ。籠めた魔力量は鉄も簡単に斬れるレベル。
けど……。
「弾かれたかぁ……。何、こいつ? 魔法耐性でもあるの?」
「……みたいね。体を覆う岩石の中にいくつかの鉱石が確認できるわ」
「面倒な奴……」
宝石や鉱石には魔法に耐性があったり、弾いたりするものがある。それが体の中に混ざっているらしい。
ちなみに、それを見抜いたオリヴィアが使った魔法は〈ウィークネスアイ〉だ。自分の目に魔力を集中させ、相手を分析する魔法。
「斬撃がダメなら感電でどうだ」
次なる手は〈サンダーフレア〉。ライトニングの上位魔法で、暴れ狂う雷はドラゴンのようだ。
そのドラゴンが大きな口を開けて三体のキングゴーレムを呑み込むと、雷が弾けて、いくつかの稲妻がこっちに飛んできた。
「うおっ、危ねぇ……。雷系は弾くのかよぉ……」
咄嗟に魔障壁を出して防いだけど、周りの樹や草が黒焦げになっている。
魔法の効果も全然なかったようで、キングゴーレムには傷一つ付いていない。
「ミア、どうするの?」
「うーん……」
こんなところで炎魔法は気が引けるんだけど、仕方ない。炎症範囲を絞り込めば、山火事になることはないよね。
「火で攻める!」
両手を突き出し、掌をキングゴーレムに向ける。宙に赤い紋章陣が浮かび、あたしを中心に旋風が起こる。
賢者クラスの炎魔法〈ヘルフレイムバースト〉
「ま、魔法は効かないんじゃ……?」
「ダメージとしては、ね。けど、弾こうが耐性があろうが、熱されることは間違いない」
紅蓮の炎がキングゴーレムを取り囲む。でも、岩の塊であるあいつらにとって、炎は恐れるようなものじゃない。感覚があるのか知らないけど、痛くも痒くもないんだ。
ただただ、その体が熱くなっていくだけで。
「それを一気に冷やせばどうなるかな?」
指を鳴らすと炎は消え、あたしはすぐさまウォーターボールを発動させる。大量の水が熱されたキングゴーレムに降り注ぐ。すると、真っ白な蒸気が一気にぶわーっと上がり、
「バキン!」
と、破裂音を響かせた。
蒸気が晴れると、罅だらけのキングゴーレムの体が露わとなり、風に攫われるように少しずつ崩れ去っていった。
「なるほどね。炎は体を熱くさせるだけで、ダメージは急激な温度変化によって与えた。それは魔法でも何でもないから、耐性の有無は関係ないと言うことね」
「岩の鎧さえ剥がれれば、こっちのものだからね。あとは拳でもどうにかなっただろうし」
「それにしても、あのサイズのゴーレムをほんの数分で攻略とは……。次に立つ魔王様が不憫でならないわ」
「アルルが魔王になってくれたら、人間と友好関係が築けそうだけどね」
「歴史がそれを許すかどうかでしょうけど……個人的にはそうなればいいな、と思うわ」
アルルみたいな可愛い子が魔王だったら、人間も殺気立つことはないでしょ。ただまあ、魔族側がアルルを魔王と認めるかどうか、が何よりの問題なんだけど。
「それよりさ、このキングゴーレムの魔石、何かに使う?」
「いえ、私は特に」
「じゃあ、あたしが貰っちゃうね。錬成に使えそうだし」
魔物の中には体内に魔石を取り込んでいるものがいる。これは強い魔物ほど純度が高く、質のいい魔力を帯びているんだ。だから、錬成術を使って魔道具を作ったり、武具を強化したりするのに使える。
「ミアは魔術師なのに錬成術もやるのね」
魔術師と錬成術師はどっちも魔法を使うけど、職業的には別物になる。普通はどちらかを極めるか、魔術師なんだけど趣味や嗜みとして錬成もやるか。そんな程度だ。
「暇だし錬成術もマスターしとこうかなーって思ってさ」
「不老不死の行き着く先は暇人なのね」
「うるさい……って言いたいところだけど、強ち間違いじゃないよね」
あはは、と苦笑いするあたしを、オリヴィアはどこか不憫そうに見つめてくるのだった。
よければ、いいね ブックマークして頂けると励みになります。
引き続き宜しくお願い致します。




